第十一話・旅立つ勇気
私は半壊した部屋でヴェルザードの看病をしていた。
ヴェルザードはベッドの上でグッスリと寝ていた。額に巻かれた包帯が痛々しかった。
「はぁ……リト、何でケンカなんてしたんですか」
私はリトに問い詰めた。ランプの中のリトは答える。
「申し訳ありません。しかしこの男が主の血を吸おうとしていたのも事実です」
「それはそうかも知れませんけど……」
隙を見せた私も悪いと思った。それに、ヴェルザードは吸血鬼だから吸血衝動に駆られただけで本人に悪意はないと私は思っている。この人そんなに器用じゃないし。
「うぅ……」
ヴェルザードは目を覚ました。
「あれ……俺は……」
「良かった……おはようございます。ヴェルザードさん」
私はにっこり微笑んだ。ヴェルザードは困惑していた。
「ワカバ…… ?……そういや俺、あの魔人と戦って……それで……ってなんじゃこりゃあああ !!!」
ヴェルザードは辺りを見回して、洋館が半壊していることを知り、驚愕した。壁は壊され、屋根も無くなり、外からは丸見えである。
「俺の洋館が…何でこんな無様な姿に…… !」
「元々老朽化が進んでいて、こうなるのも時間の問題だったんですよ」
リリィがお盆にお茶を運びながらやってきた。
「リリィ……」
「おはようございます、ご主人様」
リリィはにっこり笑顔でヴェルザードにお茶を渡した。
「いや何呑気に笑ってんだよ !俺達の住む場所がこんなんなったんだぞ !」
「そうですね、困りました。このままじゃ洋館で暮らすことは出来ませんよね」
リリィはわざとらしく言った。
「新しい住みかを探す旅をする必要がありますね。でもご主人様だけじゃ不安でしょうし……誰か仲間が居てくれたら心強いですよねー」
リリィは私の方をチラチラ見た。
ヴェルザードはため息をついた。
「リリィ……お前というやつは……」
「ヴェルザードさん、前にも言いましたけど、一緒に行きませんか ?」
私はもう一度ヴェルザードを誘ってみた。
「お前はこれからどうしたいんだ ?」
ヴェルザードは私に聞いてきた。
異世界に飛ばされてから、これと言った目的もないまま歩き続けた。元の世界に帰れる保証もない。
「今はまだ何も見えませんけど……取り敢えず私は、前に進もうと思います。そうすれば、いつか生きる理由とか目的とか見つかるかも知れませんし、それが冒険だと思うので」
「抽象的だな……」
ヴェルザードは鼻で笑いつつも、
「だが、目的がボンヤリしてた方が気楽だし、他に帰るとこはねぇ。お前の旅の一味に加えてくれよ」
「本当ですか !?」
私は目を輝かせた。
リトがいるとはいえ、一人は寂しかったからだ。
「ご主人様、ワカバちゃん !私もお供しますからね !」
ちょっぴり拗ねてるリリィが可愛らしかった。
「宜しくね、リリィちゃん」
「サポートはお任せください !ワカバちゃん !」
リリィは笑いながらドンと胸を張った。
「やれやれ、賑やかになりますね」
ランプの中のリトは呆れながらも何処か嬉しそうだった。
ヴェルザードとリリィが私の仲間に加わった。
支度を終えると私達は外に出た。そして半壊した洋館を見渡した。酷い有り様だ。
「派手にやりましたね……」
私は思わず呟いた。
ヴェルザードはじっと洋館を見て、思うところがあったのか、何かを噛み締めてるようだった。
「悪いな、父さん……。行ってくるぜ……」
「ご主人様……」
「さ、ワカバ、とっとと行くぞ」
ヴェルザードは振り向き、前に進むことにした。
私達は洋館を後にし、町を目指して歩き出した。
To Be Continued




