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ランプを片手に異世界へ  作者: 烈斗
突入、魔王城編
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第百五十六話・逆襲のデビッド



デビッドの奇策に陥れられた二人。

不気味な黒い影が触手のように全身に絡み付き、動きを封じる。

シュヴァルの怪力を持ってしても決して脱出することが出来ない。


「貴様…… !」


悔しそうに歯軋りし、デビッドを睨み付けるエルサ。

デビッドは余裕の態度を崩さない。


「そう怖い顔をするな……私も歳を取ったものだ……若きお前達の力を見くびっていたよ……だが私は魔王様の為、ここで散るわけには行かないのだよ……はぁっ !」


デビッドは手をかざすと、エルサとルーシーとシュヴァルは突然の虚脱感に襲われ、苦しみ出した。


「んっ…… !ぐわぁぁぁっ…… !何だ……これはっ…… !はんっ……力が……抜けていく…… !」

「ま……魔力が……吸われてく…… !」


全身に絡み付いた影がエルサ達から魔力を奪っていた。

苦しむ彼女達と反比例するかのようにデビッドの傷が癒えていった。

かつてルーシーがエルサに対して使用した「強制魔力搾取(フォースマナドレイン)」の上位互換だ。

影に吸わせることで対象に接近する必要が無い、優れた闇魔術の一つだ。


「影がお前達から魔力を吸収し、私の元へ流れていくのだ……素晴らしいぞ……我が体に力がみなぎっていくぞ…… !」


影が魔力を吸う度、エルサ達は電撃を浴びたかのようにビクッと痙攣を起こし、悶絶した。

生きてるかのように脈を打つ影。

じわじわと魔力を吸われ、全身から力が抜けていった。


「苦しいか……これはお前達への罰だ、魔王軍に刃向かった報いだ……」


魔力を吸われ続け、限界が来たのかルーシーが先に膝をついてしまった。


「お……お姉……ちゃん……」


姉に向かって助けを求めるルーシー。


「姉より先に腰が抜けるとは、元魔王軍幹部とは思えんな……腰抜けめ」


衰弱するルーシーを嘲笑うデビッド。


「る、ルーシー…… !んっ……気を……はぁん……気をしっかりっ ……あっ……持てっ…… !」


ルーシーは意識が朦朧とし、焦点の合わない虚ろな目でエルサを見つめた。

エルサは喘ぎ声を漏らしながら必死にルーシーに呼び掛けた。

これ以上吸われれば命に関わる。

一刻も早くこの影から脱出したいが力を入れようとすると電流が走り、力が抜けてしまう。なす術が無い。

魔力が底を尽きるまで黙って吸われるしかないのだ。

デビッドはみるみるうちに回復していった。


「誇り高き騎士ともあろう者が情けない声を上げるとは……その無様な姿を仲間達が見たらどう思うかな……」

「くっ…… !」


デビッドに侮辱され、怒りと悔しさでエルサは苦痛に耐えながら唇を噛み締めた。

憎き敵の前で苦しみ喘ぐなど、彼女にとってこれ以上の屈辱はない。


「悔しかろう……故郷を滅ぼした仇を前にして、抵抗出来ぬまま干からびるまで魔力を吸われ続ける……何の為に腕を磨き、血の滲むような努力をしてきたのやら……ハッハッハ」


