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ランプを片手に異世界へ  作者: 烈斗
憤怒の災厄編
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第百三十話・黒リトとの和解



突然のリトの登場により、町全体の空気が一変した。


「貴様が……イフリートか……」


ヴェロスはエルサへの追撃を中断し、意識を完全にリトへ集中させた。


「遂に……真打ちの登場ですか……」


ミーデはリトが現れたことにより、複雑な表情を浮かべていた。


「あれが……炎の魔人……」


ルーシーは腹をおさえながらリトの姿を呆然と見つめていた。


「リト……やっと戻ってきてくれたか……」


エルサは遅れてきた援軍を前に安堵の表情を浮かべた。


「すみません、時間がかかってしまって……」

「所でリト……修行は上手く行ったんですか ?」


私はリトに尋ねてみた。


「主、よくぞ聞いてくださいました !精神世界での自分との戦い……それはそれは壮絶なものでした……」


リトは私に精神世界での出来事を話してくれた。




今まで精神世界で黒いリトと死闘を繰り広げていたリト。

一度は敗れ、黒い影に飲み込まれてしまった。


「ここは……」


リトは意識を取り戻した。

気が付くと最初の地点に戻っていた。

どうやらこの世界は影に飲まれると一旦リセットされるらしい。

その証拠に消耗し切っていたリトの魔力は完全に回復していた。


「あの黒い私を倒さねば、元に戻れない……と言うことですね……」


リトは再び歩き出し、黒いリトのいる方へ向かった。




それから、リトは黒いリトと幾度も戦い続けた。

だが結果は同じ……何度も何度も挑んでは敗れ、黒い影に飲まれて消えた。

何度も同じ事を繰り返し続けた。

だが突破口は見えず、体力や魔力は回復しても、精神は磨り減っていく一方だった。

どれだけ強力な技を浴びせても、どんなに消し去っても、黒いリトは無限に復活した。




「はぁ……はぁ……」


ドサッ


遂にリトの心は折れかけ、うつ伏せになり地面に倒れた。

目から光が失われ、精神的には限界を迎えていた。


「私は……自分の闇すら……払うことが出来ないのですか……」


リトは掠れた声で弱音を吐いた。

このままリトは自分に負け、永遠に闇の世界に囚われてしまうのか……。




「人は誰でも心の闇を持っておる……それは人も魔族も竜族も変わらん……心の闇を消すことは出来ん……大切なのは……心の闇と向き合うことじゃ……」




リトはふとオババが言っていた言葉を思い出した。

黒いリトを消そうと躍起になり、すっかりその事を忘れていたようだ。




「私は……リトのこと何も知りません……どんな人生を送ってきたのか……どんな闇を抱えているのか……でもそんなの関係ないです !リトは私を守ってくれる大切な人……それで良いじゃないですか…… !」




かつてワカバがリトに言った言葉……。彼女は闇の力に溺れたリトを恐れず、否定しなかった。

ワカバはとっくにリトの光も闇、その全てを受け入れてくれていたのだ。


「主……本当に私は……大馬鹿者ですよ」


リトは可笑しそうに自嘲した。

彼は恐れていた。主であるワカバに自分を否定されること、ワカバをこの手で傷付けてしまうことを……。

彼は一転の曇りもない、主を守護する正義の味方に拘っていた。

だがそれは間違いだと気付いた。

完璧で無くても良い、どんなに薄汚れた闇を抱えても良いんだと……

果てしない暗闇の中にも、一筋の光が射し込むことで、永遠に輝き続けることが出来る……。

リトはそのことをようやく理解した。


「さあ、ようやく希望への道が切り開けて来ましたよ !」


リトの瞳に光が戻り、豪快に立ち上がると胸を張り、黒いリトの待ち構える場所まで歩き出した。




「またお会いましたね……黒い私……」


リトは黒いリトと3000回目の対峙をした。

黒いリト相変わらず黒いオーラを燃やし、

邪悪な笑みを浮かべ、手招きしていた。

恐れることはない、これは自分自身…… !

