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ランプを片手に異世界へ  作者: 烈斗
憤怒の災厄編
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第百二十八話・ケルベロスの猛攻



ヴェロスは本気を出し、真の姿を現した。

人狼(ウェアウルフ)を超えた、三頭の首を持つ獣人、ケルベロス だ。


「光栄に思うが良い、あの吸血鬼(ヴァンパイア)ですら引き出せなかった、俺の本来の姿だ !」


ヴェロスは凶悪な顔つきで私を睨み付けた。

私は恐怖で震え上がり、動揺を隠せずにいた。


「さあ……覚悟は出来たか……行くぞ !」


ヴェロスは大地を蹴り、音速を超えるスピードで走り出した。


「くっ…… !」


私は剣を構え、再び目を瞑った。

ヴェロスは私の周りを竜巻のように走り回った。

風圧に押し潰されそうになる……先程とは比べ物にならないスピードだ…… !

大丈夫…… !どんなに速くても、さっきのように動きを読み取れるはず…… !


ドゴッ


「かはっ…… !?」


ヴェロスは目にも止まらぬ速さで私の腹に膝蹴りをかました。

私は全身に走る激痛に顔を歪ませ、吐血した。

重い……一撃一撃が重過ぎる…… !


「こ……この !」


私は痛みを押し殺し、ヴェロスを斬りつけようと剣を振るった。

だがヴェロスは残像を残し、瞬速で私の背後に回った。


三日月(クレッセント)狼爪(ウルフクロー) !」


ズバッ


「きゃああああっ !」


鋭い痛みが走った。

ヴェロスは私の背中をその研ぎ澄まされた爪で切り裂いた。

背中から血が噴き出し、私は絶叫し、膝をついた。


「立てよ、まだまだこんなものじゃ済まさんぞ」


ヴェロスは私の腕を強く掴み、無理矢理立たせた。


「うっ……」

「もう少し付き合ってもらうぞ」


そこから、ヴェロスの一方的な蹂躙が始まった。

ヴェロスはサンドバッグのように私を容赦無くなぶった。想像を絶する地獄のような拷問に、私は必死に耐え続けるしか無かった。


「きゃああああああああ !!!」


私は激痛に喘ぎ、悲鳴が町中に響き渡った。




その様子を、影から眺めている者がいた。

魔王軍の偵察係、ミーデだ。

ミーデは驚いた様子で戦いを見ていた。


「ほう、憤怒(サタン)災厄(カラミティ)のヴェロスさんが本来の姿になって戦っているとは……意外ですねぇ。あの小娘、よもやそこまで強くなったと ?」


ミーデは腕を組み、高みの見物を決めた。

彼の目的は即ち漁夫の利。ヴェロスと私の相討ちを狙い、手柄を横取りするという寸法だ。


「まあ、精々足掻いて見せなさい、ワカバさん」


ミーデはニヤリとほくそ笑んだ。




「あぐっ !」


ヴェロスに全身をズタズタに切り裂かれ、私は心身共にズタボロになり、ぼろ雑巾のように転がった。


「つまらん……少し本気を出しただけでこのザマか……」


ヴェロスは私の頭を踏みつけた。


「うっ…… !」

「……苦しいか ?そろそろイフリートを召喚した方がいい、楽ではないんだ、死なない程度にいたぶるというのは……」


ヴェロスは退屈そうに私を見下すと、球のように遠くまで蹴り飛ばした。


「きゃあっ !」


私はゴロゴロと無様に地面を転がった。


「あの小娘、何を躊躇しているんですか、さっさとイフリートを出せば良いものを」


ミーデはイライラした様子で戦いを見物していた。


「さて、腕一本くらい切り落としても死なんだろう、案ずるな、苦しむのは一瞬だけだ」


ヴェロスはゆっくりと私の方へ近付き、腕を大きく振り上げた。

強い……。手も足も出ない……。

やっぱり……私なんかが勝てる相手じゃなかったんだ……。

私は視界が霞み、意識も朦朧としてきた。

身体中が痛くてたまらない……。もう……駄目だ……。


「立て…… !立ってくれワカバ…… !」


その時、エルサの掠れた叫び声が聞こえた。

エルサは魔力が枯渇し、ルーシーの膝の上で横になっている状態だった……。


「……私がこんな状態で無ければ、すぐさま駆け付けたんだがな……本当に……すまない……だけど……君は強い…… !あの時の修行を思い出せ…… !ブラゴ義母さんにも勝ち、デュラハンをも倒した……紛れもない……君の実力だ…… !」


エルサは声を振り絞り、必死に私に語りかけた。


「立ち上がってくれ……今戦えるのは……君だけなんだ !ワカバ…… !」


私はエルサの声を聞くと、不思議と力が湧いてきた。

人は応援されると、強くなれる……。自分は独りじゃないんだって思える……。

それに、今動けるのは私だけなんだ……私が倒れたら、もっと多くの人達が犠牲になる……。私は負けるわけには行かない…… !


