第百四十七話・少年少女
魔王城の大広間で悪魔三銃士とグレン達の戦いが始まった。
下っぱとはいえ、彼等は一応魔王軍の実力者達。幾多の冒険者や騎士団と渡り合ってきた。楽に勝てる相手ではない。
だがグレン、コロナ、クロスもただの子供ではない。それぞれ修羅場を潜ってきた。
グレンは鎧魔獣を一刀両断し、コロナは憤怒の災厄の一人アイリを倒したことがある。
どんな敵だろうと決して負けない。
「ライナー、貴方は誰と戦うつもりですの ?」
「えーっと……俺は……あの目付きの悪い黒髪の美少年ですかね……なんか見ててムカつくんですよ」
「嫉妬だゾ」
「うるせえ」
三人はそれぞれ誰を相手にするか相談をしていた。
ライナーは不貞腐れながらクロスを指差した。
「そう、サイゴ、貴方は ?」
「オラは……あの魔女っ子と戦ってみたいゾ……」
サイゴは少し照れながら言った。
「何照れてんだよロリコンが !」
「で、でもレヴィさんはあのオーガのガキにリベンジしたいはずゾ 、丁度良いゾ !」
サイゴは慌てて弁明した。
「いえ……何かサイゴとあの小娘の組み合わせは色々と危険ですわ……ここは妥協して、私があの魔女と戦いますわ !」
「えー……」
サイゴは落胆した様子だった。
「さあ、始めますわよ !」
三人はそれぞれ戦闘体勢に入った。
「コロナ……だっけ ?油断すんなよ……こいつらは弱くはねえ…… !一度戦ったことがあるからな !」
「うん…… !」
グレン達はそれぞれ武器を振り上げ、レヴィ達に向かって走り出した。
対戦カードは以下の通りだ。
グレンvsサイゴ
コロナvsレヴィ
クロスvsライナー
「「「はぁぁぁぁぁぁぁ !!!」」」
両チームは凄まじい気迫でぶつかり合った。
ライナーは全身に巻かれた包帯を鞭のようにしならせ、まるで生きた触手のようにクロスを狙って襲い掛かる。
「包帯捕獲 !」
クロスは素早くかわし、黒い翼をはばたかせ、衝撃波を放ち、襲い来る包帯を斬撃でバラバラに切り裂いた。
「空斬 !」
ズバッ ズバッ ズババッ
「使い魔のくせに強いっすね !」
「僕をただの使い魔扱いすると、後悔することになるぞ」
クロスは不敵な笑みを浮かべ、手招きをし、ライナーを挑発した。
サイゴはグレン目掛けて棍棒を大きく振り下ろした。
キィィン
グレンは剣で頭上に振り下ろされた棍棒を受け止めた。
金属音が重く響く。
互いに力を緩めること無く、拮抗状態が続く。
「この前はよくもレヴィさんを倒してくれたな !レヴィさんの仇はオラが取るゾ !」
「くっ…… !」
サイゴの力が強まり、グレンはやや押され気味になっていた。
このままでは剣ごとグレンが叩き潰されてしまう。
「このままペシャンコにしてやるゾ !」
サイゴは益々力を込めた。
体格差もあってか力負けし、グレンは腰が低くなっていた。
「俺は……こんな所で負けるわけにはいかねぇぇぇぇ !」
グレンは剣に雷の魔力を集中させた。
剣は雷を纏い、黄色く発光し始めた。
「何ゾ !?」
「大鬼感電 !」
グレンは剣から電流を流し、密接してる棍棒を通してサイゴを感電させた。
「あばばばばば !」
全身に電流が走り、サイゴは痺れながらも反射的にグレンから離れた。
「電撃…… !?いつの間にそんな技を…… !こりゃ遊んでられないゾ…… !」
サイゴは大きな瞳でグレンを見つめ、気を引き締め、棍棒を握り締めた。
「オーガの戦士の力、見せてやるぜ !」
グレンは腰を低く落とし、雷を纏った剣を構えた。
「旋風の舞 !」
