表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ランプを片手に異世界へ  作者: 烈斗
憤怒の災厄編
121/400

第百十九話・創られた命



「俺はある天才科学者によって人工的に創られた……人造人間だ !」


フライは満身創痍の俺達への冥土の土産として、自らの正体を明かした。

その衝撃の事実に、二人とも、動揺を隠せなかった。

聞いたことがないからだ。

人間でも魔族でもない、人の手で全く新しい命が創られるなんてことは……。


「人造人間……だと…… ?」


だが思い当たる伏しはあった。

フライから感じる命が混ざり合ったような混沌とした魔力、全身のツギハギ……。

吸血鬼(ヴァンパイア)半魚人(マーマン)二人を子供扱いする程の不条理なまでの力……。


「創られた存在ってか……。道理で強いわけだ」


俺は地面に這いつくばりながら自嘲した。


「お前みたいな化け物を作るなんて、余程の天才じゃねえと不可能だろうな」


その言葉を聞き、フライの態度は急変した。


「化け物だと……ふざけるなぁ !」


ドゴオッ


フライは突如怒り出し、巨大なハンマーを振り下ろし、地面を叩き割った。

地を砕く程の衝撃波が巻き起こり、俺とマルクを吹き飛ばした。


「「うわぁぁぁぁぁぁ !!!」」


俺とマルクは再び地面に叩き落とされ、衝撃で土埃が舞った。


「お……お前……その言葉に……コンプレックスがあるみてえだな……」


マルクは呻くように問い掛けた。


「……お前達に分かるか……自分が他の何者にもなれない苦しみが……誰にも愛されない孤独が……」


フライは悲しげな表情を浮かべた。


「……俺を創った男の名は、グラッケンミライン……」


フライは静かに己の過去を語り出した。




この世界では命についての研究が行われていた。


研究者達の中でも名を馳せた男、グラッケンミラインはその生まれながらの天才的頭脳を働かせ、生命を無から生み出すという神の領域に足を踏み入れた。

だが彼のやり方は非人道的で命を弄んだ。

危機感を覚えた他の研究者達や国は彼を研究会から追放した。

激昂したグラッケンは研究費を盗み、行方を眩ました。


それからグラッケンは森林の奥地に隠れ、密かに研究を続けた。

己の才を認めなかった学者達に復讐する為、最高の生命体をこの手で創り出し、歪んだ野望を果たす為、彼は研究に明け暮れた。

彼はその恐るべき天才的な頭脳を駆使し、人工的に創り出した心臓を核とし、人や魔族の死体をかき集めてつなぎ合わせ、一人の子供を生み出した。

グラッケンの実験体第一号である。


グラッケンはその子供に自分の名前を元にフランケンシュタインと名付けた。

だが彼は科学者としては優秀でも親としては三流以下だった。

彼は己の研究成果に満足し、フランケンシュタインを放置した。

ろくに食事も与えず、勉強も躾も教えなかった。

彼はフランケンシュタインのことを本当の子供とは思わなかった。ただの道具だった。

結局グラッケンは目障りになったのか、フランケンシュタインを放り捨てた。


何も解らない小さな子供はその小さな足で森の中をさ迷い歩いた。

やがて森の中で人間に出会い、助けを求めるが醜い姿のフランケンシュタインを彼等が受け入れるはずもなく、恐怖と嫌悪により、少年は暴力を奮われた。


「この醜い化け物め !お前みてえな屑が生きてんじゃねえ !」


幼い子供に向けて浴びせられた罵声。

化け物という言葉は今もなお脳に焼き付いて離れない。


親に捨てられ、出会った人間に暴力を振るわれ、絶望と孤独を味わったフランケンシュタインは空腹で力尽き、限界を迎え倒れてしまった。

身勝手な理由で創られ、生きる価値も意味も見出だせないまま死ぬ……全てを諦めた時だった。


「ほう……こんなになってまで……可哀想に……」


