第百四十話・激戦の始まり
「ペルシアさん……ワカバさんの様子はどうですか ?」
誰もが寝静まった真夜中……ペルシアは廊下で水晶を手にミーデと通信していた。
「は……はい……ワカバ様はお変わりありません……今日も夕食を美味しそうに食べていました」
「その情報はいらないですねぇ」
ミーデはため息をついた。
「まあ良いでしょう……それより、魔王様からのご命令です」
「魔王様からですか ?」
ミーデは不気味に口角をつり上げた。
「彼女を調教して欲しいのです、イフリートを召喚する為の操り人形にする為に」
「そんな……」
ペルシアの表情が強張った。
「何ですかその反応……まさかあの小娘に情が移ったなんてこと、ありませんよねぇ ?」
ミーデに問い詰められ、ペルシアは唾を飲んだ。
「そ、そんなことはありません」
「ですよね、兎に角、あの召喚士は任せましたよ、ペルシアさん」
そう言い残し、通信が切れた。
ミーデに感づかれることはなかったようだ。
「はぁ……」
ペルシアは肩の力が抜け、壁にもたれかかった。
「ワカバ様にそんなこと……出来ませんよ……あの人は私の友達ですから……」
ペルシアの頬が赤く染まりつつあった。
口元が緩み、どうしてもニヤニヤが止まらない。
「ずっと一緒に入れたら良いですね……」
遂に来た……。
俺達は洞窟を抜け、ようやく魔界に辿り着いた。
ここがワカバの囚われている魔界……。
ルーシーの案内のおかげで、特に苦労するなく、トラブルも起こらなかった。
それにしても、想像していたよりずっと不気味で、背筋が凍るような世界だな……。
空は暗いし、空気も不味い。
外の世界に慣れすぎたのもあるが、この場所で長居したくはないな。
「あの大きな城……あそこが魔王軍の拠点だよ」
ルーシーは指を指した。
「魔王様もあそこにいる……」
「ワカバやリトが囚われてるのもあの城のようだな」
エルサは城に向かってキッと睨み付けた。
「よっしゃあ !血がたぎるぜ !」
ラゴンは早く戦いたくてうずうずしていた。
「全く、アンタはブレないわね」
側でメリッサが苦笑した。
「俺もラゴンに同意だぜ、魔王軍のイカれたやつらをぶちのめしたくてうずうずするぜ !」
「男ってほんと野蛮よね~」
ララはザルドの様子を見て呆れていた
「ヴェル、ここからどうする、一斉にかかるか……それとも」
「勿論魔王軍を引き付ける役と城に侵入してワカバを救出する役に分けるさ」
かつて闇ギルド・憎悪の角のアジトに乗り込んだ時を思い出した。
あの時は俺、マルク、エルサが外で敵を引き付け、リリィ、ミライが中へ潜入してワカバを助けたんだっけか……。
「だが今度は闇ギルドなど比べ物にならない大規模な組織が相手なんだ。きちんと戦力を分担した方がいい」
エルサは俺に言ってきた。
「ああ……そうだな」
話し合いの結果、外で敵を引き付ける役は俺、ヒュウが引き受けた。
雑魚相手なら二人だけで十分だ。
城内に侵入し、敵と戦う役はラゴン率いる爬虫の騎士団、マルク、ミライ、エルサ、ルーシー、グレン、コロナ、クロスの役目だ。
外よりも城の中の方が守りが固いはず……。
そこに戦力を集中させた方が良い。
リリィは小さな蝙蝠に変身出来るのと過去に潜入経験がある。
彼女は戦いで警備が甘くなってる隙を狙い、ワカバを救出する役目を担った。
「皆、無事でいろよ」
「愚問だな……」
俺達は魔王城へ向かった。
全てはワカバとリトを助ける為に……。
「ふん……やはり来たか……ウジ虫共が……」
魔王部屋で魔王が千里眼を使い、静に笑い声を上げた。
「魔王様、例の人間界からの侵入者共ですか ?」
デビッドは魔王に尋ねた。
「そうだ……思ったより早かったな……それほどまでにあの小娘が大事と見た……尚更渡すわけにはいかんな……デビッドよ……」
「はっ…… !すぐに兵を向かわせます」
デビッドは部下に命じ、侵入者の排除に向かわせた。
それだけではない。デビッドは懐から沢山のカードを取り出した。
「魔獣共よ……お主らにも働いてもらうぞ !行ってこい !」
デビッドは魔法を発動させ、カードをバラまいた。
バラまかれたカードは空中で散らばり、外へと向かって飛んで行った。。
複数の魔獣が城の外で召喚されるだろう。
「聞こえるか、カミラ、ゴルゴ、ヒルデビルドゥ !侵入者が魔界に現れた !我ら魔界四天王の名にかけて、全力で排除するぞ !」
デビッドは水晶を使い、他の四天王に伝達し、呼び掛けた。
「たっぷり可愛がってやるのじゃ……後、妾の為の餌になってもらうぞ」
「面倒なことになってきましたね……」
「わかった……絶対に近付けさせない……」
他の四天王もそれぞれ動き出した。
カミラは自身の駒である不死族隊を指揮する為、城の外に出た。
ゴルゴは魔王城第二層に、ヒルデビルドゥは第三層、デビッドは第四層にそれぞれ待機した。
魔王軍の全ての勢力が、ワカバを救おうとする無限の結束や爬虫の騎士団達に牙を向く。
To Be Continued




