第百三十八話・魔族達の休息
「魔王様、失礼致します」
魔王の部屋にミーデがやって来た。
玉座に魔王の魂の宿った剣が飾られている。
「ミーデよ……入れ」
魔王の許可を得て、ミーデは玉座の前で膝をつき、頭を垂れた。
「魔王様、これがかのイフリートの宿った神器、魔法のランプでございます」
ミーデは懐からランプを取り出し、魔王の前に差し出した。
「ほう……久しいな、イフリートよ……元気にしておったか ?お互い不自由な姿になったものだなぁ」
魔王は親戚の子供に接するような穏やかな声色でランプに話しかけた。
「イフリートと呼ばないで下さい、今の私はリトです」
リトは無愛想に答えた。
「ふん、人間の小娘に新たに名を与えられ、契約を結んでいるのか」
魔王は咳払いをした。
ワカバはイフリートにリトと言う名を与えたことにより、正式に召喚士と召喚獣との契約が結ばれてたのだ。
二人は硬い鎖のような絆で繋がっている。
例え魔王と言えど、断ち切ることは出来ない。
「思い出すな……貴様と過ごした数千年前の記憶を……」
「私は断片的にしか覚えていませんがね……」
「覚えておらんのか……まあ良い……どうだ ?もう一度我の下につかぬか ?今ならこれまでの行いを許してやっても良いぞ ?」
「私には既に、心に決めた主が居ますから !」
リトは魔王の勧誘を威勢良く突っぱねた。
魔王とリトとの間には、浅からぬ因縁があるようだ。
ミーデは二人の様子を見て困惑していた。
端から見てランプと剣が会話してるようにしか見えず、シュールな光景だったからだ。
「そうか……自由を失った身でありながら、貴様は変わらんな……」
魔王は少し残念そうにしていた。
リトに対し、思う所があるようだ。
「魔王様、召喚士の力無くしては、イフリートは実体化すら出来ません」
ミーデは魔王にそう伝えた。
「厄介だな……今の状態では手を出せぬからな……」
「主の強い意志がなければ、私は召喚されません !何を企んでいるかは知りませんが、残念でしたね !」
リトは小馬鹿にしたように高笑いをした。
「くぅ……一々むかつきますねぇ……」
「まあ気を静めろミーデ……良いだろう、我にも時間が無い、ミーデよ、何としてでもあの小娘に召喚させるのだ」
「はい !」
ミーデは返事をすると、そそくさと去っていった。
「主は、かつて闇ギルドに囚われた時も、決して暴力には屈しませんでした……あなた達がいくら主を苦しめようと無駄です」
「それはどうかな…… ?まあ楽しみにしておけ」
魔王は意味ありげに笑い声を上げた。
その後、魔王の部下によってランプは複数の神器が保管されてる場所に置かれた。
神器の中にはロウが使っていた牛魔剣やオーガの里に伝わる迅雷鬼剣などもあった。
「主……待っていて下さい……この私が、必ず救い出して見せます !」
リトは心の中で強く誓った。
一方、悪魔三銃士の三人は疲労困憊になりながらダンジョンから帰って来た。
全員埃にまみれ、体のあちこちが傷だらけだった。
「はぁぁぁぁぁ……疲れましたわ……」
「今日もきつかったですね……」
「こんなの毎日続いたら死んじゃうゾ……」
三人の主な仕事はダンジョンに潜り、冒険者達を倒すことだった。
ヴェロスクラスなら冒険者など簡単に全滅させることが可能だが、下っぱである彼等はどうしても苦戦、最悪敗北してしまう。
レヴィ達は冒険者達相手に追い返すのが精一杯だった。
「いててて……帰ったらお風呂に入りたいですわ……」
レヴィは髪を弄りながら愚痴を溢した。
「俺は瑞々しいフルーツが食べたいですよ、水分不足で唇カッサカサなんで」
