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ランプを片手に異世界へ  作者: 烈斗
突入、魔王城編
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第百五十七話・欲張りな騎士



魔力を限界まで吸い尽くされ、立つ力すら残ってないエルサの首もとにデビッドは杖を突き立てた。


「無様だなエルフの騎士よ……最期に何か言い残すことはあるか ?」


エルサは朦朧としながらも、デビッドを睨みつけた。

彼女の目は光を失いながらも、まだ死んではいない。


「まだそんな目が出来るのか……」


バキッ


「くっ…… !」


デビッドは冷酷にもエルサの頭部を杖で勢い良く殴打した。

苦悶の表情を浮かべながらもエルサはデビッドから目を離さなかった。


ドガッ バキッ ガコンッ


「うっ…… !んっ…… !はぁんっ !」


デビッドは杖を振り下ろし、何度もエルサに叩きつけた。

避けることも防ぐことも出来ず、無防備な状態で一方的になぶられ続けた。

血を吐き、みっともなく喘ぎ、痛みに耐えながらエルサはデビッドの容赦のない暴力を受け続けた。

更に体に絡み付く影が魔力を吸い続けている。


「はぁ……はぁ……んっ……くあぁぁぁ…… 」


息を荒げ、うつ向き、苦しそうに呻くエルサ。

全身がアザだらけになり、辺りは血で染まり、痛々しい姿を晒した。


「ふんっ !」


バキィッ


デビッドはとどめの一撃でエルサの後頭部に杖を折れそうな勢いで叩きつけた。


「んあっ…… !!!」


エルサは尻を突き出した状態で四つん這いに倒れ、床に額を擦り付けさせられた。

魔力を吸われ、ビクビクと痙攣を起こしている。

誇り高き騎士にとっては屈辱的な姿だった。


「……ルーシー……」


エルサは涙を流し、虚ろな目でルーシーを見つめていた。


「ふん……このまま貴様を殺しても面白くないな……どうせなら苦しみながら死んでもらいたい……そうだ……」


デビッドは邪悪な提案を思い付き、倒れているルーシーに近付き、杖を突き立てた。


「貴様の目の前でルーシーの首を跳ねる !それが貴様への刑罰だ」

「やめろ…… !やめてくれ !」


エルサは掠れた声で叫び、訴えた。


「殺すなら……私にしてくれ…… !頼む !」

「言ったはずだ……貴様を苦しませて殺したいと……ようやく会えた大切な妹を目の前で失い、悲しみと絶望に苦しみながら死ぬ……酒が美味しくなるな」


薄ら笑いを浮かべるデビッド。

彼にとってルーシーは元弟子でもある。

魔王様に全てを捧げた男にはただの駒でしかない。

血も涙も無い冷酷さに、エルサは背筋を凍らせた。


「さぁ……処刑だ」


デビッドは杖を大きく振り上げた。

杖が振り下ろされれば、ルーシーの首が飛ぶ。

彼女は未だに気を失ったまま、目を覚まさない。


「ルーシー…… !」


エルサは涙を流しながら力なく妹の名を呟いた。

今まで、何の為に戦ってきたのか……。

村を燃やした仇を殺す為…… ?魔獣を倒す為…… ?

違う……力なき民を……仲間を……そしてたった一人の妹を守るためだ……。

だが今の彼女にそんな力は残っていない。

目の前で妹が斬首されるのを黙って見てることしか出来なかった。


「私は……弱いな……」


心が折れたエルサは全てを諦め、自嘲し、ゆっくりと瞼を閉じた。


「ん……なんだ…… ?」


その時……エルサの脳裏に、ワカバの顔が浮かんだ。

ワカバは慈悲深く、優しい笑みを浮かべていた。


「ワカバ……そうだ……私には……やるべきことがある……」


失われた輝きがエルサの瞳に戻り、マグマのように燃え上がった。


「私は……ルーシーも……ワカバも……皆助けるんだ !うおおおおおおおおおお !!!」


エルサは最後の力を振り絞り、力の限り叫んだ。


「何だ……?戦意を完全に失ったと思ったが、まだそんな声が出せたとはな……」


一度振りかざした杖を下ろし、デビッドはエルサの方へと向かった。


「いくら叫んでも無駄だ、貴様の魔力は影が奪い続けている、力を入れる度に影が体内に刺激を与え、抵抗出来なくしているのだ」


だが突然、エルサの全身から眩い金色の光が放たれた。


「うっ……何だ…… ?」


デビッドは思わず目を覆った。

暫くして目を開けると、デビッドは目を丸くした。


「力が……溢れる……これは一体……」


全身に絡み付いていた影を払い、黄金に輝く光に包まれた、エルサの神々しい姿がそこにはあった。

その姿はまるで聖なる騎士……いや妖精だった。

デビッドはあまりにも突然すぎる現象に動揺を隠せずにいた。

魔力を根こそぎ奪われ、死にかけていた彼女から溢れんばかりの膨大な魔力を感じたからだ。


「貴様……その姿……まさか…… !ハイエルフなのか…… ?」


ハイエルフとは、エルフ族の上位種のことで、基本的な姿はエルフとそれほど変わらないが、妖精に限りなく近い存在である。

魔力も通常のエルフの比ではない。

極限まで追い込まれ、絶体絶命の状況の中で彼女の諦めない強い想いが覚醒し、エルフからハイエルフへと進化させたのだ。


「よくもルーシーとシュヴァルを傷付けてくれたな……貴様はこの私が絶対に倒す……」


エルサは黄金の光を纏いながら静かに怒りを示し、デビッドに近付いた。


「このタイミングで進化するとは……面白い小娘だ……だがどれだけパワーアップした所で、私を倒すことは出来んよ」


デビッドは身動きの出来ないルーシーの髪を掴み、杖を頬に当てた。


「見ろ !お前の大切な妹がどうなっても良いのか !」


デビッドは卑劣にもルーシーを人質に取った。


「下らんことを……」


シュッ


エルサはため息をつくと光の速さでデビッドからルーシーを奪い取った。

デビッドは何が起きたか分からずにいた。


「ルーシー、しっかりしろ……」


エルサは剣でルーシーに絡み付く影を切り裂き、ルーシーに魔力を少し分け与えた。

僅かだが、息を吹き返すのには充分だった。


「お……お姉……ちゃん…… ?」

「目が覚めたか ?」


まだ意識が完全ではないルーシーに向かって、エルサは女神のように優しく微笑んだ。

ルーシーも彼女の笑顔を見て安堵し、再び眠りについた。


「……シュヴァル、ルーシーのそばに居てやってくれ」


エルサはルーシーをお姫様だっこしながら横たわるシュヴァルに近付き、そばにそっと置いた。

シュヴァルに絡み付く影を切り払い、魔力を分け与え、回復させた。

そしてエルサは拳を握り、デビッドに向かっていった。


「覚悟しろ、魔導師デビッド……」


ハイエルフとなったエルサと魔導師デビッドは互いに睨み合った。

二人の最後の戦いが今始まる。


To Be Continued

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