第百十五話・夢魔の魔の手
コロナは熱い太陽の光で闇を照らし、吹雪をかき消した。
集落は極寒の地獄から解放され、平和が戻った。
「こんなに小さいのに……ありがとうお嬢さん……ありがとう」
村の人々に感謝され、コロナは照れて頭をかいていた。
「所でお嬢さん、こいつはどうしますか ?」
村人の一人が縛られているアイリを指を指した。
光冠爆破により、爆発した彼女だったが、別に消滅したわけではない。
だが体の水分の大半を失い、縮んで子供のような体型になってしまっていた。
コロナと同じ……いや、彼女よりも幼く見えた。
こうなってしまえばもう以前のような力は奮えない。
「こんな……こんな子供なんかに負けるなんて……魔王軍の恥です……」
アイリは悔しさで目に涙を滲ませていた。
「コロナ、取り敢えず町に戻って衛兵につき出すか」
クロスは提案した。
「そうだね……でも……私……疲れ……」
バタッ
「コロナ !」「お嬢さん !」
コロナは疲労が溜まっており、疲れきったのかそのまま眠るように倒れてしまった。
村の人達に介抱され、一晩集落で過ごした。
村を救ってくれた恩人として、コロナは手厚くもてなされた。
翌日、コロナとクロスはアイリを連れて集落を後にした。
その様子を影からじっと監視している者がいた。
「四大元素魔法の使い手……魔女の子か……魔王軍の幹部を倒すとは流石だな」
フードを被った青年はコロナの後ろ姿を眺めながら不敵に笑っていた。
この男はずっとアイリとコロナの戦いを影から監視していたのだ。
「いずれまた会おう……魔女の子よ……」
謎の男はスーっと体が透明になり、消えてしまった。
アイリはその後、例の如く牢獄行きとなった。
残る憤怒の災厄は後四人。どれも強敵だ。
一方、サキュバスのサーシャを倒すべく、リリィとミライは彼女が居るある村に足を運んだのだが……。
「えぇ……」
その村は既にサーシャの毒牙にかけられていた。
村の男達全員彼女の美貌に心を奪われ、服従をしていた。
皆呆けた面でサーシャを崇めている。
彼女だけのハーレムだ。
二人の男が玉座に女王のように君臨する彼女の両側に立ち、大きな団扇で風を扇ぐ男達。
「あの……何をしてるんですか……」
リリィはドン引きしながら問いかけた。
「あなた達が来るまで退屈だから男どもを私の力でメロメロにしてやったのよ」
サーシャはドヤ顔で答えた。
彼女の種族サキュバスは男に淫夢を見せ、虜にする能力を持つ。
「やっぱり男を手玉に取るって最高の気分よね~皆私の思うがまま、貴女は無理そうだけどね」
有頂天のサーシャは舐め回すようにリリィの胸元を見つめた。
「あの人なんか苦手です……」
リリィは嫌な視線を感じ、腕で胸を隠すと不機嫌そうにサーシャを睨み付けた。
「とにかく~ !この間のリベンジだよ~ !今度こそ勝ってみせるから~ !」
ミライはサーシャに指を指した。
「威勢が良いわね、でもまず先に、こいつらの相手をしてもらうわ」
サーシャは指を鳴らした。
すると男達が一斉に立ち上がり、ゾンビのようにワラワラとリリィ達の方に群がってきた。
「な、何なの…… !?」
「この人達……正気じゃないよ~ !」
村の男達はサーシャのサキュバスの魔力によって心を奪われ、傀儡と化しているのだ。
「この大人数相手に無事でいられるかしら」
サーシャはショーを楽しむかのように高みの見物を決めた。
「う~こうなったらまとめて相手をしてしてやる~」
「待ってください !」
リリィはミライを制止した。
「リリィちゃん ?」
「私に考えがあります !」
迫り来る男達……。
リリィはミライを下がらせ、前に出た。
「貴女ルーシーちゃんに手も足も出なかった軟弱な使い魔でしょ ?この人数相手に何が出来るって言うの ?」
サーシャは小馬鹿にした様子でニヤニヤ眺めていた。
「すぅぅぅぅぅ」
リリィは深く息を吸った。
キュウィィィィィン
リリィの口から鼓膜を引き裂く程の強烈な超音波が発せられた。
「うがぁぁぁぁ」「ぎゃああああ」
男達は苦しそうに皆耳を塞ぎ、バタバタと倒れていった。
「な……なんなの……何が起こったと言うの…… ?」
サーシャは目の前の光景を理解できず、困惑していた。
「今のは私が発した超音波の一つ、解除音波です。術にかかった人の脳を刺激し、強制的に術を解除できるんです !」
リリィは誇らしげに胸を張った。
「流石リリィ~ !やる~ !」
ミライは嬉しそうにリリィに抱きついた。
「そういえばあの子、蝙蝠だったわね……くぅ……やるじゃない」
サーシャは悔しそうにしながらも立ち上がった。
「良いわ、私が直接相手をしてあげる !貴女達に永遠に覚めることのない悪夢を目に焼き付けさせてあげるから !」
サーシャは黒い翼、尻尾、角、長い爪を生やし、本格的に戦闘体勢に入った。
「ミライさん、ここからが本番です !」
「分かってるよ~」
リリィとミライvsサーシャの戦いがいよいよ始まろうとしていた。
To Be Continued