コロナは杖を掲げ、複数の旋風を発生させ、レヴィを取り囲んだ。
「そんなもので私を包囲できると思わないで下さいまし !」
だがレヴィは鞭を大きく振り回し、自らを包囲する旋風を一気に消し飛ばした。
「可愛らしい魔女っ子さん……私貴女みたいなぶりっ子が一番気に入りませんわ !」
レヴィは敵意を剥き出しにしてコロナを睨み罵倒した。
「えええええ !?」
コロナはよく分からず、困惑していた。
「ちょっと可愛いからって調子に乗るんじゃありませんわ !」
レヴィは叫ぶとコロナに向かって鞭を振り上げた。
歳は同じくらいなのに性格はまるで真逆。
コロナはそう思った。
ピシィン
レヴィの鞭とコロナの杖がぶつかり、不協和音が城中に響き渡る。
「あなた……小さいくせにやりますわね…… !」
「あなたこそ……私と同じくらいじゃない…… !」
「失礼なことをおっしゃらないでくださいまし !?こう見えて私は大人ですわよ !」
レヴィは怒り、力任せに鞭を振り回し、コロナをふっ飛ばした。
「きゃう !」
コロナは地面を転がるように倒れた。
更に不覚にも杖を手放してしまった。
「ラッキーですわ」
それを見逃すレヴィではない。
彼女は鞭で杖を絡めとり、奪ってしまった。
「これが魔女の力を引き出す魔法の杖ですのね……」
レヴィは杖をマジマジと舐め回すように見つめた。
「あ…… !返して…… !」
コロナは焦り、泣きそうになりながらもレヴィに訴えた。
「返してほしくば力ずくで奪いに来なさい !」
レヴィは容赦なく鞭を振るい、強く地面を叩き付け、近寄れなくした。
「あれがないと……私は……」
すっかり弱気になり、コロナは萎縮してしまった。
魔女にとって魔法の杖は相棒のようなもの。
それを失えば、ただの人間と変わらない。
「でも……皆……戦ってるのに……」
コロナは血が滲む程拳を強く握り、悔しさに身を震わせた。
「もう戦意喪失ですの ?それじゃ一気に決めますわよ !」
レヴィは鞭を振り上げ、コロナにトドメを刺そうとした。
タッタッタッタッ
コロナは鞭をかわすとレヴィに向かってただがむしゃらに走り出した。
そして距離を詰めるとレヴィの頬を思い切り引っ張った。
「杖を返して !」
「いひゃひゃひゃ !!!はやひははひ !」
レヴィの頬はゴムのように伸びた。
勿論やられっぱなしというわけではなく、レヴィはお返しとばかりに同じくコロナの両側の頬を引っ張った。
「ひひゃひひひゃひー !」
コロナの丸く柔らかい顔は餅のように伸びた。
まるで子供と子供の喧嘩のように二人は互いの頬を引っ張り合った。
どちらも意地を張り、頑なに手を放そうとしない。
やがて両チームの戦いは苛烈を極めていった。
エルサ達が城に乗り込み、兵士達を倒している頃、私は自室から出られずにいた。
「失礼します」とペルシアが部屋に入ってきた。
「あの……城の中が騒がしいんですけど……何かあったんですか ?」
「ワカバ様、ミーデ様のご命令です。部屋から一歩も出てはいけません、侵入者達が城に乗り込んできました」
間違いない、ヴェルザード達だ !
助けに来てくれたんだ …… !
「ワカバ様の安全の為、私は常にワカバ様のお側にいます」
「あ……ありがとうございます……」
私は笑顔で頷いた。
とは言え、どうしよう……。
皆が城で暴れてる間に部屋から抜け出してリトを取り戻しに行きたい所だけど……ペルシアが側にいるから自由に動けない……。
私はチャンスが来るのをひたすら待つしか無かった。
To Be Continued
 




