第百七十二話・青髪の魔人
「さあ……始めましょうか……」
リトは穏やかになびく青いオーラを身に纏い、静かにスケルトンキメラに近付いた。
雰囲気もまるで別人のように落ち着きのあるクールなものだった。
「リト……リトなのか…… ?」
一同はリトの変貌ぶりに驚愕していた。
一見穏やかそうに見えるがリトから感じる魔力はかつてとは比べ物にならない程研ぎ澄まされ、上昇していた。
「何だ……何なのだ…… !?その青き姿は…… !?」
数千年前から因縁のある魔王でさえ知らない様子だった。
得たいの知れないリトの変化にスケルトンキメラは戸惑いを隠せず、後退りをした。
「全てを焼き尽くす激しい炎を穏やかで暖かい青い炎で内包し、魔力のコントロールを極めました……名付けるなら……蒼炎形態……と言った所でしょうか……」
リトは優しい口調で語った。
青い炎は赤い炎よりも温度が高く、安定している。
今のリトは穏やかで落ち着いていながら究極の激しい力で完全燃焼している状態だった。
「どんな姿になろうと、貴様は我に勝つことは出来ぬ !永遠になぁ !」
焦りを見せたスケルトンキメラはリトに噛み付こうと襲い掛かった。
「指撃青熱線 ……」
ピシュンッ
リトは小声で呟くと人差し指を突き出し青く輝く熱線を放ち、スケルトンキメラの体を貫いた。
「ぐはっ !?」
スケルトンキメラは胴を貫かれ、思わず足を止めた。
リトは間髪入れずに目にも止まらぬ熱線を連続して浴びせた。
光の速さで放たれる熱線はスケルトンキメラの目でも捉えきれず、蜂の巣となった。
「ぐわぁぁぁぁぁ !」
スケルトンキメラは全身穴だらけになり、苦しそうに呻き声を上げた。
「おのれ……少しスピードに自信があるからと言って……調子に乗るな !」
スケルトンキメラは激怒しながら大木のように巨大な足を振り上げ、リトを踏み潰そうとした。
だがリトは高速で空まで移動し、スケルトンキメラを見下ろす位置に停止した。
「スピードだけではないですよ……」
リトは即座にスケルトンキメラとの間合いを詰め、残像が残る程俊敏に動き、スケルトンキメラの顎を殴りつけた。
「ぐほあっ !」
パンチを喰らって怯むスケルトンキメラにリトは容赦なくキックの連打を浴びせた。
まるで光が空中を泳いでるように見え、ヴェルザード達もリトの動きが読めなかった。
速さだけではない。リトの繰り出す攻撃の一撃一撃が重く、スケルトンキメラを形成する骸の鎧を破壊する程だった。
鋼のように硬く頑丈だった骸の鎧はボロボロで見る影も無かった。
「はぁ……はぁ……ぶっ !?」
ドゴォッ
リトは休む暇すら与えず、秒速でスケルトンキメラの頬に渾身の一発を叩き込み、60メートルある巨体を宙に浮かせ、吹っ飛ばした。
大地を削り、瓦礫を撒き散らしながらスケルトンキメラは滑るように転がっていった。
魔王と言えど、まるでリトのサンドバッグ
のような扱いだ。
「貴様ぁ…… !」
ゆっくりと重い巨体で起き上がろうとするスケルトンキメラ。
リトはスケルトンキメラを見下ろすと指から火を灯した。
「火竜の召使……」
リトは自らの炎から燃え上がる小型の竜を数匹生み出した。
「行きなさい……」
リトは静かに言い放つと火竜達は一斉にスケルトンキメラに飛び掛かった。
「雑魚共が……灰にしてくれる !」
スケルトンキメラは炎を吐き迎え撃つが火竜達は颯爽とかわし、火炎弾を雨のように浴びせた。
チュドドドド
「ぐふぅっ !」
ダメージを受け、地面に手をつきダウンするスケルトンキメラ。
火竜達はこの機を逃さず、倒れているスケルトンキメラに向かって全身隈無くしがみついた。
「離れろ !何をする気だ…… !」
火竜達は全身を発光させると一斉に大爆発を起こした。
「ぐわぁぁぁぁぁぁ !!!」
スケルトンキメラは火竜達の自爆に巻き込まれ、大炎上した。
この場にいる全員が見守る中、黒い煙が晴れると、片膝をついてる満身創痍のスケルトンキメラの姿があった。
弱体化している中、あれだけの攻撃を受けてもなおも立ち上がってくるという不気味なまでのタフネスを見せた。
「イフリートめぇ…… !かつての肉体さえ取り戻せれば貴様なんぞ…… !」
スケルトンキメラは悔しそうに身を震わせ、地面を殴りクレーターを作った。
リトは上空に立ち、哀れみの表情を浮かべながらスケルトンキメラを見下ろした。
既に決着は着いたも同然だった。
力の衰え始めたスケルトンキメラと今の覚醒したリトでは話にならない。
「貴方の力は所詮借り物……偽りの力を誇示しているようでは私を倒すことなど出来ません 」
「黙れぇ !イイ気になるな !貴様こそ我に力を与えられ、伝説の魔人として名を馳せたではないか !」
スケルトンキメラは歯軋りをしながらリトを睨み付け、叫んだ。
「私はこの力を……大切な人を守る為に使っています……伝説などという称号など要りません……私は昔から、誰かを守れる強さが欲しかったんです……」
「リト……」
スケルトンキメラは口を大きく開き、標準を上空のリトに定めた。
「貴様の矜持など知ったことか……我に逆らう者は皆灰になれば良い !怒りの火炎放射 !」
スケルトンキメラはリトに向かってフルパワーの火炎放射を一直線に放った。
「魔人五分身 !」
リトは何と五人に分身し、スケルトンキメラの火炎放射を避けた。
「僕の分身技と同じ !?」
クロスは驚愕しながら反応した。
「何処まで我をこけにすれば気が済むのだ…… !」
五人に増えたリトはスケルトンに標準を合わせ、一斉に掌を前に突き出した。
「何をするつもりだ……やめろ……やめるんだ !」
リトの意図に気付いたスケルトンキメラは激しく狼狽し、震えながら後退りした。
怯えるその姿に最早魔王の面影は微塵も感じられなかった。
「これでトドメです……蒼燃焼巨砲 !」
ボォォォォォォォォォォ
五人のリトは青い熱線を同時に発射し、スケルトンキメラの全身を焼き尽くした。
「ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ !!!」
スケルトンキメラはかつてない絶叫を上げながら火だるまとなった。
「魔王様ぁぁぁぁぁ !!!」
黙って観戦していたがいても立っても居られなくなり、無謀にもミーデは加速し、スケルトンキメラを助けようと飛び出した。
だが爆発の余波に巻き込まれ、ミーデは悲鳴を上げながら炎の海に飲まれていった。
「イフリートォォォォォォ !!!」
スケルトンキメラは青い炎にその身を喰われながら、計り知れない怨嗟を込めながら断末魔を上げた。骸の鎧は炭になって崩壊し、爆炎の中へ消えていった。
To Be Continued




