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ランプを片手に異世界へ  作者: 烈斗
突入、魔王城編
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第百六十三話・魔王、対面



私はリトの声に導かれ、魔王の待ち構える部屋……玉座の間に辿り着いた。

部屋全体は暗闇に閉ざされ、一筋の光りすら射し込まない……。重々しく不気味な雰囲気……。

他の部屋とは明らかに異質で一線を画していた。

魔王が座るであろう玉座には巨大な剣が置かれていた。

剣の柄に施された宝玉が妖しく光る。

以下にもラスボスの部屋という感じだ。

緊張で震えが止まらない。

だがここで怖じ気ついてしまったらリトを取り返すことは出来ない。

大丈夫……私だって、色んな敵と戦ってきたんだ……。


「よく来たな……イフリート使いの召喚士(サモナー)の娘よ……自分からやって来るとは殊勝な心がけよ…… 」


剣は威厳のある声で私に話しかけてきた。

この威圧感……声だけでも伝わる……間違いない、あの剣こそが魔王だ。

憤怒(サタン)災厄(カラミティ)を始めとする多くの魔族達を従える魔界の支配者……。


「貴方が魔王……ですか……」


私は恐る恐る問い掛けてみた。


「その通り……我は魔王サタン……かつては魔界の支配者として多の種族や人間共を恐怖のどん底に叩き落としてやったのだが……伝説の勇者と一人の魔人の裏切りにより、我は肉体を失ってしまったのだ……

昔よりも兵士や部下も減った……故に十数人の魔族達に易々と突破されてしまうわけだ」


魔王は寂しげに語った。

肉体を失った魔王は魂を剣の中に移し、弱体化しているというわけだ。

だが肉体を失っても魔王の風格は未だに健在だった。

剣から放たれる邪悪で強大なオーラは桁外れだった。

緊張で呼吸をするのも忘れるくらいだ。

魔王を目の前にして生きた心地がしない。


「主 !私はここです !」

「リト !」


リトの声が聞こえた。

玉座まで敷かれた赤い絨毯の上に魔法のランプを始め無数の神器が無防備に円を描くように置かれていた。

儀式の途中のようだ。

私はすぐに魔法のランプを拾おうと駆け出した。


カァァァァァ


「きゃっ !」


だが魔王の魂が宿る剣が電撃を放ち、行く手を阻んだ。


「そう慌てるでない、儀式はまだ始まってすらおらんよ、貴様が居ないと何も始まらんからな……それにしても……イフリートの召喚士(サモナー)……思っていたより美しいではないか」


魔王の剣は吟味するように私を見つめた。

私は全身を隈無く舐め回されるような視線を感じた。

羞恥で頬を染め、魔王の剣を睨み付けた。


「おいおい、怖い顔をするな、召喚士(サモナー)の娘よ、それにしても良い女だ……どうだ、我の后にならぬか ?憤怒(サタン)災厄(カラミティ)のヴェロスと渡り合う程の者なら我の女になるに相応しい……」


魔王による大胆なプロポーズだ。

私を抱き込もうとしている。でなければわざわざ生かして捕らえたりしない。


「我の后になれば魔界の支配権はおろか人間界……世界の全てを思うがままに出来るのだ、悪い話ではなかろう ?」


魔王による甘い誘い。

ゲームでもよくある、勇者に世界の半分を餌に懐柔を試みるラスボスの常套句だ。


「もちろん断ります……私はそんなのに、興味はありません」


私は公然と断った。

例え相手が強大でも、絶対に譲ってはいけないものがある。


「そうか……まあ良いだろ……ホイホイ従うような安い女に我が惚れ込む訳がない……寧ろ益々気に入ったぞ小娘……」


魔王は怒るどころか上機嫌になった。


「だが儀式には協力してもらうぞ、貴様の力が必要不可欠だからな……」

「一応聞きますけど……私に何をさせる気なんですか ?」


魔王はニヤニヤ笑っていた。


「簡単な話だ……イフリートを召喚せよ、貴様の役割はそれだけだ」


リトを召喚し、実体化(リアライズ)させる…… それが目的なのか……?


「主 !その言葉に乗ってはいけません !魔王の目的は私を実体化(リアライズ)させて生け贄にすることです !」


リトは必死に忠告をした。

もしリトが実体化(リアライズ)されれば儀式が始まり、魔王が復活するというの…… ?


