第百六十八話・骸の鎧
「行くぞヴェルザード !」
「ああ、エルサ !」
仲間達が次々に倒れる中、無限の結束の中でも頭一つ抜けた実力者である吸血鬼のヴェルザード、ハイエルフのエルサは剣を振り上げ、スケルトンキメラに向かって走り出した。
「疾風上昇 !」
後方にて援護に回っていたコロナは風の魔法で二人の身体能力を向上させた。
エルサ、ヴェルザードは一時的にスピードが高くなった。
「助かる、コロナ !」
「ありがとよ !」
更に加速し、二人は勇敢にスケルトンキメラに斬りかかる。
一方、岩盤に叩き付けられた竜族達の中でラゴンだけが意識を取り戻し、這い上がった。
「なんつー重い一撃だ……この痛み……痺れるぜぇ !」
キメラスケルトンの尻尾によって薙ぎ払われ、他の竜族達が倒れる中、ラゴンだけが再び前線に躍り出た。
流石、竜族を束ねる長と言った所か。
ラゴンはリト魔人形態の猛攻に長時間耐え、ガーゴイルのゴルゴとも最後まで渡り合ったことがある。
タフネスに関しては一級品ものである。
「うおおおおおおお !!!」
ラゴンは翼を広げて勢い良く飛び掛かり、ヴェルザード、エルサにと共に、自慢の爪による攻撃をスケルトンキメラに叩き込んだ。
吸血鬼、ハイエルフ、ドラゴニュートという異なる種族が力を一つにし、スケルトンキメラに挑む。
「「「おおおおおおおおお !!!」」」
キィンッ カキィン キンキィン
息をもつかせぬ三人の猛攻。
目にも止まらぬ剣技でスケルトンキメラの足に徹底的に切り刻む。
金属音が鳴り響き、火花が飛び散った。
「火炎球 !」
ボボボボボ
コロナは遠距離から炎球を放ち、三人を援護した。
彼女の火力では、焼け石に水ではあるが無いよりはマシだった。
だがこれだけの怒濤の攻撃を喰らい続けても、スケルトンキメラにとっては痒みにしか感じなかったようだ。
「どうした ?魔界四天王との戦いで体力の限界が来ているのか ?」
懸命に剣を振るう三人を冷淡に嘲笑うスケルトンキメラ。
「くっ……これだけの攻撃を浴びせてもまるで手応えがない……魔獣の頑丈な骨がダメージを吸収してしまう…… !」
「しゃあねぇ、一気に決めるか !」
ラゴンはそう宣言すると翼を広げ、スケルトンキメラを見下せる位置まで空を飛び、停止した。
「俺の特大の大技、喰らいやがれ !竜人火炎放射 !!!」
ラゴンは口を大きく開け、強力な火炎放射を吐き、スケルトンキメラに浴びせた。
「かつて地上を蹂躙したドラゴンの末裔か……面白い !はぁぁぁぁぁぁぁぁ !!!」
スケルトンキメラは空を見上げ、口から同じく火炎放射を放ち、壮絶な撃ち合いを展開した。
最初は拮抗していたがスケルトンキメラの炎が押し始めた。ラゴンは競り負け、吹っ飛ばされてしまった。
「ぐわぁぁぁぁぁぁぁ !」
ラゴンは墜落し、勢い良く地面に叩き付けられた。
フルパワーで放たれた炎も魔王の圧倒的な力によって跳ね返されてしまう。
「ラゴン…… !次は俺だ !」
ヴェルザードは剣を構え、更に片腕を狼の腕に変質させた。
「うおおおおおおおお !」
ヴェルザードは咆哮を上げながら両腕を十字を描くように振り下ろした。
「地獄爪の十字架 !」
ヴェルザードは十字の形をした衝撃波を作り出し、スケルトンキメラに放った。
地面を抉りながら勢い良くスケルトンキメラに迫り来る。
「ほう……受け止めてやろう !」
スケルトンキメラは余裕な態度で両手を広げ、向かってくる十字の衝撃波を真正面から受け止めた。
「ククク、この力……カミラ以上だな…… !」
ヴェルザードの放った衝撃波がビリビリとスケルトンキメラを押し始めた。60メートルある巨体が地面を削りながら後退りする。
だがスケルトンキメラは僅かな焦りすら見せない。
「回転突撃 !」
エルサは地を蹴り、螺旋状の風の魔力を纏い、全身をドリルのように回転させ、スケルトンキメラの胸部を狙い猛突進した。
キュイイイイイン
ドリル音を鳴り響かせながら地中を掘り進むようにスケルトンキメラの外殻を貫いた。
