第十四話・女騎士と召喚士
血まみれの男は駆け付けた医療班に運ばれて行った。町は騒然となっていた。
男は猟師で、仕事で森に出掛けていた。そこで巨大な魔獣に遭遇し、襲われたらしい。
持っていた銃で応戦するも通用せず大怪我を負ってしまった。男は腕利きの猟師との評判だったようだ。
魔獣の脅威がいよいよこの町にも迫ってることを知り、周りの民衆達は絶望していた。子供達は泣き喚き、大人達は震え、頭を抱えていた。
「魔獣め……この私が葬ってやる……!」
エルサは静かに怒りを燃やしていた。
私はその様子を見ることしか出来なかった。
あの後、猟師は一命をとりとめたらしい。良かったぁ……。
後日、エルサの家に手紙が届いた。エルサは手紙を読んでいた。
「うむ……」
「誰からですか ?」
「国王陛下からだ。魔獣討伐の命令が来たのだ」
「魔獣討伐って……一人で行くんですか ?」
「私は常日頃から鍛えているから問題ない。それに、これ以上魔獣によって被害を増やすわけにはいかないんだ」
エルサの瞳は闘志で燃えていた。
「すぐに行かねばな、君達には留守を頼みたい」
エルサはすぐに支度を終え、外へ出ようとした。
「はい、夕御飯作っておきますね」
リリィが笑顔で返事をした。ヴェルザードは相変わらず具合悪そうに寝ている。
「あの……」
私はエルサに声をかけた。
「何だ ?」
「私も……同行していいですか…… ?」
「何故君が?」
行っても役に立てるかわからない。でも昨日のあの惨状を見て、ただ傍観者でいることが出来なかった。それに、いくら強いとは言え、エルサさんは女の子だ。女の子が一人で魔獣と闘うなんて……。
「私も…何かの役に立ちたいんです…… !それに、ここに泊めさせてもらった恩も返したいですし……」
「だが相手は猟師すら食い物にする魔獣だぞ…危険が大きすぎる」
「…………」
私は言葉が出て来なかった。
その時、ランプの中のリトが喋った。
「主を見くびってもらっては困ります。主はこう見えて魔物達に襲われ、悪魔に命を狙われそうになりながらも生還を果たした不屈の精神の持ち主です !」
リトは熱く熱弁した。誇張入ってるし恥ずかしいけど……。
「その声……まさか…ランプから出ているのか ?」
流石のエルサも驚いているようだった。
初見は誰だって驚く。
「私の名はリトです。主の召喚獣でございます。主に牙を剥く者は誰であろうと灰にして差し上げます」
「召喚獣…… ?ということはワカバ、君は召喚士なのか ?」
私はうんと頷いた。
「そうか……ただの少女というわけではない、戦力は持ち合わせている……か、分かった、同行を頼もう。しかし危なくなったらすぐ私の後ろに隠れるんだぞ !」
「はい !」
私とエルサは魔獣討伐に出掛けた。
「お二人ともー !お気を付けてくださいー !帰ったら夕御飯が待ってますよー !」
リリィは私達を見送りながらいつまでも手を振っていた。
私達は森の入り口に着いた
「ここに入れば、後には戻れないぞ」
「分かってます」
私達が森の中へ入ろうとした時
「おいおい、女だけで何入ろうとしてんだよ~エルサちゃ~ん」
「どうせ魔獣に勝てるわけないんだからやめとけって~」
柄の悪そうな三人の男の騎士が現れた。
「女どもはさっさと帰んな、後は俺達がやっとくから」
リーダーらしき男が嫌みを言ってきた。
「フン、余計なお世話だ。君達こそ魔獣の餌になっても知らんぞ?私一人に勝てん軟弱者どもが」
エルサは相手にしていないようだった。
「何だと?このアマぁ?ひ弱なエルフのくせに!」
子分がエルサに突っ掛かってきた。
「ほう、やる気か?」
エルサはイラッときたのか、挑発に乗りそうになった。
「まあまあエルサさん、落ち着いて下さい……」
私は必死に止めようとした。
「お?この娘、見ない顔だなぁ?新しくメイドにでも雇ったのか~?」
「結構可愛いじゃ~ん?」
「あんな危ない森なんか入らずに、俺らと楽しいことしようぜ~」
男達は私に興味を持ち始め、絡んできた。
「えっと……困ります……」
男達は顔を近づけてくる。ミーデと同類の臭いがした。私は困り果ててしまった。
「赤色放射 !」
ランプの中のリトが炎のオーラを放出し、三人を威嚇した。
「ひっ !?何だ ?」
「この娘から溢れるオーラ、ただもんじゃねえ !!!」
リトが機転を利かせて男達を脅してくれた。
「主に気安く触れないで下さいよ ?さもないと灰にして差し上げます」
男達は狼狽えていた。
「この子を舐めてもらっては困るな、うちのメイドは私の頼れる仲間だ !」
エルサは高らかに宣言した。男達は悔しそうにしていた。
「ふん、まあいい !先に魔獣を倒して、手柄を取るのは俺達だからなぁ !」
「覚えてやがれー !」
三人の小物騎士達は足早に森の中へ入っていった。
「はぁ……。すまないな、ワカバを巻き込んでしまって……」
エルサは申し訳なさそうにしていた。
「いえ、それはいいんですが…何なんですかあの人達、感じ悪いですね……」
「私と同じ騎士だ。最近よく挑発してくる面倒な連中でな…。前に試合で私に完膚なきまでに叩きのめされたことを根に持っているのだろう……」
女だとかエルフだとか平気で差別してくる酷い人達だと思った。エルサは何処か寂しそうな顔をしていた。
平気な素振りを見せているが、内心は傷付いてるようだ。
「エルサさん、取り敢えず今は気を取り直して、魔獣退治に行きましょう !」
「ワカバ……」
「あいつらより先に魔獣を倒してやりましょうよ !」
私はエルサを元気付けようとした。
「うむ、そうだな !一刻も早く、皆を安心させるぞ !」
こうして私達は、魔獣のいる森に足を踏み入れた。
To Be Continued




