第百五十一話・退屈
爬虫の騎士団と魔界四天王のゴルゴによる激闘は引き分けに終わった。
ラゴンとゴルゴは限界を超えて戦い、力を出し切り、仰向けに倒れた。
「大丈夫かラゴン !」
三人は急いで倒れているラゴンに駆け寄り、ザルドが彼を抱き起こした。
「いてて……身体中が鈍器で殴られたみてえにいてぇ……もう立てねえよ……」
ラゴンは弱々しく笑みを浮かべた。
全身は傷だらけで痣が広がっており、顔もパンパンに腫れていた。
「ったく、これだから戦闘バカは……」
メリッサは呆れながら悪態をついた。
その時、ゴルゴがゆっくりと立ち上がった。
三人は警戒し、身構えた。
「そう警戒するな……今の俺に戦う気はない……」
「え ?」
ゴルゴは立ち上がったと思えばすぐに腰を下ろし、胡座をかいた。
彼の体は思ったよりダメージが大きく、意識を保つのでやっとの状態だった。
「数千年もの間、俺はこの城を守り続けた……幾多の侵入者達をこの手で葬ってきた……皆目的は似たようなものだった……城に眠る財宝……魔王様の首……薄汚い欲望を抱えた奴等ばかりだった……」
普段は無口のゴルゴだったが珍しく長々と語った。
「だがお前達からはそのようなものを感じなかった……特に竜人……。拳の一つ一つに純粋な思いが込められていた……お前達の目的はなんだ……何の為に戦っている……」
ゴルゴは四人に問い掛けた。
「俺達は……ただの付き添いみたいなもんだ……魔界には強い奴等がゴロゴロいる……だから戦ってみてえと思った……それだけだ……」
「そうか……」
ゴルゴはクスッと笑った。
石のように表情筋が固い彼が笑ったことなど数千年間の中で一度も無かった。
四人の竜族と出会い、拳を交えたことで、石のように固く閉ざされたゴルゴの心に変化が訪れた。
「俺は……待っていたのかも知れない……退屈を凌げる何かを……全身を燃え上がらせる刺激を……」
ゴルゴは数千年もの間、ずっと城の中に閉じ籠っていた。外の世界など知るよしも無かった。
番人として城を守ることのみが彼に与えられた使命……ゴルゴの生きる意味だった。
だがゴルゴは刺激も変化も無い毎日に退屈していた。
永遠とも言える悠久の時を……。
「お前……もしかして外の世界に興味があんのか ?」
「な……何を馬鹿なことを…… !」
ゴルゴの顔が少し赤くなった。
内に秘めた想いを看破され、流石に恥ずかしくなったのだろう。
「もし良かったらさ、魔王軍なんかやめて俺達の仲間にならねえか ?」
「「「はぁぁぁ !?」」」
ラゴンの提案にゴルゴだけでなく、他の三人も思わず仰天した。
「何言ってんのよ !この男は魔界四天王なのよ !?」
「良いじゃん別に、それに顔も竜っぽいし、俺達の仲間に相応しいと思うぜ ?」
「そう言う問題じゃねえだろ !」
口論を始める四人を前に、ゴルゴは呆気にとられていた。
この四人はゴルゴにとっては大した敵ではない。
一人一人が相手なら、まず負けるはずが無かった。
だがゴルゴは真の姿になったにも関わらず、引き分けた。
それは、四人の絆……仲間同士のチームワークがゴルゴの力を上回ったからだ。
そのことをゴルゴは理解し、同時に彼はこの四人に妙に惹かれていった。
単純な強さだけでは無い……ゴルゴの知らないそれ以上の何かを彼等は持っている……。
「魔界を出てさ、俺達と一緒に外の世界を冒険しようぜ ?絶対楽しいから !」
ラゴンはさっきまでの疲労が嘘のように満面の笑みを浮かべながら手を差し伸べた。
他の三人も心底嫌と言う訳ではないようだ。
あまりにも唐突な勧誘に驚いたに過ぎない。
「まあ仲間は多いにこしたことはないし……」
「元々少数精鋭だしね……」
「でもまた男かー益々むさ苦しくなるなー……姐さんさえ居れば満足だけど」
最初こそ困惑したものの、ラゴンの提案に反対の者は居なかった。
ゴルゴは大きな声で笑い声を上げた。
「敵である俺を……つくづく面白い奴等だ……良いだろう、是非俺をお前達の仲間に加えてくれ」
「あっさり !?」
ザルドはあまりにも早すぎる返事に驚いていた。
迷いは無かった。元々魔王に対して忠誠心など欠片も無い。
ゴルゴはラゴン達と共に外の世界を見てみたいと言う気持ちの方が強かった。
「ようこそ、爬虫の騎士団へ、これからも宜しくな、ゴルゴ」
「ああ……」
ラゴンとゴルゴは固く握手を交わした。
この瞬間、爬虫の騎士団に新たなメンバーが加わった。
二人目の四天王・ゴルゴも陥落。
残る四天王は後二人だ。
ここは第三層の大部屋……。
ヒルデビルドゥが爪を噛みながら苛立ちを抑えきれずにいた。
彼の配下の者達が彼を取り囲むように配置
されていた。
「全く、こんな所まで攻め込まれるとは……カミラとゴルゴは何をしてるんだ…… !」
そこへ、一人の部下が慌てながら入ってきた。
「ヒルデビルドゥ様、申し上げます !侵入者との戦いでカミラ様が戦死、第二層にてゴルゴ様が敵側に寝返りました !」
「何だと !?四天王が揃いも揃って何て様だ !これだから老害共は…… !」
ヒルデビルドゥは怒りに身を震わせていた。
「まあ良い……やはり今の魔界を支えられるのはこの僕しかいない……侵入者共め……目に物を見せてやる…… !」
その時、激しい物音と、兵士達の悲鳴が聞こえた。
「ここが第三層か……たく、キリがねえな……」
マルク、ミライ、エルサ、ルーシーが息を切らしながら第三層に辿り着いた。
ここに来るまで、幾多の兵士達を蹴散らしてきたが流石に長時間戦い続けて体力も消耗し始めたようだ。
数も四人に減って個々が抱える負担も大きくなっていた。
「お前達……ここまで来るとは大したものだ……この魔界四天王の一人ヒルデビルドゥが貴様らを皆殺しにしてやる……」
ヒルデビルドゥはマルク達を威圧し、鋭い眼光で睨みつけた。
「へぇ、少しは骨がありそうだなぁ」
マルクはヒルデビルドゥを見ながら不敵な笑みを浮かべた。
To Be Continued