森の中で倒れていたフランケンシュタインの前に老人と自分より背の高い少年が現れた。

老人の名はデビッド。少年の名前はヴェロス。

デビッドはフランケンシュタインに食べ物を与えた。

赤く染まった丸い一個のリンゴだった。

フランケンシュタインはむしゃぶりつくように頬張った。

食べてるうちにフランケンシュタインの目から涙が溢れた。


「……」


生まれて初めてだった。

美味しいという感情が芽生えたのは。

誰かの優しさと温もりに触れて、嬉しくなったのは。

言葉を知らないフランケンシュタインは、涙を流すことでしか感情を伝えられなかった。


「そうか……泣く程美味しかったのか……それは良かった」


デビッドはフランケンシュタインの頭を優しく撫でた。

ヴェロスもフランケンシュタインの顔を見て怯える所か笑顔を向けた。

フランケンシュタインも自然と不器用ながら笑顔になっていった。


それからフランケンシュタインはデビッドに拾われ、魔界の一員となった。

人としての生き方、言葉、戦う術、全てデビッドから教わった。

兄弟子でもあるヴェロスと切磋琢磨し、互いに良き理解者となった。

名前が長すぎるということで魔界での仲間達からはフライと呼ばれるようになった。

やがてデビッドの下で秘められた潜在能力を伸ばし続け、魔界でも屈指の少数精鋭部隊、憤怒(サタン)災厄(カラミティ)の一員となった。




「俺は人間が憎い……だから人間に味方する貴様らを許すわけにはいかん」


フライは己の過去を語り終えると倒れている俺達に向かってゆっくりと歩いてきた。


「人間とは醜いものだ……己の身勝手な欲望の為に平気で命を弄ぶ……平気で他者を傷付ける……」


フライの声に静かな怒りが込められていた。


「気持ちは解るぜ……俺も……昔人間共にひどい嫌がらせを受けたことがある……今も夢に見るよ……」


俺はふらつきながらゆっくり立ち上がった。


「ならば何故人間の味方をする !お前ほどの魔族なら、魔王軍こそ相応しいはず !」


俺はフライの言葉を聞き、嘲笑した。


「俺は別に人間共の為に血を流して戦う程、お人好しの正義の味方じゃねえんだよ……俺は……たった一人の好きな女がたまたまこっち側にいるから、その味方についてるだけだ」


俺はフライの目を睨み付けながら答えた。


「そうそう、魔王軍だとか、人間だとか、そんなくだらねえ枠組みに拘ってねえんだよ、俺達は……」


マルクも頭をおさえながら立ち上がった。


「一部に嫌がらせされたからって全体を憎むなんて、馬鹿馬鹿し過ぎるんだよ、てめえの世界はどんだけ狭いんだって話だぜ」


マルクは唾をぺっと吐き出した。


「黙れ !貴様らに俺の苦しみが解ってたまるか !」


フライは怒り、気合いを込め魔力を解放した。


「くっ…… !」


風圧が巻き起こり、二人は飛ばされぬよう足で踏ん張り、腕で頭をおさえた。


「お前の出自は同情するが……だからってワカバを奪われる筋合いはねえんだよ」

「悲しい過去があるからって俺達が殺されていい免罪符にはならねえ !」


俺とマルクはフライの放つ威圧感に負けじと力を込め、魔力を解放した。


「「うおおおおおおおおお !!!」」


拮抗する二つの魔力の波動。

やがて魔力同士は打ち消し合い、消え去った。


「はぁ……はぁ……悪いが俺達も意地を通させてもらう」


俺は自らの腕を傷つけ、深紅(ディープレッド)邪剣(セイバー)を生成し、構えた。


「はぁぁぁ……」


マルクも両腕に青いオーラを纏わせ、ヒレを極限まで研ぎ澄ました。


「まだそんな力を隠していたとはな……」

「こっからが本番だぜ、人造人間」


三人は戦闘体勢に入った。

ピリピリとうねる大気、三人の間に緊張が走った。


To Be Continued

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