憎たらしく嘲笑うデビッド。

エルサのこれまでの努力を否定し、悦に入っていた。


「だが貴様の努力など、私の数千年間の尽力に比べれば大したことではない……長かった……魔王様の復活……魔王軍の失われた栄光……ようやく報われるのだ……」


デビッドは天井を見つめながら感傷に浸っていた。




数千年前、デビッドがまだ若き青年だった頃、魔界を支配する組織・魔王軍は今とは比べ物にならない程の脅威と強大な勢力を誇っていた。

恐怖による支配により、多くの人間達や亜人達を苦しめていた。

だが一人の勇者と魔人によって、魔王軍は衰退の一途を辿ることになる。


魔界を統治していた七人の魔王は伝説の勇者と死闘を繰り広げ、戦いの果てに永久に封印されてしまった。

雄一封印から免れた魔王・サタンも肉体を消滅させられ、魂のみの状態となった。

有力な家臣達も倒され、魔王軍は壊滅的な被害を受けた。

残されたのは三人の幹部……デビッドとカミラとゴルゴのみだった。


寂れた魔王城の玉座の前で、魔王の剣の周りに集まる三人の幹部。


「魔王様……おいたわしや……こんな姿になられて……」


辛うじて無傷だった魔王の剣……魔剣サタンを持ち上げながら嘆くデビッド。


「魔王様ぁ……妾達は……これからどうすれば良いのですか……」


カミラはだだっ子のように泣き崩れた。


「案ずるな……肉体は失っても、この魂は未だ燃え続けておる……魔王は不滅だ」


剣の中の魔王は答える。


「その内消えてしまった肉体も取り戻す予定だ……だがそれにはかなりの時間を有する……それも途方もない時間をな……貴様ら、我に忠誠を誓う気はあるか」


剣の中の魔王は三人に問いかけた。


「はい……ございます !」


デビッドに続き、カミラ、ゴルゴも忠義を誓った。


「……何十年……いや何百年……何千年かかろうとも、私は魔王様に仕え続けます !」

「妾も、何千年経っても変わらない美貌を保ち続けます !魔王様の側にいても恥ずかしくないように…… !」

「俺は……魔王様が復活するその時まで……この城をあらゆる賊や勇者達から守って見せます……」


三人はそれぞれ決意を胸に抱いた。


「魔王様……この魔導師デビッドが……必ずや魔王軍を再興させ、かつての栄華を取り戻して見せます !」


剣の中の魔王はフッと笑って見せた。


「頼もしいな……良い部下を持ったものだ……では貴様らに命を下そう、我の肉体を復活させ、魔王軍を再興させよ !何千年かかっても構わん、我は気長に待とう」

「「「はっ !」」」


魔王の名の下に三人は誓いを立てた。

デビッドを始め、三人の幹部は動けない魔王に代わり、軍の再生に取りかかった。

減少した兵達を一からかき集め、軍に敵対する勢力を時に懐柔し、時に殲滅した。

身寄りのない魔族の子供を集め、最強の戦士として育て、後の「憤怒(サタン)災厄(カラミティ)」を生み出したりもした。

魔王復活に必要な神器を集めるため、各地を探し回ったりもした。

そうしているうちに、数千年の月日が流れたのだった。




デビッドは語り終えると静かに瞼を閉じた。


「魔王様が復活なされば、魔王軍は再び世界を震撼させる程の勢力を取り戻せるだろう……実に長かった……あの頃に比べ、私はかなり年老いてしまった……だが長年の悲願がようやく成就されるのだ……それを貴様らによって邪魔されるわけにはいかんのだ……我らの数千年間の苦労が水の泡となってしまうからな」

「そんな……んっ……ことの為に……あっ……罪の無い……はあっ……人達を……くぅんっ……殺してきたのか……やっ…… !」


エルサはよがり、喘ぎながらもデビッドに問い掛けた。


「言ったはずだ……魔王様の……魔王軍復活の為ならば多少の犠牲は仕方がないと……貴様らエルフの村の連中も愚かな選択をしたものだ……我らに従属していれば、地獄を見ることも無かったものを……」

「貴様ぁ !」


その時、シュヴァルの体力が尽き、脚を曲げ、横たわった。


「シュヴァル !」

「ハッハッハ、もう、限界のようだな」


3メートルもの巨体を誇るシュヴァルですら耐えられず倒れてしまった。

ルーシーやエルサが力尽きるのも時間の問題だった。


「はぁ……はぁ……お姉……ちゃん……ごめんね……」


ドサッ


「ルーシー !」


息を荒げながら、遂にルーシーも倒れ、気を失った。

心身共に衰弱し、肌も真っ青になり、息も絶え絶えである。

それでも影は残り少ない魔力を吸い取っていた。


「やめろっ…… !これ以上ルーシーから……魔力を奪うなっ…… !」


涙を浮かべながら、エルサは掠れた声で訴えた。

本当にルーシーが死んでしまう……。

エルサは必死になって弱々しい声で叫んだ。


「ふん、まだ倒れぬとは大した精神力だ……流石は騎士団長と言ったところか……だが……これならどうだ !」


デビッドは手を開くと、影は速度を上げてエルサから魔力を吸収した。


「あぐっ…… !あっ…… !んあぁぁぁぁぁぁぁ !!!」


全身に電流が走ったかのような感覚に襲われ、エルサは顔を真っ赤に染め、苦痛に歪めながら甲高い声で悲鳴を上げた。


「あっ……はぁっ……はぁっ……」


急激に根こそぎ魔力を奪われ、エルサはだらしなく舌を垂らしながらビクビクと痙攣し、遂に膝をついてしまった。

もう立ち上がる気力すら残っていない。

エルサの視界はボヤけ、瞳から輝きが失われていた。


「ククク、いよいよ終わりだな」


エルサ達から魔力を吸収したことでパワーアップしたデビッドは静かに勝ち誇り、うつ向くエルサに近付き、首もとに杖を突き立てた。


To Be Continued

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