第百六十七話・合体魔獣、無双
魔王サタンは魔界に眠る魔獣達の骸と合体し、最凶の姿・スケルトンキメラへと変貌を遂げた。
全身が鎧のような骨に覆われ、赤く光る鋭い眼光を放ち、60メートルある巨体で私達を虫けらのように見下ろした。
魔王から放たれる魔力は剣の時とは比べ物にならない。
全てを飲み込まんとする圧倒的な威圧感と邪気を前に私達は戦慄し、怖じ気ついた。
「貴様らの仲間であるイフリートは、我が体内でゆっくりと消化されている。完全に融合を果たせば、イフリートの肉体も魂も跡形も無く消滅するだろう……フハハハハハハ !!!」
大気を震わす程の低くこもった邪悪な声で高笑いをするスケルトンキメラ。
全員電撃が走ったかのように震え上がった。
「どれ、今の力がどれ程のものか……試してみるか」
スケルトンキメラは長く伸びた銀色の尻尾を僅かに動かした。
その瞬間、風圧でかつて城だった瓦礫の山は一瞬にして粉塵となり、宙へ消えていった。
「フハハハハハハ !!!これは良い!清々しい気分だ !」
想像以上の力を手にしたことを実感し、スケルトンキメラは上機嫌になった。
「ビビることはねぇ……俺達は巨大な敵と幾度も戦ってきたんだ……今回も何とかなる !」
「ああ、ヴェルザードの言う通りだ……臆することはない……リトを……仲間を救い出すんだ !」
ヴェルザードとエルサは剣を握り、スケルトンキメラに向かっていった。
「魔王か……こんな大物と戦える機会なんてそうそうねえ !俺達も遅れを取るなぁ !行くぜぇ !」
ラゴンは翼を生やし、無謀にもスケルトンキメラに突っ込んでいった。
相変わらずの戦闘狂ぶりに呆れながらもラゴンの仲間達は彼の後に続いた。
「コロナ、お前は後方に下がれ、僕が奴を撹乱させる」
「俺も神器を取り戻したし、派手に暴れまわってやるぜ !」
コロナにそう告げるとクロスは翼を広げ空を飛び、グレンは神器を片手にスケルトンキメラに向かっていった。
「ちっ……どいつもこいつも恐れを知らねえ奴等だぜ……だからこそ今まで戦い抜けたのかもな」
「私達も行こうよ~」
ミライは強靭な脚でマルクの肩を掴み、空を飛び回った。
私とリリィは後方で待機していた。
悔しいけど武器が壊れて私は戦える状態じゃない……足手まといになるだけだ。
「ワカバちゃん、皆を信じましょう !リトさんもきっと助かります !」
「そうだね……リリィ……」
私とリリィは互いに頷き合った。
無限の結束と爬虫の騎士団対魔王による総力戦が始まった。
「雑魚がいくら集まろうと、絶対的な魔王の力の前では無力なのだ !」
スケルトンキメラは巨大な尻尾を振り回した。
地響きが鳴り響き、風圧で土砂が吹き荒れた。
「ぐわぁっ !」
風圧に巻き込まれ、クロスはバランスを崩し、何も出来ないまま墜落していった。
「くっ !とんでもねえ力だぜ !魔王さんよぉ !」
頑丈な翼を持つラゴンは風圧に耐え、反撃に出た。
ラゴンは灼熱の炎を吐き、スケルトンキメラに浴びせ、ララは長い尻尾をハンマーのように叩きつけ、メリッサは蛇の頭をした髪から石化光線を、ザルドは口から強烈な水のブレスを浴びせた。
竜族による一斉攻撃がスケルトンキメラに猛威を振るった。
「流石は戦闘種族である竜族……容赦の無い攻撃の嵐だ……だが……我が鋼の体には傷一つつかんぞ !」
スケルトンキメラは余裕で耐えた。
命懸けの攻撃も蚊が刺す程度の痛みでしかない。
無慈悲にもスケルトンキメラは長く装甲に覆われた尻尾で薙ぎ払い、ラゴン達を一掃した。
「「「「うわぁぁぁぁぁぁ !」」」」
ラゴン達はあっけなく吹っ飛ばされ、勢い良く岩盤に叩き付けられ、磔にされた。
「魔王様、俺はこちら側につきます !」
「いつまでも調子に乗るんじゃねえぞ」
