第百二十一話・清々しい決着
俺、マルク、フライは砂嵐が巻き起こる程の凄まじい勢いで激突した。
お互い残された体力は少ない。この一撃に全てを賭けるしかなかった。
「うおおおおおおおおおお !!!」
フライは二人を一掃しようと豪快にハンマーを振り上げた。
だが動きが大振りな為、フライに隙が生まれた。
「うおおおらぁぁぁ !!!」
ズバアッ
俺は素早く剣を振り上げ、縦に斬りつけ、斬り込みを入れた。
「ぐふっ !?」
フライは深いダメージを負い、吐血した。
「魚人斬撃 ォォォォ!!!」
ザシュンッ
マルクは疾風の如く腕を振り、鋭いヒレでフライの横っ腹を切り裂いた。
フライの体に十字の傷が刻まれ、赤紫色に発光した。
「な、何だ……これは…… !?」
フライの全身から光が溢れ、爆発を起こした。
「ぐわあああああ !!!」
フライは爆煙の中、絶叫を上げた。
「「よっしゃあ !」」
俺の血の魔力とマルクの水の魔力を合わせた合技・「赤紫の十字架」が炸裂した。
二つの力が融合し、限界を超えた力を発揮したようだ。
俺とマルク……そのどちらかが欠けていれば勝てなかった。
煙が晴れ、フライは白目を向きながら棒立ちのまま、ゆっくりと仰向けに倒れた。
「くっ……ここまでか……」
フライは指一本動かせない状態だった。
「はぁ……はぁ……」
俺とマルクも力を出しきり、その場で倒れるように腰を下ろした。
戦いは俺達二人の勝利に終わった。
「もう動けねえ……」
「……血が足りねえ……使いすぎたか……」
俺もマルクも満身創痍だった。
暫くは立ち上がることすら出来ないだろう……。
少し休んだらのびてるこいつを町まで運ぼう。
フライは仰向けで澄んだ空を見つめていた。
「不思議だ……負けたはずなのに……妙にスッキリした気分なんだ……こんな気持ちは初めてだ……」
「そりゃ、足腰立たなくなるまで全力で体動かしたからじゃねえか ?誰だって運動したらスッキリするもんだぜ」
マルクはフライの呟きに答えた。
「そうかもな……自分でも気が付かないうちに……満足しちまったのか……俺は……」
フライは目を瞑り、可笑しそうに自嘲した。
全力で戦ってるうちに、自分を創った生みの親や人間達に対する憎しみや怒りが嘘のように消えてしまったようだ。
フライの表情は憑き物が落ちたように晴れやかだった。
「だが……俺なんかより、余程深い憎しみを抱えてるやつもいる……やつの闇は深い……簡単に晴れるものじゃない……」
「それってもしかして、ヴェロスってやつか ?」
ヴェロス……憤怒の災厄のリーダーにしてフライの良き理解者。
そしてこの俺を完膚なきまでに叩きのめしたことのある男……。
「あいつは身勝手な連中の手によって大切なものを奪われた……それ以来、やつは憎しみの炎を燃やし続けている……決して癒えることのない傷を胸に抱きながらな……」
「それでグレちまったってわけか、あいつもお前も……」
俺は他人事のようには思えなかった。
もしかしたら、俺が辿っていた未来かも知れないからだ……。
俺も人間達に迫害されたり、友達の記憶を失ったり、散々な目に遭ってきた……。
だが俺は臆病だったので誰かに復讐しようとは思わなかったがな……。
「ヴェロスは憤怒の災厄の中で最も強い……。お前なら身を持って思い知ってるだろうがな……」
ヴェロス相手に太刀打ち出来るやつなんて……リトとエルサくらいしかいない……。
そもそもあいつは俺との戦いですら真価を発揮しなかった。
実力は未知数だ……。
「精々お仲間の無事を祈ることだな……あいつは無慈悲で情け容赦ない男だ……」
フライは力なく笑みを浮かべた。
「どうするよ、あいつらが向かってるのってオーガの里だぜ ?」
里にはワカバ、エルサがいる……。リトもいるとはいえ、あいつらだけで勝てるかどうか……。
「取り敢えず信じるしかねえだろ……それにいざという時は這ってでも駆けつける !」
俺は拳を握り、そう決意した。
それを聞いて、フライはクスクスと笑い出した。
「何がおかしいんだ」
「いや……お前達は本当に仲間思いなんだなって……そう思っただけだ」
「……」
「仲間は大切にしろよ、仲間がいるから、どんな孤独や絶望も乗り越えられるんだ」
フライは俺達二人に向けて言った。
とても悪役とは思えない台詞だ。
「ああ……分かってるよ……」
俺はトマトを懐から取り出し、一口かじった。
一方、ヴェロスとルーシーは広い町にやって来た。
ここを通り抜ければオーガの里へ辿り着ける。
だが町には多くの冒険者、騎士団が集まっていた。
町が憤怒の災厄の情報を掴んでいたからだ。
「貴様ら……この町から出ていけ !」
「魔王の手先め !死んでいった冒険者達の仇を取ってやる !」
町の兵士達や冒険者達はヴェロスとルーシーを取り囲み、一斉に武器を構えた。
「ねーねーどうしようー、僕達ピンチだよー」
ルーシーはおどけながらヴェロスに話しかけた。
「そうだな、絶体絶命の危機ってやつだ……お前達がな」
ヴェロスは不敵な笑みを浮かべると腕を獣化させ、爪を光らせた。
「魔人と戦う前の腹ごしらえと行こうか……」
今まさにヴェロスとルーシーの愉悦の為の虐殺が始まろうとしていた。
To Be Continued




