第百二十五話・甘さ
「「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ !!!」」
エルサとルーシー、二人の姉妹は再びぶつかり、互いに剣を交えた。
キィン キキィン ガキィン
残像が残る程激しく俊敏に動き回る二人。
風が舞い、剣と剣がぶつかる度に金属音が鳴り響き、火花が飛び散った
「くっ……嘘でしょ…… !?」
両者共に互角と思われていたが、やがてルーシーに余裕が消え始め、表情が険しくなってきた。
エルサは覚悟を決め、容赦なくルーシーを攻め立てた。
元々エルサの方が地力が上だった。本気を出した彼女の敵ではない。
形成は逆転し、ルーシーは押され始め、防戦一方となった。
「もう迷いはない……全力で行くぞ !」
エルサは魔力を込め、剣に風を纏わせた。
そして目にも止まらぬ神速でルーシーを凌駕し、連続で突きを繰り出し、彼女の全身を切り刻んだ。
「神月疾風 !!!」
ズドドド
「きゃああああ !!!」
全身をかまいたちのように切り裂かれ、ルーシーは絶叫を上げた。
血飛沫が辺り一面に飛び散った。
やがてルーシーは両膝をつき、うつ伏せに崩れ落ちた。
「はぁ……はぁ……どうやら……私の勝ちのようだな……」
エルサは静かに剣を鞘に納めた。
「ルーシー !しっかりしろ !ルーシー !」
エルサは倒れているルーシーの元に駆け寄った。
「ルーシー……ずっと君に謝りたかった……君を見捨ててしまったことを……本当にすまなかった……」
エルサは優しくルーシーを抱き起こした。
「そして……出来ることなら……君とまた一緒に暮らしたいと思ってるんだ……失われた十数年間は元には戻らない……だけど……これから先の未来は君と共に生きたい……」
エルサは心からの謝罪と、妹への想いを打ち明けた。
「お姉ちゃん……それは無理だよ……」
ルーシーは不意をつくと、素早くエルサの背後に回り込み、後ろから彼女の首をその鍛え上げられた右腕で絞め上げ、ヘッドロックを決めた。
彼女はまたもや倒れたふりをしていたようだ。
「くっ…… !ルーシー…… !何を…… !」
「甘いんだよお姉ちゃんは、あんな攻撃で僕がやられるとでも思ったの ?油断大敵だよ」
エルサは力一杯抵抗し、体をくねらせた。
だが締め付ける力は強まり、喉に食い込んでいった。
エルサは歯を食い縛り、苦悶の表情を浮かべた。
「このまま絞め落とすのも悪くないけど、もっと楽しいことしてあげるよ」
ルーシーはエルサの耳元で囁くと、左手をエルサの胸に押しつけた。
「な……どうする気だ…… !」
キュイイイイイイン
「んっ…… !んああああっ !!!」
その瞬間、エルサは静電気でも受けたかのようにビクッと痙攣し、苦悶の表情を浮かべながら絶叫した。
ルーシーはエルサから魔力を吸いとっていた。
相手の体内から魔力を直接奪う闇魔術の一つ……強制魔力搾取……。
「お姉ちゃんの魔力……一滴残らず吸い尽くしてあげるよ !」
「ああああっ !!!」
ルーシーはなおもエルサから魔力を吸い続けた。
吸われる度に痺れるような感覚に襲われ、エルサは全身を仰け反らせた。
「すごいよ !お姉ちゃんの膨大な魔力が僕の中に入ってきてるよ !こんな感覚生まれて初めて !」
ルーシーは興奮した様子だった。
「エルサさん !」
私は魔力を吸われ、苦しんでるエルサに気付き、声をかけた。
「戦いの最中に余所見をするとは、随分と余裕だな、小娘ぇ !」
だがヴェロスが妨害し、エルサを助けようにも助けられない状況にあった。
近付くことすら容易ではない。
「ルー……シー……」
やがてエルサの瞳から光が失われた。
全身から力が抜け、だらしなく涎を垂らし、虚ろな表情を浮かべた。
視界が霞み、意識は朦朧とし出した。
「お姉ちゃんの魔力は僕の体の中で闇へと変換されるんだ、悪く思わないでね」
ドサッ
エルサは瞬く間に魔力を吸い尽くされ、うつ伏せに倒れた。
ピクピクと痙攣し、動かない。
ルーシーの体から無尽蔵に魔力が高まり、溢れ出していた。
「これで僕は憤怒の災厄ナンバーワンだね……お姉ちゃん、感謝してるよ」
彼女は立ち上がると、倒れているエルサに剣を突き立てた。
「さようなら、お姉ちゃん」
ルーシーは冷淡に告げるとエルサにとどめを刺すため、躊躇なく、剣を振り下ろした。
To Be Continued