「ほう…… 」


私は力を振り絞り、全身の痛みを押し殺し立ち上がった。

激痛で今にも気絶しそうだ……。


「私の調教に耐えきっただけあって、タフさだけは一級品ですね」


ミーデは皮肉混じりに呟いた。


「面白い……そうこなくては、ケルベロスに変身した甲斐がないぞ !」


ヴェロスは高揚した様子で咆哮を上げた。

私は震える手で剣を握り、静かに構えた。

既に私の体は限界を超えていた。

これ以上戦いが長引けば、死んでしまうかもしれない……。一撃で仕留める必要があった。


「うおおおおおおお !!!」


ヴェロスは唸り声を上げ、大地を蹴り凄まじい勢いで走り出した。風圧で砂埃が吹き荒れた。


「はぁぁぁぁ !」


私は残された魔力で全身に風を纏わせた。

一時的に身体能力を向上させる疾風上昇(ウインドーアップ)だ。

死を覚悟の上で攻撃、スピードを無理矢理引き上げ、私は音速の速さでヴェロスに向かっていった。


ぶつかり合う二つの突風。

衝撃で瓦礫が舞い、大地が削られる。


神月疾風(ムーンウインドー) !!!」

三日月(クレッセント)狼爪(ウルフクロー) !!!」


カンッ キィンッ カキィン


私は神速の突きを繰り出した。ヴェロスも両腕を双剣のように振り回し、乱舞する。

二つの風が混じり合い、巨大なハリケーンと化した。

金属音が重く響き、激しく火花が飛び散った。


竜巻激槍(トルネードスティンガー) !!!」


ズサアッ


私はヴェロスの隙を突き、エルサ直伝の技にして渾身の一撃・竜巻激槍(トルネードスティンガー)をお見舞いした。

螺旋状にグルグル回る竜巻を纏った剣を槍のように放ち、ヴェロスの腹筋を貫いた。


「くっ……ウオオオオオオオオオ !!!」


ヴェロスは断末魔を上げると遥か遠くまで吹っ飛ばされ、町から消え去った。




「はぁ……はぁ……」


ドサッ


魔力を使い果たし、足腰立たなくなり、力尽きた私はその場に崩れるように倒れた。

もう限界だ……。息を吸うのも苦しい……。


「ワカバ……良く……やったぞ……」


エルサは涙を浮かべながら弱々しく微笑んだ。

一方ルーシーは、ヴェロスが吹っ飛ばされた方向を眺め、複雑そうな表情を浮かべていた。


「え……エルサさん……」


私は掠れた声で呟いた。もう喋る力すら残ってない。

でも、これで憤怒(サタン)災厄(カラミティ)は全員倒した……。

私は心から安堵した。


「俺があれくらいでやられると思ったのか 」


戦慄した。

一瞬で悪夢に塗り替えられた。

幻聴なんかじゃない……倒したと思われたはずのヴェロスの声が確かに聞こえた。

彼は全くの無傷の状態で倒れている私の目の前に立っていた。


「お、お兄ちゃん…… !」

「ヴェ……ヴェロス…… !?」


私だけじゃない、ルーシーやエルサも驚きを隠せずにいた。


「ま、当然の結果でしょうねぇ」


ミーデは最初からこの展開が読めていたようだ。


「今の攻撃は中々良かった。人間があそこまで魔力を極限まで高められるとはな……だが、致命傷を負わせるまでには至らなかったようだ」

「そ……そんな…… !」


ヴェロスは瞬間移動でもしたかのようなスピードでここまで戻ってきたらしい。

化け物だ。

今度こそ私は力を使い果たし、立ち上がる気力も失った。指一本ピクリとも動かせない。


「もう茶番に付き合うのも飽きた。イフリートと戦えないのは残念だが、貴様を回収するのが俺の仕事なんでな」


ヴェロスは私を乱暴に掴むと片手で担いだ。

抵抗する力なんて残ってない。


「よし、帰るか……」


ヴェロスは私を担いでそのまま何処かへ飛び去ろうとした。


シュピンッ


だがそれを邪魔する者がいた。

風の弾丸が放たれ、ヴェロスを背後から襲った。

ヴェロスは即座に反応しかわすが、その弾みで担いでた私を振り落としてしまった。


「きゃっ…… !?」


私は放り投げられ、地面に叩き付けられた。


「何の真似だ、ルーシー」


ヴェロスの邪魔をしたのは他でもない、同じ憤怒(サタン)災厄(カラミティ)のメンバー、ルーシーだった。


「お兄ちゃん……ごめんなさい……」


To Be Continued

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