「ぬう…… !」
地獄爪の十字架と回転突撃を立て続けに喰らい、スケルトンキメラは体勢が崩れ、怯んだ。
「やった…… !」
「これで勝てますよ !」
私達は僅かだが希望を抱いた。
やはりヴェルザード、エルサ……この二人は強い……。どんな格上の敵を前にしても決して屈しない不屈の精神を持っている。
「はぁぁぁぁぁ !!!」
エルサの剣がスケルトンキメラの体を貫き、巨大な穴を開けた。
「ぐわぁぁぁぁぁ」
胸部に巨大な穴が開き、赤黒い光が漏れ、勢い良く噴き出しながらスケルトンキメラは苦しそうに呻いた。
「やったぞ……」
スケルトンキメラの体を貫き、安堵の表情を浮かべたエルサ。
だが……
パシュンッ
喜びも束の間、油断した所を巨大な尻尾が振り下ろされ、鞭のようにエルサを一瞬のうちに叩き落とした。
「ぐわっ !」
エルサは勢い良く地面に叩き付けられ、轟音が鳴り、衝撃で地面は歪められた。
「そんな……エルサさん !」
大ダメージを負ったかのように思えたが、スケルトンキメラは何事も無かったかのようにピンピンしていた。
元々肉体が無く、剣に宿っている状態から魔獣の骸を纏っている為、痛覚など存在しないのだ。
一連の反応は全て演技に過ぎなかった。
「滑稽だったぞ……僅かな希望を抱いた瞬間、絶望に叩き付けられた時の姿……酒の肴には持ってこいだな……」
恐怖に凍り付く私達を見下ろし、嘲笑うスケルトンキメラ。
エルサは全身の骨が砕かれ、ぐったりしていた。
「クソッ……何をしても通じねえのかよ…… !」
力を使い果たしたヴェルザードは膝を落とし、拳を震わせながらも戦意を失った。
もう戦える者はコロナしか居なかった。
リリィや私の力ではスケルトンキメラの相手にすらならない。
本当に打つ手が無くなってしまった。
「さて……貴様らを始末した後は、この体で人間界に向かい……平和ボケした愚かな人間共や多種族の奴等を蹂躙してやる……そして残る神器を全て回収し、今度こそ儀式を完全なものにして、我は甦るのだ !」
スケルトンキメラは高らかに叫びながら身を寄せ合う私とリリィにゆっくり近付いた。
歩く度に地面が揺れ、鈍い足音が響いた。
「召喚士の娘よ……貴様は我と共に来てもらうぞ……貴様は我が后になるのだからな……」
スケルトンキメラはゆっくりと樹木のように巨大な腕を伸ばし、私を掴もうとした
「ダメ…… !」
コロナは両手を広げ、私とリリィを庇うようにスケルトンキメラの前に立ち塞がった。
「どくがいい……小娘 !我はその召喚士に用があるのだ !」
鬱陶しそうにコロナを怒鳴り付けるスケルトンキメラ。
だがコロナは恐怖に震えながらも一歩も引かなかった。
「ワカバお姉ちゃんとリリィお姉ちゃんは……私が守る…… !」
声は震えていながらも、コロナは言い切った。
今にも泣きそうになっている。
「馬鹿…… !コロナ、逃げろ…… !」
地面にうつ伏せになりながらクロスは呟いた。
「そうだよ……コロナちゃん殺されちゃうよ…… !」
「私は……ワカバお姉ちゃんやリリィお姉ちゃんがいたから……救われたの……だから……今度は……私が二人を守るの…… !」
今まさに殺されようとしている中、小さな体でコロナは精一杯の勇気を出した。
「見上げた根性だな……娘よ……だが……勇気と無謀を履き違えた者は、ろくな末路を迎えんぞ……」
スケルトンキメラは豪快に腕を振り上げ、コロナを踏み潰そうとした。
「私は……逃げない !」
顔を紅潮させながらもコロナは瞼を閉じず、しっかりとスケルトンキメラを睨み付けた。
「お願い……コロナちゃんを助けて…… !」
私はリトの居なくなったランプを祈るように強く抱きしめた。
その時、ランプから謎の光が放たれた。
「きゃっ !」
「何ですか !?」
ランプから放たれた光は周囲を巻き込み、眩く照らされた。
スケルトンキメラですらあまりの眩しさに怯み、目を覆った。
絶体絶命の中、奇跡が起きようとしていた。
To Be Continued




