第百三十三話・止まらない復讐心
「いや~今日のクエストきつかったなぁ~ !」
とある密林にて、四人の冒険者達が岩場に腰を掛け、休息していた。
「オーク族の討伐とか、弱いくせに数ばっか多くてうんざりしちまうぜ」
剣士の男が斧を研ぎながら愚痴を溢していた。
「まあそう言うな、どんなクエストだろうと選り好みせずこなしてこそ、真の冒険者だ」
格闘家の女は腕を組ながら語った。
「そういや三日前、人狼の子供二人を殺しちゃったけど……大丈夫だったかな……」
気弱な魔法使いの青年が恐る恐る尋ねた。
「何気にしてんのアンタ、心配いらないわよ、どうせ悪い魔族なんだから、厄介な芽は早目に摘んどいた方がいいの」
弓使いの女は魔法使いの背中を叩いた。
「うむ……それに最近町で何者かに食糧が盗まれる事件が増えていた……犯人は素早い人狼に違いない……」
「そうそう、俺達は正しいことをしたんだよ」
等と四人は楽しそうに雑談をしていた。
「貴様らか……俺の弟達を殺したのは……」
そこへ、突然一人の少年……俺が現れ、ブツブツ不気味に呟いていた。
「何だ ?この少年……」
「僕、もしかして迷子か ?」
格闘家が近付き、優しく手を差し伸べようとした。
ズバッ
格闘家の手が血飛沫を飛ばしながら宙を舞った。
一瞬何が起こったか気付かなかった。
「ぎゃあああああああああ !!!」
気付いた時は遅く、格闘家は自分の手が無くなってると分かり、激痛と恐怖でのたうち回った。
「痛いか…… ?だがケインとルウが受けた痛みは……こんなものじゃない !」
「このガキ、魔族か !」
冒険者達は一斉にぶきを取り、身構えた。
「子供だろうと容赦しないわ !はぁ !」
弓使いの女は即座に俺に向けて弓を引いた。
矢は俺の肩を貫いた。
「くっ…… !こんなもの……あいつらが受けた痛みに比べりゃ、大したことはない !」
俺は高速で弓使いに接近し、間合いを詰めた。
「ひっ…… !」
「三日月の狼爪 !」
ズバァッ
俺は爪で弓使いの首を切り裂いた。
大量の血が噴き出し、無情にも弓使いの首が転がった。
「き、貴様ぁ !」
「火炎球 !」
弓使いを殺され、格闘家は激昂し、残された片腕を振り上げ、俺に殴りかかった。
俺は格闘家の攻撃を避けるが、隙を作り、背中に魔法使いの放った炎を喰らってしまった。
「ぐっ …… !この炎が……ルウを焼いたのか…… !」
俺は怒りを燃やし、格闘家の胸に爪を突き刺し、貫いた。
「がはあっ !?」
「死ね……屑が……」
格闘家は血を流し、白目を向いて崩れ落ちた。
「う……嘘だろ…… !?」
魔法使いは恐怖のあまり失禁し、手から杖を落としてしまった。
「三日月光刃 !」
ザバッ
俺は光の刃を放ち、動揺する魔法使いの上半身と下半身を切り裂き、真っ二つにした。
魔法使いは涙を溢しながら崩れ落ちた。
「はぁ……はぁ……うっ !」
ダメージを負い、血だらけで息を切らしていた俺の隙を突き、剣士の男は斧で俺の胴体を斬りつけた。
「この斧で……ケインを…… !」
「よくも……俺の仲間を…… !」
剣士は目に涙を滲ませ、血が垂れる程唇を噛み締めていた。
「俺は貴様らに弟達を殺された……同じ事をしているだけだぁ !」
俺は鬼の形相で剣士の首を掴み、爪を食い込ませ、持ち上げた。
「ぐっ…… !うぐっ…… !」
剣士は苦しそうに足をばたつかせた。
「地獄に落ちろ屑がぁぁぁぁぁ !」
俺は剣士の首の骨をバキッと折った。
剣士は一瞬で絶命した。
俺は動かなくなった剣士を放り投げた。
辺り一面は真っ赤な血で染まり、冒険者達の無惨な亡骸が転がった。
俺は満身創痍で洞穴へ戻った。
洞穴の前に、小さな長方形の石が2つ、地面に突き刺さっていた。
俺が立てた、二人の弟の墓だ。
「ケイン……ルウ……仇は……取ったぞ……」
俺は限界を迎え、墓の前で倒れた。
もう動くことすら出来なかった。
だがこれで良い……弟達のいない世界で生きる意味なんて無い……。
復讐も果たし、本当に空っぽになってしまった。
「お主は……こんな所で終わる器ではないぞ」
虫の息の俺の前に、謎の老人が杖をつきながら現れた。
「あの冒険者四人を殺すとは……お主……高い潜在能力が秘められている……ここで命を落とすには、あまりにも勿体ない」
老人は倒れている俺に魔力を与えた。
「か……体が……」
傷は癒え、俺の体は瞬く間に回復した。
「お主、名前は……」
老人は名を尋ねた。
「俺の名は……ヴェロス……」
「そうか……私は魔導師デビッドだ……ヴェロスよ」
デビッドは弟達の墓前で正座をした。
「お主の弟達が、あの程度のことで報われると思うか ?」
「何だと ?」
「あやつらは人間の手によって、未来を奪われたのだぞ ?」
デビッドは、人間の恐ろしさ、醜さを語った。
「弟達だけではない、数多くの魔族が、人間のせいで傷付き、犠牲になっているのだ。我々は魔王軍として、そんな人間達の支配から魔族達を解放したいのだ」
「解放……」
デビッドは俺に対して笑顔を向けた。
「お主の力を貸してほしい……共に魔王軍として戦い、人間達を根絶やしにしようではないか」
デビッドの誘い……。最初は迷ったが、やはり人間は許せない……。憎しみは消えない……。そんな感情が再び芽生え、俺を支配した。
「分かった……魔王軍に入る……俺は人間達を滅ぼす……」
「そうか、それは良かった……」
こうして、俺は魔王軍に入った。
更に力を得る為、デビッドはケインとルウの墓を掘り起こし、二人の首を俺の両肩に埋め込んだ。
弟達の力を取り込み、人狼はケルベロスへと進化した。
魔王軍として戦ううち、やがて大勢の魔族達に一目置かれるようになり、幹部へと登り詰め、憤怒の災厄のリーダーになった。
全ての人間を滅ぼす……その野望を胸に抱きながら……俺は戦い続けた。
To Be Continued