ラゴン達が倒された直後、ヒュドラの姿になったヒュウとガーゴイルに変身したゴルゴが飛び出し、スケルトンキメラに急接近した。
「麻痺牙 !」
「ほぁっ !」
バチバチ ドゴッ
ヒュウはスケルトンキメラに噛みつき、麻痺毒を全身に注いだ。
更にゴルゴの石像よりも硬い拳から繰り出されるパンチがスケルトンキメラの頭部を殴った。
並の魔族なら頭蓋骨が破壊されているだろう。だが……。
「効かぬと言ったであろう !」
スケルトンキメラに生半可な攻撃は通じない。
ゴルゴの拳もヒュウのマヒも大して意味をなさなかった。
スケルトンキメラは二人に息を吹き掛けた。
彼にとっては技ですらないが二人にとっては突風よりも強力で彼方まで吹っ飛ばされた。
「ゴルゴめ……我によって命を与えられたというのに……恩知らずな男よ……」
四天王だったゴルゴですらもスケルトンキメラの前では振り払われるだけの埃に過ぎなかった。
「僕だってぇぇぇぇ !!!」
「うおおおおおおおお !!!」
剣を振り上げながら駆け回るルーシーとグレン。
ルーシーは全身に風を纏い、グレンはスパークを走らせた。
「ちょこまかと、鬱陶しい !」
スケルトンキメラは大木よりも巨大な脚を振り上げ、二人めがけて踏み潰そうとした。
重力により地形が歪み、振動で大地が揺さぶられた。
ルーシーとグレンは俊敏に動き、紙一重でスケルトンキメラの踏みつけをかわした。
「「うおおおおおおおお !!!」」
スパッ スパッ スパッ
「神月疾風 !」
「雷撃連斬 !」
目にも止まらぬ速業で二人は連続でスケルトンキメラの足元を切り刻んだ。
だが頑丈な魔獣の骨で作られた装甲は傷一つつかず綺麗なままだった。
「くそっ !全然ダメージが通らねえ !」
「魔王様反則過ぎる !」
あまりの手応えのなさに二人は思わず駄々をこねた。
そんな二人を見下ろし、スケルトンキメラは巨大な足を振り下ろそうとしていた。
「裏切り者め……踏み潰してやろう」
迫り来る巨大な足を前にしてルーシーとグレンは無意味と分かっていながらも身構えた。
「上を見ろデカブツ !!!」
その時、男の叫び声が聞こえ、スケルトンキメラは上を見上げた。
ミライと鷲掴みにされたマルクが遥か上空まで飛び、スケルトンキメラの真上にに制止していた。
「合技 !不幸豪雨 !!!」
ザァァァァァァ
上空からマルクは大量の水を雨のように降らした。
天から降り注がれる槍のような豪雨がスケルトンキメラを襲う。
ただの雨ではない。マルクの体内から生成された酸性雨に似た水がスケルトンキメラに浴びせられた。
じわじわと魔獣の骸が溶かされていく。
「ほう……付け焼き刃にしては上出来だ……正攻法では敵わぬと知って空から奇襲をしかけるとは……考えたな」
スケルトンキメラは感心はすれど大したダメージにはなっていないようだった。
溶かされた部分も魔王の驚異的な回復力によって簡単に再生した。
「アイディアは誉めてやる、だが相手が悪かったな !」
スケルトンキメラは上空に向かって光線を放ち、ミライとマルクを襲った。
チュドォォォン
「うわぁぁぁぁぁ !」「きゃあぁぁぁぁ !」
スケルトンキメラの放った光線はマルク達に命中した。無念にも二人は墜落していった。
「くっ…… !」
どんな攻撃もスケルトンキメラには一切通用しない。
次々と倒れる仲間達……残ったのはいよいよヴェルザードとエルサだけになってしまった。
「エルサ……ここからが正念場だぜ ?」
「全くだな……」
何度斬りつけても手応えのない強大な敵を前にして、二人は改めて覚悟を決め、互いの拳を合わせた。
ヴェルザードとエルサ……果たして逆転なるか……。
To Be Continued
 




