第百六十五話・絶望の儀式
魔王とリトによる壮絶な熱線の撃ち合い、制したのは魔王だった。
肉体を持たぬ剣だけの状態であろうことか魔人形態のリトに勝ったのだ。
恐るべき魔王の底力を感じ、私は震え上がった。
「この剣はただの剣ではないぞ…… ?我がまだ肉体を持っていた数千年前から愛用していた最上級クラスの魔剣だ……大地を真っ二つに出来るほどの力を秘めている……寧ろよくここまで肉薄出来たと誉めてやりたい所だ……」
魔王は勝ち誇ったように高笑いをしていた。
「う……」
「リト !」
壁にめり込まれ、磔にされたようにリトは身動きを封じられ、呻き声を上げていた。
体が半透明になりかけ、制限時間が過ぎようとしていた。
「ようやく抵抗出来なくしてやったぞ……さて、機は熟した……儀式の時だぁぁぁぁぁ !!!」
魔王は城中に響き渡るよう高らかに宣言した。
そしてこの後、かつてない程ない最悪の事態が起ころうとしていた。
「ククク……魔王様の儀式の時ですね ?」
その頃、魔王城の屋根の上にミーデは立ち、魔界の景色を眺め、黄昏ていた。
彼の手には3つの魂が握られていた。
無限の結束によって倒された魔界四天王、カミラ、ヒルデビルドゥ、デビッドの物だ。
「本当ならゴルゴ様の魂も欲しかったのですが……あの方は何故か生きてますからね……ま、3つでも十分事足りるでしょう」
カミラ、デビッドは既に絶命し、ヒルデビルドゥも弟であるミーデが息の根を止めた。
ミーデは既に死んでいる彼等から魂を回収したのだ。
ラゴン達と和解したゴルゴだけは魂を回収し出来なかったようだ。
「さあ !刮目しなさい !我が偉大なる王の復活を !」
ミーデは声高に叫ぶと両手を大きく広げた。
「ヨゲササヲテベスニンタサウオマヨイシマタノクゾマ」
ミーデは怪しげな呪文を唱えると、突然大気がうねり、大地が揺れ、雷鳴が鳴り響く異常気象が起こった。
「さあ、お行きなさい !魔王様の糧となるのですよ !」
3つの四天王達の魂は吸い寄せられるように何処かへ飛んでいった。
「遂に……遂にこの時が来るのですね……」
ミーデは長年の悲願を果たせる喜びを噛み締め、恍惚の表情を浮かべていた。
「何だ…… ?この気持ち悪い感じは……」
「何か不味いことが起こる前触れなんじゃないか ?」
城内で戦っていた侵入者や兵士達も悪い予感を察し、異変に気付き始めた。
息が詰まるような謎の不快感……。
ただならぬ事態の前触れ……。
敵も味方も関係なく皆警戒し、武器を捨て、戦いを放棄した。
魔王城の大広間で長期戦を余儀無くされていたコロナ、クロス、グレンの少年組と悪魔三銃士も一端戦いを中断した。
決着はお預けのようだ。
魔王の部屋に向かって走っていたヴェルザード、ヒュウ、マルク、ミライも異様な雰囲気を感じ、それぞれの場にて足を止め、身構えた。
第二層ではラゴン達竜族ととゴルゴが待機していた。
皆何が起こったか分からず混乱している中、四天王であるゴルゴだけは理解した。
魔王復活の儀式が始まったと……。
「ハッハッハッハ !」
魔王の部屋……。
剣の中の魔王はかつてない程気持ちが高ぶっていた。
絨毯の上に並べられていた神器が眩い七色の光を放ち、発光していた。
「さあ……いよいよ我が宿願が果たされる時なのだ !」
その瞬間、3つの禍々しく光る球体が吸い寄せられるように出現した。
3つの球体は自ら魔王の剣の中に吸い込まれていった。
「貴様ら四天王の魂よ……その力、我が頂くぞ !」
3つの球体を吸収した魔王の剣は赤黒い巨大なオーラを天井を貫くような勢いで放った。
熱風が吹き荒れ、私は近付くことすら出来なかった。
「次は貴様だ、イフリート !」
絨毯に並べられた神器を繋ぐように魔方陣が描かれた。
魔方陣から黒い影のような巨大な腕が出現した。
「イフリートを取り込め !」
影のような腕は触手のように勢い良く伸び、壁にめり込んでいたリトを鷲掴みにし、握り締めた。
「リト !」
リトは抵抗する力が残っておらず、あっさり影にに引きずり込まれた。
「貴様に魔王の力を与えたのはこの我だ !今こそ我が力、還元する時 !」
影に囚われたリトは全身を剣の宝玉の中にズルズルと吸い込まれ、完全に飲み込まれてしまった。
「リトぉぉぉぉぉぉ !!!」
私は絶望にうちひしがれた。
どんな時でも私を助けてくれた無敵のリトが、いとも簡単に敵の手に堕ちた。
そしてその様を目にしながら何も出来ずにいた己の無力さを悔やんだ。
「遂にやったぞ !イフリートの力が、我の物となったのだぁぁぁぁぁ !!!」
歓喜の声を上げる魔王。
だがこれはまだほんの序章……想像を絶する絶望はこれから始まろうとしていた。
To Be Continued




