第百六十四話・リトvsサタン
私を切り裂こうと振り下ろされた魔王の剣を受け止めたのは、実体化したリトだった。
「その姿……まさしく伝説の魔人……イフリートだ……懐かしいな……」
魔王とリトは遂に相対した。
数千年前から続く因縁に決着を付ける為に……。
「貴様は我が復活する為の贄となるのだ……」
「残念ですがそれは叶わぬ願いになるでしょう……この私の手によって !」
リトはそう言うと炎を拳に纏い、魔王の剣を殴り飛ばした。
剣は吹っ飛ばされ、玉座に激突した。
「主、少し休んでいてください……後はこの私が何とかします」
リトは振り向きながら私に言った。
「で、でも……勝ち目はあるんですか…… ?」
「今の魔王は肉体を失って剣だけの存在です、今の私でも対処可能なはずです」
リトは崩れた玉座に向かい、勢いをつけて飛び掛かった。
「甘いぞイフリート !」
魔王の剣は禍々しい黒い電撃をリトに浴びせようとした。
「はっ !」
リトは空中を飛び回り、電撃をかわしながら魔王に向けて指を指した。
「指撃熱線 !」
リトの人指し指から放たれる赤い熱線が魔王の剣を撃ち抜く。
だが魔王の剣は全くの無傷だった。
「魔人の力はこんなものではなかろう……我が手本を見せてやる……オリジナルの炎の力を……」
剣に装飾された宝玉が赤く発光し始めた。
「憤怒高熱線 !」
魔王の剣は赤い炎のオーラを纏い、禍々しい熱線を一直線に放射した。
「くっ、ぐわぁぁぁぁぁぁぁ !!!」
ドゴォォォォン
リトは受け止めようとするが押し潰され、天井まで吹っ飛ばされた。
「リトぉ !」
魔王の実力は桁外れだ。
私が知ってる限りでもリトは数多くの強敵達に打ち勝ってきた。
ミノタウロスにドラゴニュートにケルベロス……。
それに何度も実体化し、力を取り戻してきた。
それでも魔王の力の前には及ばなかった。
肉体を失って剣だけの状態でありながらリトをまるで子供扱いしているようだ。
もし肉体を取り戻してしまったら、世界は終わるだろう。
「ククク……もう気は済んだか…… ?では時間制限が来る前に貴様を取り込もうではないか……」
魔王が勝利を確信したその時、ポッカリと穴の開いた天井が爆発を起こした。
「うおおおおおおおお !!!」
穴から隕石のような速さでリトが飛び出してきた。
「飛翔炎脚 !」
リトは足先に炎を纏わせ加速し、魔王の剣に勢い良く向かい、豪快に飛び蹴りを入れた。
魔王の剣は咄嗟に全体に防御壁を覆い、直撃を防いだ。
火花を散らせながらぶつかり、両者は拮抗する。
「魔王サタン…… !貴方の好きにはさせませんよ !」
「ククク……中々の手応えだ……だが……まだ足りぬぞ !」
徐々にリトが押し返されようとしていた。
渾身の蹴りも、魔王の剣には通用しない。
「こうなったら……奥の手です !うおおおおおおおお !!!」
魔王の剣とぶつかり合った状態でリトは喉が張り裂ける程の咆哮を上げ、黒いオーラを全身に纏った。
「まさか…… !」
リトの髪は黒く染まり、筋肉は膨れ上がり、白目になり、禍々しく凶悪な姿に変貌を遂げた。
稲妻の走る黒いオーラを爆発させ、衝撃により周囲を巻き込んだ。
超魔獣ケルベロスをも凌いだ、闇の力を操る魔人形態だ。
精神世界での修行を経て、完全に闇を制御できるようになっている。
「遂に本気になったか……我を楽しませてくれ……イフリートよ」
剣の中の魔王は魔人となったリトの姿を見ても、全く動じず、余裕の態度を崩さなかった。
「うがぁぁぁぁぁぁぁぁおおおお !!!」
リトは野獣のような唸り声を上げると黒いオーラを発生させた拳を振り上げ、力一杯
魔王の剣を連続で殴り、何度も重い一撃を加えた。
その様は人の言葉で一切喋らず、ひたすら獲物を狩るのに死力を尽くす獣そのものだった。
ガンッガンッガンッ
「ぐ……この力……流石我が魔王の因子を宿してるだけはあるな……」
金属が砕けるような鈍い音が響き渡る。
流石の魔王もダメージが入り、呻き声を上げた。
この一瞬で力関係が逆転した。
リトの強大で圧倒的な力が魔王を蹂躙する。
「うおぉぉぉぉぉぉぉ !!!」
鼓膜が破けそうな音量で雄叫びを上げるとリトは魔王の剣の柄を砕ける程の握力で握り、豪快に振り回した。
「まるで獣だな…… !荒々しい戦い方だ…… !」
リトは柄を握りながら何度も床に叩き付けた。
叩き付けられる度に振動で床が揺れ、金属音が砕けるような音が響いた。
リトは息もつかせぬ怒濤の攻撃で魔王に反撃の隙を一切与えようとしなかった。
「ぬおおおおおおおおおお !!!」
リトは剣の柄を豪快に振り回し、壁に向かって放り投げた。
ドガァァァァン
投げ飛ばされた魔王の剣が壁に激突した。物凄い物音が響き、瓦礫が飛び散った。
「成る程……流石我が力の一端を使いこなすだけあるな……しかも昔と違い、強大過ぎる闇の力を完全に抑制している……」
魔王の剣は傷だらけになりながらも邪悪なオーラを発生させながら空中に浮遊した。
「これだけの力を持つ貴様を取り込めば、我の復活は夢ではなくなる !さあ !もっと力を見せてみろ !」
魔王の剣の宝玉が怪しく発光を始めた。
力を溜め、纏ったオーラがより巨大なものとなった。
間違いない !何か大技を放つつもりだ。
「怒りの火炎放射 !!!」
剣の宝玉は真っ赤に光り、巨大な破壊光線を放った。
リトはここが決め所と捉え、掌を前に突き出し、高出力の炎にして全力の必殺技、超高熱大砲を放った。
魔王とリト……二人の因縁のぶつかり合いはに壮絶な熱線の撃ち合いに発展した。
余波で壁や地面が熱に融かされていく。
「「うおおおおおおおおおお !!!」」
だが、僅かに魔王の力が勝っていたのか、徐々に魔王の熱線がリトを押し始める。
「そんな…… !リト !負けないで !」
私は精一杯リトに応援の声をかけた。
だが現実は無慈悲だ。
魔王の熱線がリトを飲み込もうと出力を上げる。
リトは抵抗するが、腕に限界が訪れる。
チュドドドドドド
「ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁ !!!」
魔王の熱線がリトを直撃した。
リトは壁まで吹っ飛ばされ、叩き付けられ、大爆発を起こした。
「リトぉぉぉぉぉぉぉ !!!」
熱線のぶつかり合いを制したのは肉体を持たない魔王だった。
私の悲痛な叫びは魔王の部屋中に響き渡った。
To Be Continued




