第百六十六話・スケルトンキメラ
集められたそれぞれの神器の持つ魔力が合わさることで召喚された巨大な影の腕はリトを引き摺り込み、魔王の剣に取り込ませた。
信じられない光景だった。
あのリトがなす術無く魔王に吸収されてしまった。
「ハーッハッハッハ !流石だなイフリート !燃えたぎる炎の力が沸き上がってくるぞぉぉぉお !!!」
魔王は興奮し、魔力を解放した。
「どうしたらいいの……」
私は力を高め続ける魔王を前に戦意を無くし、絶望にうちひしがれていた。
「ワカバ !無事か !」
「ワカバちゃん !」
そこへ、エルサ、ルーシー、リリィが私の元へ駆け付けた。
ペルシアを倒した後、リリィはエルサ達と合流出来たようだ。
「皆……」
「本当にすまない……君を怖い目に遭わせてしまった……」
エルサはへたりこんでいた私を抱き締めた。
「私は大丈夫ですけど……リトが…… !」
私は涙目になって魔王の剣を指差した。
「あの剣が……リトを吸収して……」
「ちょっと待て、リトが吸収されたのか…… ?」
「ていうかあの浮いてる剣なんですか !?」
驚きのあまり状況が飲み込めないリリィとエルサ。
「お姉ちゃん、あの剣こそ魔王だよ……数千年前に肉体が滅んで、魔王の魂が剣に宿ってるんだ」
かつて魔王軍に所属していたルーシーはエルサ達に説明をした。
「ほう、よくもまあおめおめと戻ってきたなぁ裏切り者ルーシーよ」
魔王の威厳のある声を聞き、ルーシーは背筋を凍らせた。
この場にいる全員身構えた。
「あの剣から感じる強大でおぞましい圧倒的な魔力……今まで戦ってきた魔族や魔獣とは桁が違う……」
四天王デビッドを倒したエルサですら、魔王を前にして震え上がっていた。
「あの剣の中に、リトが囚われたというのか ?」
「はい……私……もうどうしたら……」
私は弱気になり、泣きながらエルサの胸の中にうずくまった。
「儀式に必要な神器も全て揃ったわけではない……四天王の魂も一つ足りぬ……完全な肉体復活とまではいかぬが……それでも貴様らを塵にする程の力は取り戻せたぞ !」
魔王の剣は勝ち誇った様子だった。
「貴様が魔王か……ワカバとリトを弄んで……ただで済むと思うなよ !」
エルサは怒りに満ちた表情で魔王を睨み、剣を握った。
「貴様はハイエルフか……千里眼で見ていたぞ ?我が右腕であるデビッドを倒すとは褒めてやろう……部下に加えたいくらいだ」
「ほざくな !貴様の下につくくらいなら死んだ方がマシだ !」
エルサは威勢良く啖呵を切った。
「まあ良い……それよりも、貴様らに見せてやろう……これから始まる圧倒的理不尽な恐怖と絶望を !我の力の一端の前に平伏すが良い !はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ !!!!」
魔王は腹の底から大声で叫ぶと、振動で床が揺れ、破片が四方八方に飛び散り、天井のシャンデリアが落下した。
「皆、気を付けろ !」
私達は悪い予感がし、互いに身を寄せ合った。
「光栄に思うが良い !我の絶大なる力……死ぬ前にその目に焼き付けておけぇ !」
ドガァァァァァン
魔王の剣は眩い閃光を放ち、大爆発を起こした。
凄まじい爆発により、城は音を立てて崩壊した。
城に取り残された兵達は瓦礫に押し潰され、犠牲となった。
「おいおい……どういうことだよ……」
四天王カミラを倒し、いざ城の中へ突入しようとしていたヴェルザードとヒュウは驚愕のあまり固まっていた。
目の前で城が爆発し、崩壊したからだ。
魔界を象徴する禍々しく壮大な魔王の城は見るも無惨な瓦礫の山へと変わり果てた。
「何で城が爆発したんだ…… ?」
「わからねえ……」
二人はこの状況を理解出来ず、呆然としていたがすぐに我に帰った。
「そうだ……皆城の中にいる…… !ワカバぁぁぁ !マルクぅぅぅ !エルサぁぁぁぁ !」
「ラゴン !メリッサ !ザルド !ララぁ !」
二人は血相を変えて仲間達の名前を呼びながら瓦礫をどかした。
手が泥にまみれ、傷だらけになりながらも必死に探し、仲間の無事を祈った。
「くっ……何が起こって……あれ ?」
内部の大爆発によって跡形も無く崩れ去った魔王の城……。
その瓦礫の上でグレン達は無傷で立っていた。
「グレンか……よく無事だったな……」
ヴェルザードはグレン達を見つけると少しホッとし、胸を撫で下ろした。
三人共突然の出来事に呆然としていた。
コロナもクロスも無事のようだ。
一方でレヴィ達は目を回しながら気を失っていた。
「ひでえ……皆大丈夫かな……てか何で俺ら生きてるんだ ?」
「グレンにその手に持ってるのは何だ ?」
クロスはグレンの手を指差した。
「え !?神器 !?いつの間に !」
グレンの知らぬ間に神器、迅雷鬼剣が握られていた。
爆発の際に神器が勝手にグレンの元に戻り、城の崩壊から彼等を救ったのだろう。
