第百十七話・幻術を打ち破れ!
サーシャが変身したと思われる巨大な怪物に苦戦しているリリィとミライ。
怪物の舌に捕らえられ、絶体絶命の状況にあった。
「うっ……」
全身に巻き付く舌の力は強く、骨が軋む音がした。
「これで終わりよ、憤怒の災厄に逆らった者がどんな末路を遂げるか……骨の髄まで味わいなさい !」
怪物は二人を飲み込もうと口を大きく開けた。
「ご……ご主人様……ごめんなさい……」
意識が朦朧とし、視界がボヤけ始め、リリィの目に涙が浮かんだ。
その時、彼女は何かに気付いた。
ボヤけた視界に怪物の姿はなかったのだ。
「え……これって……」
リリィは目をパッチリと開けた。
気のせいではない、怪物の姿はくっきり映ってる。
彼女はためしに目を半開きの状態で視界をぼかしながら怪物を見てみた。
やはり怪物の姿が消えている。
リリィはふと思い出した。
サキュバスは幻術を得意とする種族、つまり怪物など最初から存在せず、サーシャが創り出した幻に過ぎないと……。
「み、ミライさん !この怪物、あのサキュバスが創り出した、ただの幻です !」
「え~ !あっ……そういえば~……」
ミライはふと思い出した。
以前サーシャと戦った時、彼女の創り出した盗賊団の幻影に苦しめられたことを。
「そういえばこの人幻術使いだった~忘れてたよ~」
ハーピーは忘れっぽい困った種族なのだ。
「でも、幻とわかったら、もう怖くないもんね~ !」
ミライは大きく息を吸うと綺麗な声で歌を口ずさんだ。
「素敵な歌声ですね……」
リリィはミライの歌を聴いて恍惚の笑みを浮かべた。
「うう…… !何…… !この耳障りな歌は…… !頭が痛い…… !」
怪物は頭をおさえ、苦しみ始めた。
ミライの神聖な歌声は邪な心を持つ者には効果的のようだ。
「やめてぇ !その歌をやめてぇ !」
苦悶の呻き声を上げるサーシャ。
徐々に怪物の体は透けて消えかけていた。
「銀の翼 !」
ミライは力が怪物の力が弱まっている隙をつき、翼を硬化させて巻き付いてる舌を切り裂き、脱出した。
「リリィちゃん !」
ミライはリリィに巻き付いてる舌も切り裂き、彼女を背負いながら飛行した。
「ありがとうミライちゃん」
「リリィちゃんが教えてくれたおかげだよ~」
二人はニコッと微笑み合った。
「くっ……まさか……私の幻術が破られるなんて……」
怪物の姿は消え、頭をおさえているサーシャだけが残った。
ミライの歌によって、サーシャの幻術をかき消したのだ。
「ミライちゃん、今がチャンスですよ !」
「そうだね~一気に決めないとね~」
二人は地面に着地すると、戦闘の構えをとった。
「まだよ……私はまだ戦えるわぁぁぁ !」
サーシャは血相を変え、目を血走らせながら無我夢中で向かってきた。
最大の必殺技である幻術・幻想の怪物を破られ、サーシャは焦っていた。
彼女は肉弾戦が他の幹部に比べて劣っているのだ。
「「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ !!!」」
リリィは大きくフライパンを振り上げ、ミライは勢いよく空中でバク転をした。
ドゴォッ !
リリィはフライパンをサーシャの顔面に叩きつけ、更に追撃でミライはサマーソルトキックを決め、サーシャの顎を蹴り上げた。
「ぐはあっ !?」
二人の息の合ったコンビネーションの前にサーシャはあえなく崩れ去った。
仰向けに倒れ、ピクピク痙攣しながら泡を吹き、やがて動かなくなった。
「はぁ……はぁ……やったんですか……私達……」
倒れて動かなくなったサーシャを見下ろしながら、リリィは息を切らしていた。
「勝ったよ~ !リリィちゃん~ !」
ミライは喜びのあまり、勢いよくリリィに抱きついた。
「ミライちゃん……くすぐったいですよ」
「えへへ~」
リリィは微笑みながら甘えるミライの頭を撫でた。
二人が力を合わせたからこそ、今回の戦いに勝利することが出来たのだ。
その後、サーシャに操られた村の男達は無事解放された。
誰もサーシャのことを覚えていなかったようだ。
サーシャは危険人物として、アイリと同じく牢獄に放り込まれた。
憤怒の災厄も残るは三人。
ヴェロス、ルーシー、フライ……。
どれも油断ならない強敵達だ。
ここはとある採石場。
かつて竜族達と死闘を繰り広げた場所だ。
その地に、一人の男が堂々と立っていた。
「空気が美味い。決戦の舞台に相応しいな、ここは」
彼の名はフライ。筋骨隆々の巨漢で全身がツギハギだらけの男だ。
ヴェロスの良き理解者でもある。
フライは腕を伸ばし、準備運動をしていた。
「よお、久しぶりだな」
そこへ、二人の男がやって来た。
俺とマルクである。
「ほう、俺の相手はお前達か」
フライは二人の存在に気付いた。
「この前のようには行かねえぞ」
「ここでお前を倒す」
俺は血で出来た短剣を取り出し、マルクはヒレとヒレを擦り合わせ、威嚇した。
憤怒の災厄の中でもフライは強豪だ。
遂に三人の男達の激闘が始まろうとしていた。
To Be Continued