リトは覚悟を決め、戦闘の構えを取った。


「ウオオオオオオオオオ !!!」


リトは雄叫びを上げると大地を蹴り、風を巻き起こしながら走り出した。


「ウオオオオオオオオオ !!!」


黒いリトはゴリラのように豪快に胸を叩き、リトを迎え撃った。


ドゴオッ


リトは強く拳を握り、黒いリトの頬を勢い良く殴り付けた。

黒いリトの頬は歪み、めり込んだ。


「ガァァァァァァァ !!!」


興奮した黒いリトは仕返しとばかりにリトの頬にパンチを喰らわせた。


「おごおっ !」


リトの顔も同じように歪み、変形した。


「面白いですね !!!」


リトは殴られながらも笑顔を浮かべた。

互いに殴り、殴られ、鏡合わせのような二人の壮絶な殴り合いは長時間に渡った。

小細工も魔力もいらない。

ひたすら泥塗れになりながら拳と拳をぶつけ合った。


「「はぁ……はぁ……」」


リトも黒いリトも、お互い壮絶な殴り合いの果てにボロボロになっていた。

全身痛々しく青アザだらけになり、顔はパンパンに腫れた。


「流石私、良いパンチですね !」


リトは黒いリトに対し、笑顔で誉めた。

それを聞いて黒いリトは何処か嬉しそうだった。


バゴオッ


黒いリトの鋭いパンチがリトの腹筋に食い込み、全身に衝撃が響き渡った。


「ごはっ…… !」


吐血しながらも、リトは笑っていた。

黒いリトのパンチから、殺意や憎しみが感じられなかった。

言葉ではなく、拳でありがとうとお礼を伝えたように思えた。


「お返しですよ !」


ドゴオッ


同じようにリトは黒いリトの腹にパンチを喰らわせた。

黒いリトはよろめき、呻き声を上げた。


リトは自分の闇を否定することをやめた。

もう一人の自分の価値を肯定し、その存在を認めた。

リトの攻撃は黒いリトを消し去ろうとするものでは無く、黒いリトと向き合う為のものだった。


「はぁ……はぁ……ウオァァァァァ !!!」


満身創痍のリトは雄叫びを上げ、再び黒いリトに殴りかかろうとした。

黒いリトは目を見開き、身構えた。



「………… !?」


リトは意外な行動に出た。

黒いリトを強く抱き締めたのだ。

自分に向けられたのは悪意でも殺意でもない……黒いリトは困惑していた。


「……あなたも私の一部です……それなのに、無理矢理消そうとして……本当に申し訳ありませんでした……」


黒いリトは熱い抱擁を交わされ、じっと黙っていた。


「私の使命は、主を守ることです……お願いがあります……あなたの力を、貸してください……私はもう……あなたから逃げません 」


リトは必死に黒いリトに訴えかけた。

黒いリトは暫く沈黙を貫いていたが、やがて凶悪な表情が和らぎ、優しい顔付きに変わり、ゆっくりと首を縦に振った。


「あ……ありがとうございます…… !」


リトは感激して涙を流した。

3001回目の戦いで、リトは自分の闇を抱き締め、ようやく和解することが出来た。

この永劫とも言える時の中で、リトは一つの答えを得た。

もう自分の中の闇に怯えることはないだろう。


「さて、修行も終わったことですし、そろそろ主の元に帰らねば……これ以上心配させるわけには行きませんからね」


丁度その時、リトは何かを察した。


「聞こえる……主の泣いている声が…… !伝わってきます…… !主の温もりが…… !私に助けを求めながら、必死に祈っているのが分かります !」


リトは上空を見上げた。

空は黒い渦巻き状の雲に覆われていた。


「黒い私 !私はすぐに地上へ向かわなければなりません !主のピンチですからね !もし私が倒れそうになった時は、力を貸してください !」


リトは黒いリトの前に拳を突き出した。

黒いリトはこくっと頷くと拳を差し出し、互いに拳を合わせた。


「それじゃ、行ってきますよ、待っていて下さい !主 !」


リトは声高に叫ぶと、勢い良くジャンプし、雲を突き破り、空高く飛んでいった。

地上で危機に瀕しているワカバを救う為に……。


To Be Continued

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