「ありがとう……守ってくれて……」
グレンは神器を強く握り締めた。
「いてて……急に崩れんなよ……魔王の城のくせに耐久性無さすぎるだろ……」
瓦礫の中からマルクやミライが這い出てきた。
マルクが咄嗟に水のバリアーを張り、ミライは翼を硬化させた為、何とか防ぐことが出来たようだ。
「グレン、怪我はねえか !?」
「マルクの兄貴 !」
マルクの無事を知り、グレンは安堵した。
第三層にいたラゴン達も生きていた。
岩よりも頑丈なゴルゴがガーゴイルに変身し、ラゴン達の盾となったのだ。
「おいラゴン !こいつ四天王じゃねえか ?」
「俺達がスカウトしたんだ !こいつはもう爬虫の騎士団の一員だぜ」
ラゴンはヴェルザード達に向けてサムズアップをした。
「良かった……俺一人取り残されたのかと思ったぜ……」
「何言ってんだ、俺達竜族はそう簡単にくたばらねえよ」
安堵するヒュウの肩をザルドは優しく叩いた。
「残るは……リリィ、エルサ、ルーシー、ワカバ、リトだな……」
エルサ達は魔王城の最上階まで上っていった。
つまり助かる可能性が低いということだ。
「……なあ、アンタは城で何があったか知ってるか ?」
ヴェルザードはゴルゴなら何か分かるのではないかと思い、尋ねてみた。
「あれほどの規模の爆発……魔王様の力に違いない……だが何故自らの城を破壊したんだ……」
「魔王だと…… ?てことは……あいつら……」
もしかするとエルサ達は魔王と対峙し、戦いの中で魔王の起こした爆破を間近で喰らったのかも知れない……
ヴェルザード達は最悪の結末を想定した。
「ふう……何とか逃げ切ったぞ……」
突然ヴェルザード達の目の前にワカバ、リリィ、ルーシーを担きながらエルサが現れた。
三人を軽々と持ち上げる男顔負けの怪力……流石はエルサだ。
「エルサ !ワカバ !」
ヴェルザード達は思わず歓喜の声を上げた。
ワカバを無事救出出来たようだ。
エルサはハイエルフの力で風を纏い、全員を担いで爆発の中を風よりも速く走り、間一髪脱出に成功したようだ。
一同はエルサが金色のオーラを纏っていることに気付いた。
「これが気になるのか ?ルーシーを守りたいという私の強い想いが魔力の限界を突破し、ハイエルフへと進化させたのだ」
「相変わらず規格外だな……」
ヴェルザードはエルサの底の知れなさに感心しつつ、全員の無事を確認できて心の底から安堵した。
だがそんな呑気な話をしている場合では無かった。
「エルサ、城で何があったんだ ?」
「そ……それが……」
エルサは今までの経緯を詳しく皆に話した。
「あのリトが……嘘だろ…… ?」
リトが吸収されたショックはあまりにも大きく、皆動揺を隠せなかった。
「私は……どうしたら……」
もしこのままリトが戻らなかったら……そう思うと不安でたまらなかった。
「心配するな、ワカバ……」
そんな弱気になってる私の肩をエルサは強く掴んだ。
「君の大切な友達は、私達が全力で助け出す !だから君も信じてくれ」
エルサは私の目をしっかり見つめながら力強く励ましてくれた。
「魔王は儀式によって、全盛期とまでは行かないまでも強大な力を取り戻してしまった……皆の力を合わせ、リトを助け出すんだ !」
エルサが皆に呼び掛けていたその時、瓦礫の山から黒い光が漏れ、爆発が起こり、風圧で瓦礫が飛び散った。
瓦礫の中から魔王の剣が赤黒い禍々しいオーラを纏いながら現れた。
「ほう、貴様ら……我に歯向かう愚かな戦士達よ……全員揃ったようだな !」
魔王の剣は宙に浮遊し、私達を見下ろした。
「魔王…… !」
全員は魔剣の放つ邪悪な魔力に圧倒されながらも武器を構え、戦闘体勢に入った。
「貴様らに良いものを見せてやろう……魔王の力の真髄をな……」
剣の宝玉が閃光を放った瞬間、無数の魔獣や魔族の骨らしきものがあちこちの地面を突き破り、飛び出してきた。
古代に散っていた魔界に眠る魔族達や魔獣達の化石は魔王の放つ引力に引き寄せられ、磁石のように向かっていき、魔王の剣を覆った。
「何が始まろうとしているんだ……」
魔獣達の骸は魔王の剣を中心に密集し繋ぎ合わせられ、やがて巨大な塊へと変貌し、更に60メートルはある二足歩行の恐竜のような姿へと形成された。
魔王は魔獣達の骸を合体させ、全身が骨の鎧に覆われ、禍々しく凶悪な怪獣のような姿となった。
「我は魔界を統べる絶対的な王……サタン !我に歯向かう者は全て消し去ってくれる……」
虫けらのように私達を見下ろし、魔王は魔界全域に響き渡るような咆哮を上げた。
かつてない前代未聞の最悪の事態が巻き起こった。
魔王サタンによる魔獣形態・スケルトンキメラが爆誕してしまった。
リトもいない中、スケルトンキメラとなった魔王は私達に容赦なく牙を向こうとしていた。
To Be Continued




