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ランプを片手に異世界へ  作者: 烈斗
突入、魔王城編
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第百三十九話・ペルシアのスープ



「この先だよ」


ルーシーに案内され、俺達は魔界に続く道をひたすら歩き続けた。

そして俺達は巨大な洞窟の入り口の前に立った。

どうやら戦闘能力の高い危険な魔物が生息するこの洞窟が魔界と繋がっているらしい。

魔王軍は普段から洞窟を通って外の世界に行くようだ。

この場所は並の冒険者程度では足を踏み入れることすら許されない危険区域に指定されていた。


「そんな所に今から行くの……」


コロナはガッチリ杖にしがみつき、震えていた。


「心配ないよ、僕の魔術で魔物に認識されないようにするから、魔王軍はそうやっていつも洞窟を抜けてきたから」

「そうなのか……」


エルサは感心している様子だった。


「この先に魔界が……」


俺は洞窟を見つめ、息を飲んだ。

ここを進めば、魔界へ辿り着く。

謂わば未知の領域。

まさか俺が魔界に行くなんて夢にも思っていなかったな。


「ビビってんのか、ヴェル」


ヒュウが俺の肩を叩いた。


「って誰がだよ」

「肩に力が入りすぎだぜ、気持ちは分かるがな……俺達が戦う相手は魔王軍そのものだ、上手く女だけを救ってさっさと逃げ出せれば話は別だが」

「おいおい、竜族がそんなセコい真似してどうすんだ」


ラゴンが割って入ってきた。


「折角強い奴と戦えるチャンスなんだぜ !?全力で喧嘩しに行かねえと損だろ !」


ラゴンは鼻息を荒げながら興奮気味に語った。

流石根っからの戦闘種族……恐れを知らないな。


「ま、俺達はこれまでも強敵達との戦いを乗り越えてきたんだ、今回も何とかなるぜ」


マルクは腕を組みながら言った。


「マルク兄ちゃんかっけえ !」


グレンは目をギラギラ輝かせていた。


「兎に角皆、準備は良い ?僕の後についてきてね、離れちゃダメだよ」


ルーシーが全員に声をかけた。

俺達はルーシーの後に続きながら、洞窟の中へと入っていった。




魔界に連れてこられて、何日経ったか分からない……。

リトは多分大丈夫だろうけど……。

皆のことが心配だ……。「憎悪(ヘイトリッド)(ホーン)」の時みたいに、無茶しながら助けにくるかも知れない……。

あの時は鎖で完全に拘束されて身動き出来なかったけど、今回は何故か自由に動ける。部屋からは出られないけど……。

上手く行けば隙を突いて脱出出来るかもしれない……。

私はそれまで部屋で大人しくしていた。


「ワカバ様ー、もうすぐ夕食が出来上がります、もう少々お待ち下さい」


ペルシアの声が台所から聞こえた。

彼女はミーデの部下で私のお世話係だ。

身の回りの世話を何でもこなしてくれる。

有能なメイドだ。ただ、ある一点を除いて……。


「きゃあっ !?」


謎の爆発音とペルシアの悲鳴が聞こえた。


「ど、どうしたんですか !?」


私は思わず台所へ駆け付けた。

すると、辺りに鍋が転がり、散乱する食材、黒こげになったスープを全身に浴びてへたりこんでるペルシアの姿があった。


「も、申し訳ございません……ワカバ様……少々手違いがございまして……」


少々なんてもんじゃない……。

ペルシアは他の家事は得意だけど唯一料理だけが苦手だった。

彼女の作る料理は正直言って舌がまず受け付けない。

おかげでいつも空腹だ。


「あの……もしかして……お料理……苦手なんですか…… ?」

「申し訳ございません……ただいま作り直しますので……もう暫くお時間を !」


普段は冷静でクールな彼女だが、今は取り乱し、涙目になっていた。

敵とは言え、流石に可哀想になってきた。


「あの……良かったら……お料理……一緒に手伝いますよ ?」

