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ランプを片手に異世界へ  作者: 烈斗
突入、魔王城編
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第百七十話・リト救出作戦



スケルトンキメラによって私はあっけなく吸収されてしまった……。

だが実はこれは一つの賭けだった。

魔王が私との約束を守る保証がないのは分かりきっていた。

私を吸収した後、仲間達を問答無用で殺すつもりなのは火を見るより明らかだった。

だから私はあえて騙されたふりをし、魔王の体内に侵入することに成功した。

スケルトンキメラの中に囚われたリトを助ける為に……。




「ここが……魔王の体内……」


その場所は私の想像を遥かに越えていた。

まるで生き物の体の中のように暗く、不気味に蠢く触手の集合体で出来た肉壁に囲まれ、鼻が折れ曲がりそうな異臭が漂っていた。

私は意を決して粘液の沼を歩いていた。


「待っててね……リト……」




奥へ進むと、私は信じられない光景を目にした。

十字架に磔にされたように無数の触手に囚われ、気を失っているリトの無惨な姿を発見したのだ。

病人のように痩せ細り、頬はこけ、目の下には隈が出来、別人のように変わり果てていた。


「ひどい……今助けるから…… !」


私はすぐにリトの側に駆け寄り、リトを縛り付けている触手を引き剥がそうとした。


「貴様……何をしているのだ ?」


突然背後に男が現れ、私を羽交い締めにした。


「ぐっ……離し……てっ…… !」

「そうはいかん……貴様……我の、体内に取り込まれたふりをし、イフリートを救い出しに来たのだろう…… ?大した作戦だが、ここまでだな !」


黒いマントを纏い、ミノタウロスよりも巨大な二本角を生やした長身の男……。

威厳あるその姿こそ……まさしく魔王サタンその人だった。

最悪だ……後少しの所で見つかってしまうなんて……。


「この姿は我の本当の姿だ……最も、魂だけの状態だがな……」


魔王は鍛え上げられた強靭な腕で私の首を締め付ける。

私は呻きながら必死に手を伸ばした。

だが有り得ない程力強く締め付けられ、私は意識が飛びそうになった。


「くっ…… !」

「大人しそうに見えて油断ならぬ狡猾な女だ……二度と我に逆らえぬように教育する必要があるな…… !」


締め付けは更に強くなり、私はリトを目の前にして、意識が朦朧とし出した。

このままではスケルトンキメラの体内で二人とも消滅してしまう……。


「リ……ト……」


私は今にも消え入りそうな声でリトの名前を呼んだ。

その時……ランプが突然眩い閃光を放った。


「またこの光か…… !」


魔王は眩しさに怯み、思わず手を離し、目を両手で覆った。

私はその隙を突き、もう一度リトに近付いた。


「リト !」


シュパパパ


私は風の魔力を両手に纏うと手刀を振るい、触手をバラバラに切り裂いた。

触手から解放されたリトは倒れ込み、寸での所で私は抱き締めた。


「リト……しっかりして…… !」


リトはまるで枯れ木のように衰弱しきっていた。

私はリトに必死に呼び掛け、揺さぶった。


「無駄だ……イフリートは我の糧となるのだ……もう陽の目を見ることはないぞ !」


視界が戻った魔王は両手を広げ、私を嘲笑った。


「そんな……リト……お願い……目を開けて……」


私は涙を溢しながらもリトの手を優しく握り、魔力を送った。


「貴様の魔力をイフリートに分け与えるだと…… ?そんなことをしても無駄だ !」


魔王はゲスな表情を浮かべながらゆっくりと私に近付いた。

私は気にも止めず、リトに魔力を送り続けた。

リトが目覚めるのを信じて……。

魔力を注ぐうちにリトの体に僅かながら変化が訪れた。

顔色は徐々に良くなり、痩せ細った体に筋肉が戻り、カサカサに乾いた唇も元の潤いを取り戻し、元気になっていった。


「はぁ……はぁ……」


酸素の薄い中、私は息を切らし、肩で呼吸を始めた。

コダイを召喚したことで魔力の大半を消耗し、私の体に残された魔力は少なかった。

それでも私はリトに魔力を送り続けた。


「そんな疲弊した体で無茶をするとは、健気なものよ……」


魔王は鼻で笑い、私の近くに立つと、手に紫色のオーラを纏い、腕を大きく振り上げた。


「お願い……リト……」


私は既に限界だった。

自分に残された殆どの魔力をリトに託し、気を失いそうになった。

体に力が入らない……。


「終わりだ……イフリート……」


魔王は私達に向かって手を伸ばした。

意識が薄れ、私は逃げる気力すら残っていなかった。

その時……


パシュンッ


「ぐっ…… !」


魔王は胸を押さえ、苦しみ出した。

胸にはいつの間にか穴が開き、血が滴っていた。


「イフリート……貴様…… !」


魔王の胸を貫いたのはリトの指から放たれた熱線だった。

遂に覚醒したリトは満身創痍の私を胸に抱き寄せた。


「主……こんな所まで来て私を救いに来てくださるとは……本当に申し訳ありません……主を危険に晒すなんて……」


リトは己の不甲斐なさを嘆き、唇を噛み締めた。


「そんなのどうでもいいです……リト……会いたかった……」


私はか細い声で呟きながらリトの胸の中でも

涙を流した。


「主……」


リトは私の目を見つめ、ゆっくりと頷いた。


「くっ…… !イフリートが目覚めるとは……」


魔王は憎々しく吐き捨てると霧になって消えてしまった。

恐らくイフリートを支配下に置けなくなったのでスケルトンキメラの操作に意識を集中させる気だろう。


「主、今すぐここを脱出しますよ」


リトは私を抱き抱えながら立ち上がった。


「主から魔力を頂いたおかげでだいぶ元気になりました、さあ !あの忌々しい魔王に今度こそ引導を渡して差し上げますよ !」


さっきとは別人のようにリトは生き生きとしていた。


「うん……リト……」


そんなリトを私は微笑みながら見つめた。


「主、しっかりと捕まってて下さいね……行きますよ !」


リトは地を蹴り上げ高くジャンプし、天井に蠢く肉壁を勢い良く突き破り、外の世界へと向かった。

今度こそ魔王と決着をつける為に……。


To Be Continued

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