ミイラ男のライナーは肩を鳴らしていた。
「所で、周りが騒がしいゾ」
サイゴは辺りを見回した。
魔界の魔族や魔物達が血気盛んに動き回っていたのだ。
巨大な瞳を持つ分、視野が広く、周囲に敏感なのだ。
「さあ、いつものことですわ」
「俺達は疲れてそれ所じゃないですって」
二人は気にも止めなかった。
彼等は知らなかった。魔界で何が起こっているのか……。
いずれ来たる侵入者達の存在を……。
呑気な三人は魔王城へと向かった。
「遅いぞ、お前達」
城に戻ると三人は早々にミーデの兄ヒルデビルドゥに呼び出された。
「魔界四天王の一人……ヒルデビルドゥ様……我ら悪魔三銃士、任務完了致しました !こちら、戦利品の勇者の盾でございます !」
レヴィは突然呼び出され、オドオドしながらヒルデビルドゥに勇者の盾を差し出した。
「ご苦労だったな……そうだ、お前達は任務中で知らないだろうから僕が説明してやる」
「何をですか…… ?」
「これからの任務についてだ」
ヒルデビルドゥは、何も知らない三人に現在の魔界の状況を伝えた。
魔王軍の幹部である憤怒の災厄が全滅し、魔王軍全体が大幅な弱体化をしていること。
その代わり、ミーデの活躍により、イフリート使いの召喚士・ワカバを手に入れたこと。
そして、今後イフリート使いの召喚士を取り返す為、魔界へ侵攻してくる連中に備え、城の警備を強化するのに尽力するようにと三人に伝えた。
既にヒルデビルドゥ配下の魔族達が動き出していた。
「お前達でも防衛戦くらいは出来るだろう、精々心の準備をしておけ」
「は、はい !ヒルデビルドゥ様 !」
三人は膝をつき、頭を深く下げた。
「はぁ~……もう動けませんわ~」
レヴィ達は自分達の部屋に戻った。魔王軍では班ごとに部屋は割り振られており、彼等は三人部屋で過ごしている。
レヴィはベッドの上にだらしなく寝転んだ。
「レヴィさん、風呂入んなくていいんすか ?」
「後で入りますわ」
レヴィは疲れ果てて動けずにいた。
「しかし、俺達が居ない間に色々急展開になってましたね」
「噂の召喚士、もう捕まっていたなんて……知らなかったゾ……」
「あー手柄を横取りされた気分ですわー」
レヴィは枕に顔を埋めながら愚痴を溢した。
「でも問題は、その召喚士を取り戻しに奴の仲間が魔界へやってくるってことっすよ」
ライナーは怪訝な顔で言った。
「オラ達が戦ったあの吸血鬼や半魚人も ?」
「うわ……そいつらとかマジ勘弁ですよ……」
「何弱気になってますのヘタレミイラ !」
突然レヴィは飛び起きた。
「へ、ヘタレミイラ !?急にどうしたんすか !?」
「これはチャンスですのよ !?召喚士を取り戻しにやって来た連中から城を守り抜けば……褒美として幹部昇進も夢じゃありませんわ !」
「そんな上手く行きますかね……」
ライナーやサイゴは半信半疑だった。
レヴィは短絡的で思考がお花畑なのだ。
「それに話を聞けば、現在魔王軍幹部は空席……私達の入る余地があるってことですわよ」
「その幹部全員倒したやつらが相手なんだゾ」
サイゴに言われ、言葉に詰まったレヴィ。
「そ、そんなの !根性で乗り切って見せますわ !」
「うわ、ダメだこりゃ」
この調子で、ライナーとサイゴはいつもレヴィに振り回されているのだ。
「いつでもかかって来なさい !この悪魔三銃士が相手をして差し上げますわ !オーホッホッホッホ !」
レヴィは天井に向かって高らかに宣言した。
その様子を二人は冷ややかな目で見つめていた。
To Be Continued