「絶対に私を召喚してはいけません !」

「わ、分かりました……」


私はリトの言葉に従った。

これから魔王を相手にすることになる。

大丈夫……私だって修行して少しは戦えるようになったんだ。

魔王軍の幹部とだって戦った。

だからリトに頼らず、自力で乗り越えるんだ……。

私は変装する為に気絶させたメイドが持ってた護身用の短剣を取り出した。

切れ味は期待できないが無いよりはマシだ。

それに私の持つ風の魔力を上乗せすれば多少は威力が上がるだろう……。


「ならば絶対に召喚しなければならない状況に追い込ませてやろう」


そう言うと魔王の宿った剣は宙を舞った。


憤怒電撃(サタンエレクトリック)


魔王の剣から黒い電撃が私に目掛けて放たれた。


ビリリリリリ


「わっ !」


私は剣から放たれた禍々しい電撃を紙一重でかわした。

電撃を浴びた床は貫通し、黒い焦げ痕が生々しく残った。

もし生身で喰らえば即死するだろう。


「どうした…… ?今のはほんのご挨拶だぞ ?」


魔王の剣は再び電撃を浴びせてきた。

容赦なく降り注がれる電撃。私は必死に避けるしか無かった。

人間と魔王では力の差が有りすぎた。反撃する暇すらない。


「所詮貴様は召喚士(サモナー) !我に近付くことすら出来まい !」


私は人の体ですらない剣を相手に翻弄されていた。


「主…… !」


歯痒い思いで見守るリト。

本当は今すぐにでも助けに行きたい。

だけど実体化(リアライズ)すれば相手の思う壺だ。


「はぁ……はぁ……」


走り疲れた私は四つん這いになり、息を切らした。


「芯の強い女が疲労に苦しんでいる様は良いものだな……さあどうする…… ?諦めてイフリートを召喚するか ?」

「ま……まだです……」


私は震える足で無理矢理立ち上がった。

皆私を助けるために命を張っている。

その私が先に折れるわけにはいかない。


「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ !」


ヒュオオオオオオオオ


私は拳を強く握り、気合いを入れ、力の限り叫んだ。

足元からに風が巻き起こり、私を包み込んだ。

疾風上昇(ウインドーアップ)で身体能力を向上させたのだ。


「風の魔力……エルフの力か……」


魔王は冷静に言い当てた。

この力はエルサが教えてくれた風の魔力。

私は短剣に風を纏わせた。


「行きます…… !」


私は魔王を睨み、静かに宣言した。


「その目……面白い……まるでかつて我に刃を向けた伝説の勇者と似ているではないか……久しぶりに我を楽しませてくれ」


ボボボボボボ


憤怒(サタン)豪炎球(フレイムオーブ) !」


魔王の剣は球体の部分から赤い炎の球体を連射した。


「はぁっ !」


私は膝を折り曲げ、勢い良くジャンプした。落ちる直前に足元に風を出現させてバネにして高く飛び、魔王の放つ炎をかわし続けた。


神速(ゴッドスピード)疾風(ウインドー) !」


キン カキンッ キキキン


私は宙に浮遊する魔王剣に接近し、神速の突きを繰り出し、滅多切りにした。

生半可な攻撃じゃ魔王を倒せない。

私は最初から全力で飛ばし、自分の持てる全てを出し切った。

だが……


「ふん……こんなものか……所詮は人間……速さだけのようだな」


魔王の剣には傷一つつかない綺麗なままだった。

逆に私の持っていた短剣がボロボロになり、砕けてしまった。


「残念だがこれが現実だ……何もかも全て上手くいくはずがない !」


ズバッ


魔王の剣は動揺する私を容赦なく斬りつけた。


「きゃあっ !?」


胸を切り裂かれ、私は血を噴き出しながら床に叩き落とされた。


「心配することは無いぞ……死にはしない……貴様に死なれては儀式が出来ないからな……」


仰向けに倒れて動けない私に剣はゆっくりと近付いてきた。


「さて、貴様がイフリートを召喚する意志を見せるまで、じわじわといたぶることにするか……死なぬ程度に痛みつけるのは我の十八番なのだ」


魔王の剣は私に刃を向けた。


「貴様の体につけられた傷は後で我が治してやろう……最も、心の傷については我の知るところではないがな !」


魔王の剣が勢い良く振り下ろされた。

私は痛みと恐怖に目に涙を滲ませ、ギュッと目を瞑った。


ズドォォォン


突然激しく爆音が鳴り響いた。

私は恐る恐る目を開くと、そこには赤い髪をした半裸の青年……リトの姿があった。

リトは片手で魔王の振り下ろされた剣を受け止めていた。


「そんな……リト !何で……」


リトが実体化(リアライズ)してしまえば魔王の言う儀式が始まってしまう……。

リトは儀式に必要な核……敵の思うままだ。


「主がなぶられる姿を黙って見てるのは耐えられなかったんです !」


リトの声に怒りが込められていた。


「久しいな炎の魔人よ !その姿、実に数千年ぶりだな !」


魔王は歓喜の声を上げた。


「魔王サタン……貴方だけは許しません……焼き尽くします……」


魔界を牛耳る魔王サタンと伝説の炎の魔人イフリート……因縁の二人が遂に相対した。

戦いは更に佳境を迎える。



To Be Continued

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