第十三話・男勝りなエルフ
ひったくり犯は捕まり、駆け付けた衛兵達に連行された。
「許してくれぇぇぇぇ !金がほしかったんだ !生活が危なかったんだぁぁぁぁ !」
男は全裸でみっともなく鼻水を垂らし、喚きながら連れていかれた。
「あの、荷物を取り返していただいてありがとうございます」
ひったくり被害に遭った女性が、ひったくり犯を捕まえた女にお辞儀をしていた。
「いえ、私は当然のことをしたまでだ」
女は謙遜しながら優しく微笑んだ。
私は女の様子をじっと見ていた。
立派に装飾された装備、腰に携えた銀色の剣、170以上はある高い身長、綺麗で長い金髪にキリっとした目つき、パリコレとかに出てそうな美人モデルのような容姿をしていた。
何より長く尖った耳が特徴的だった。
「ん、私の顔に何かついているのか ?」
女は私達に気付いた。
「あの娘、エルフのようですね」
「エルフですか ?」
ランプの中のリトが察した。エルフと言えば耳が長く尖っていて外見が良くて長命な種族……だったっけか……。
「君達は……見かけない顔だが……旅人か ?」
エルフの女がこちらに近付き、訪ねてきた。
「あ……はい。偶然この町を通りかかったんです」
私は緊張しながら答えた。
「そうだそうだ !あのすみません !ご主人様がピンチなんです !助けてください !」
突然リリィが叫びだした。そうだ、ヴェルザードが満身創痍だったのを忘れてた。
「うう……気持ち悪い……」
ヴェルザードは顔面蒼白で今にも息絶えそうになっていた。
「これは大変だ……そうだ、皆一先ず私の家に来るといい。すぐ近くなんだ」
女は親切に提案した。
「ありがとうございます、助かります !」
私としても泊まる当ても無かったから有り難かった。
かくして私達は女の家に招かれることとなった。
女の家は広く綺麗で清潔感溢れていた。
ヴェルザードは氷を頭に乗せ、ベットで寝込んでいた。
「すみません、ご主人様は外出に慣れていないもので……」
「気にするな。困ったときはお互い様だ」
女は気さくに笑った。男らしい口調で格好いい。
「そうだ、お互い自己紹介がまだだったな。私はエルサ。この町の治安を守っている騎士だ。宜しく頼む」
見た目からして騎士っぽいなと思ったらやはりその通りだった。
「私は安住若葉です。ワカバって呼んでください」
「私はご主人様のお供リリィと申します」
私とリリィはエルサと握手を交わした。
「それにしてもエルサさんて本当にお強いんですね。あんな風のように相手の服を一瞬で切り裂けるなんて……」
騎士だから強いのは当たり前だと思うがそれにしても人間技じゃなかった。
「ハハハ、日頃から鍛練に励んでるだけだ、特別なことは何もしていない」
「本当なんですか……?」
私は信じられないという顔をした。
「所で……町の治安を守るって言ってましたけど……そんなに酷いんですか…?ひったくり犯とかも白昼堂々暴れてましたし……」
「あぁ……かつてはそこまでひどく無かったのだが……最近森で目覚めた魔獣の影響で資源が不足してしまってな……」
魔獣……あのミーデが召喚していたのと同じ……?
魔獣が暴れるせいで資源が調達出来ず、町が貧しくなってきてるということか……。
「資源が不足すれば、やがて人々の心も曇り、余裕が無くなり、ああ言った争いも増えるだろう……あのひったくりも、日々の暮らしがままならないから犯罪に手を染めたんだ……。私は何としてでも魔獣をこの手で倒したい」
エルサは拳を強く握った。瞳には魔獣に対する強い怒りが溢れてるようだった。
「すまないな、旅人さん達にこんな暗い話をしてしまって……」
エルサは寂しげに笑った。
「エルサさん……」
その時、外が騒がしくなった。男の叫び声が聞こえた。
「大変だぁぁぁぁ !誰か来てくれぇぇぇ !!!」
「何事だ !」
エルサはすぐに家を出た。
「えっと……私は……」
私はどうすれば良いか一瞬迷ったがすぐにエルサの後に着いていった。
リリィはヴェルザードの看病に専念することにした。
町の広場に行くと、人が集まって囲んでいた。
私は何とか近付いてみた。
すると血だらけになって片腕を喪った男が倒れていて、付き添いの人が介抱していた。
「しっかりしろ !何があった !」
真っ先にエルサが駆け付けた。
男は満身創痍で蚊の鳴くような声で答えた。
「魔獣が……巨大な……魔獣が現れて……」
「魔獣……!だと…… !」
なにやらまたしても事件が起こりそうな予感がした……。
To Be Continued