「そんな !ワカバ様にそのような真似をさせるわけには…… !」


ペルシアは大慌てで首を横に振った。


「そんな気を使わなくて良いですよ、それに、料理なら多少は作れますから」


私はペルシアに笑顔を向けた。


「あ、有難うございます……」


ペルシアは恥ずかしそうに頭を下げた。


一応リリィと一緒に料理を作ったことはある。

だから大丈夫なはず……。




妙な展開になったけど、私とペルシアは一緒に料理を作ることになった。

元々は卵スープを作る予定だった。


「ここは……こうしてっと……」


私は卵を溶き、中火にかけた鍋に入れ、グルグルかき回した。


「ワカバ様、手際が良いですね……」


ペルシアはまるで別人のように目を輝かせていた。

これでもリリィの料理に比べたら遠く及ばないんだけどなぁ……。




「よし…… !出来た !」


10数分が経過した。

私とペルシアが力を合わせ、卵スープが完成した。

少し緊張したが、何とか美味しそうに仕上がった。


「おお !なんて綺麗な色…… !」


ペルシアは感激のあまり涙を流していた。


「では、冷めないうちに一緒に食べませんか ?」

「い、いえ、私はメイドですし……ワカバ様と一緒に食べるわけには…… !」


ペルシアはやんわり断ろうとした。


「一緒に作ったんだからペルシアさんも食べてください、遠慮しないで、はい、あーん」


私は焦れったくてスープを掬ったスプーンをペルシアの眼前に差し出した。


「で……では……」


ペルシアは口を大きく開け、恐る恐るスープに口をつけた。


「……美味しいです……」

「本当ですか ?」


私は少しホッとした。


「では、ワカバ様にばかりさせてはお世話係の名が泣きます、私にもやらせて下さい」

「え、あっちょ……」


ペルシアは有無を言わさず、私の口にスプーンを突っ込んだ。


「どうですか、ワカバ様」

「お、美味しい……です……」


私は少し恥ずかしがりながら微笑んだ。

ペルシアも少し嬉しそうに喜びの表情を浮かべた。

それからは二人で食事を楽しんだ。

自分が拐われた人質であることを忘れる程に……。


「ワカバ様って……良い方ですね」

「そ、そうですか ?」


ペルシアはうつむきながら呟いた。


「こんな風に二人で料理をしたり、二人で会話をしながら食事を楽しむなんて……今までありませんでしたから……」

「ペルシアさん……」


ペルシアは切ない笑顔を浮かべた。


「私、人見知りでして……城でお友達なんて全然出来ませんでした……無愛想だの可愛いげがないだの……他のメイド達に陰でこそこそ言われたりもしました……」

「そうだったんだ……ひどい……」


クールに見えるペルシアも、悩みを抱えていた。

ずっと独りで頑張ってきた。

魔王軍だからって、皆が皆悪人ってわけじゃない。

私達と同じように苦悩し、それでも歯を食い縛って生きている。


「……だったら……私がペルシアさんの友達になるよ」

「え…… !?」


ペルシアは目を丸くした。


「私、ペルシアさんのこと嫌いじゃないから……」

「ワカバ様……」


ペルシアは私の両手を強く握った。


「此方こそ、ふつつか者ですが、宜しくお願い致します !」


ペルシアはあまりにも嬉しかったのか、鼻水を垂らしながら歓喜した。


「う……うん……宜しくね」


こうして私はペルシアと友達になった。

半分同情もあったけど、私自身、魔界に連れてこられて心細かったのかも知れない。

それに、彼女は悪い人じゃないと思ったし、もっと仲良くなりたいとも思った。

自分でも勝手だとは思うけど……。


だけど私の軽はずみな行動が、その後思わぬ事態を招くことになるとは、この時の私は想像もしていなかった。


To Be Continued

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