第百五十五話・その名はシュヴァル
空中に描かれた魔方陣から颯爽と現れ、エルサ達の窮地を救ったのは、かつて魔王軍幹部の男に仕えてきた一頭の馬……コシュタバワーだった。
エルサと戦った時、彼女の強さに圧倒され、あっさり主人を鞍替えしていたのだ。
デビッドがダウンしてるうちにエルサはルーシーに駆け寄り、回服薬を飲ませた。
電撃によって焼け焦げた彼女の肢体は傷一つ残らずに全快した。
「よく来てくれたな……ありがとう、コシュタ……コシーター……なんだっけ」
「コシュタバワーだよお姉ちゃん」
「ああそうそう、コシュタバワーだ」
コシュタバワーは嬉しそうにエルサの顔にすり寄った。
「それにしても名前が覚えにくいな……なぁ、自分で名前を変えても良いのか ?」
「うーん、良いんじゃない ?今のご主人様はお姉ちゃんなんだし」
「うむ……では……シュヴァルなんてどうだろうか !」
エルサはどや顔で名付けた。
コシュタバワー改めシュヴァルは新たな名前が気に入ったのか嬉しそうにエルサの頬を舐めた。
「シュヴァル……良いね、そっちの方が呼びやすいよ !」
ルーシーもエルサがつけた新たな名前に肯定的だった。
「まさか……デュークの愛馬すら仲間にするとは……つくづく面白い連中だ……」
空中から叩き落とされたデビッドはフラつきながらも立ち上がり、杖を握り締めた。
放とうとした魔法も不発に終わり、宙に描かれた魔方陣も消滅した。
「シュヴァル、私達に力を貸してくれ」
エルサとルーシーはシュヴァルにまたがり、騎乗した。
ルーシーはエルサの背中にしがみついた。
「馬が一頭増えただけで戦況が変わるとは思えんがな」
「やってみなければ分からんだろ ?」
そう言うとエルサはシュヴァルを走らせ、デビッドに向かって行った。
「裏切り者はまとめて殺してやろう !落雷合唱 !」
デビッドが叫ぶと空中の至るところに赤黒い光球が8つ出現し、それぞれ電撃を放ち始めた。
電撃は落雷のように降り注ぎ、シュヴァルを襲った。
「かわすぞ !シュヴァル !」
エルサの指示を受け、シュヴァルは自慢の脚力を生かして部屋中を駆け回り、放たれる電撃の嵐の中を掻い潜った。
大地を蹴りながら俊敏に動き回り、紙一重で電撃をかわしていく。
「私達も負けてられんぞ !竜巻激槍 !」
エルサは片手に持った剣に風を纏わせ、竜巻を一直線に放ち、光の速さでデビッドに直撃した。
「ぬぅ…… !こんなものぉ !」
デビッドは杖を振るい、放たれた竜巻を凪ぎ払った。
「風烈弾 !」
ルーシーも風の弾丸を四方八方に拡散された。
放たれた風の弾丸は電撃を放ち続ける光球を相殺した。
キィン カキィン カァァン
落雷が止み、デビッドに接近したエルサはシュヴァルに乗った状態で剣を振るった。
シュヴァルは圧倒的な体格差で威圧し、エルサは激しく攻め立てた。
デビッドは徐々に防戦一方になって行った。
ドガッ
「ぐぅ…… !」
シュヴァルの長い前足がデビッドを蹴り上げた。
蹄が胸に後が残る程ヒットし、デビッドは回るように吹っ飛ばされた。
「神月颶風!!!」
エルサは隙を見逃さず、デビッドを風の牢獄に閉じ込めた。
内部の風が刃のように全身を切り刻む。
全身を包むフードがビリビリに裂かれた。
「はぁぁぁぁぁぁぁ !」
ズバァッ
エルサはシュヴァルを走らせ、身動きの取れないデビッドと交差し、一太刀を浴びせた。
「がはあっ !」
デビッドは大量の血を流し、膝をつきながら崩れ落ちた。
「今度こそ……やったのか…… ?」
実感が湧かなかった。倒したと言う手応えを感じない。
相手は憎くて仕方がなかった仇。数千年も生き続ける魔界四天王最強の男にしてはあっさりとした決着に違和感を覚えた。
モヤモヤした気持ちを抱えたまま、エルサはシュヴァルから降りた。
「お姉ちゃん、やったね」
「……だが……何かがおかしい……悪い予感がする……」
その時だった。
足元から黒い影が現れ、蔦のように二人に絡み付いた。
「何 !?」
気付いた時には遅かった。
シュヴァルも全身を影にからめ取られ、拘束されてしまった。
デビッドは勝ち誇ったように不気味な笑い声を上げながら、ゆっくりと立ち上がった。
「偉大なる魔導師を舐めすぎだ……」
デビッドは手を振りかざすとエルサとルーシーを影ががんじがらめに締め付けた。
固く強く拘束され、どんなに力を入れてもほどくことは出来なかった。
「くっ…… !」「放してよ !」
身動きの取れない二人と一頭の前にデビッドは近付いた。
「貴様……何をする気だ……」
「気高き騎士よ、かつての弟子よ……お前達の力を頂くぞ……」
デビッドはかつてない邪悪な笑みを浮かべた。
To Be Continued




