第百十二話・残るは五人
私は渾身の一撃でデュークを下した。
ただ体力をかなり消耗し、立っているのがやっとの状態だった。
「やったな !ワカバ !私達の勝利だ !」
エルサは嬉しそうに私に抱きついた。
「エルサさん……」
「ワカバ、よくやったな」
エルサは満面の笑みを浮かべた。
私もやつれながらエルサに微笑み返した。
「お……おのれ……小娘共……こんなはずでは……」
「わっ」
私は抱き抱えていたデュークの首に気がついた。
デュークは悔しそうに涙目になり、唇を噛み締めていた。
「ほう……これがデュラハンの首か……」
エルサは興味津々にデュークの顔を見つめていた。
「君、結構可愛い顔をしているんだな」
「や、やめろ小娘 !私の顔をじろじろ見るな !」
デュークは照れながら憤慨した。
「おっとすまない……」
「エルサさん……この人どうしましょうか……」
私はデュークをどうするかエルサにたずねた。
「そうだな……とりあえずオババの所に連れていこう、逃げ出さないように縛り上げねばな」
「そうですね」
私は大人しくじっとしているコシュタバワーに気が付いた。
「この馬、本当に動きませんね……」
「主を倒され、何をしていいのか分からんのだろう、よく調教された馬だ」
エルサはさらっと皮肉を言った。
コシュタバワーはエルサのことをいつまでも見つめていた。
私達はデュークを捕らえ、オババの家に連れてきた。
デュークの体はがっちりと紐で縛られ、柱にくくりつけられた。
武器である鎌はオババが没収した。
私とエルサ、ブラゴ、グレン、オババは円になり、生首を囲んだ。
「さ、尋問の時間だ」
エルサは仁王立ちになり、デュークの首を見下ろした。
「う……」
デュークは汗をダラダラかき、萎縮した。
「こいつが魔王軍幹部の一人だっていうのかい」
ブラゴはデュークの首をマジマジと見つめた。
「さあデューク、質問に答えろ、何故君達は私達の命や魔法のランプを狙うんだ ?」
エルサは高圧的な態度でデュークを睨み付けた。
「わ、私は死神の化身だぞ…… ?そんな小娘共の尋問などに私が屈するはずが……」
「ほう…… ?」
エルサは威圧感を出し、指をポキポキと鳴らした。
「ひぃぃぃぃ……」
首だけのデュークの目にはエルサは巨人に見えた。
エルサの威圧に負け、デュークはあっさりと吐いた。
憤怒の災厄の目的は魔王の復活。その為に魔法のランプと私を手に入れること。そして邪魔になる無限の結束を始末することだ。
「既に幹部二人がこの里に向かっている。まあその前に近くの町の騎士団が迎え撃つと思うが、時間の問題だ」
デュークはニヤリと笑った。
「私を倒したからと言って調子に乗るなよ、憤怒の災厄は後五人残っているんだ」
事態はかなり深刻だ。デューク一人でも手強かったのにそんな化け物達が後五人居るなんて……。
他の皆がそれぞれの相手と戦うと思うけど……。
それにオーガの里への道のりには町がある。
二人の幹部によって町の人達が犠牲になるかもしれない……。
「エルサさん、早く向かいましょう !」
「分かってる……だがワカバ、リトはまだ精神世界から戻ってきてないんだろう ?」
エルサに言われてハッとした。
そうだ……リトはまだ戻ってきてない……。
「ワカバよ、一応ランプは持ってきたが、未だに修行中じゃ……あやつめ、いつになったら帰ってくるんじゃ」
オババは私にランプを渡した。
祠に置いたままではまた新たな敵に奪われかねないからだ。
「ありがとうございます……リト……」
私はランプをぎゅっと胸に抱き締めた。
「エルサさん……行きましょう !これ以上魔王軍に好き勝手はさせません !」
私は決意を固めた。
「ワカバ……」
「大丈夫です、私だって強くなりましたから」
私はエルサの手を握り、ニコッと微笑んだ。
「分かった……君を信じよう……それに、リトが居なくても、私がついている」
エルサは胸をドンと叩いた。
私とエルサは里を出て、町を目指すことにした。
ブラゴとオババ、グレンが見送りに来てくれた。
ブラゴはふてくされているデュークの首を抱えていた。
「アンタ達、死ぬんじゃないよ」
「俺ももっと強くなるから、今度来たら手合わせしようぜ !」
ブラゴとグレンは熱い激励の言葉を送ってくれた。
「二人とも……魔王軍の魔の手から皆を守ってくれ……頼んだぞ」
オババは深々と頭を下げた。
「ああ、任せておけ」
「はい、頑張ります !」
私とエルサは里を出ようとした。
その時、未だにじっと待機しているコシュタバワーの存在に気付いた。
コシュタバワーはエルサの顔をじっと見つめた。
「デュークの愛馬 ?私の顔に何かついているのか ?」
「エルサさん、もしかしたらあの子、エルサさんのこと気に入ったんじゃないですか ?」
私の言葉を聞き、デュークは高笑いをした。
「戯れ言をほざくなよ小娘 !我が相棒であるコシュタバワーが、私以外の者になつくはずが……ってえええええええ !!!」
デュークは目が飛び出す程驚いていた。
コシュタバワーがエルサに体をすり寄せ、仔犬のように甘えていた。
首が無いのに心の底から嬉しそうなのが伝わってくる。
「おお……よしよし」
エルサは戸惑いながらも満更ではない様子でコシュタバワーの背中を優しく撫でた。
神月颶風で完全に動きを封じられ、力の差を見せつけられたこともあってかエルサを認めたようだ。
「君、私達を乗せてくれるのか ?」
コシュタバワーはこくっと頷いた。
「ありがとう !助かるよ。ワカバ、一緒に乗ろう」
エルサは華麗にコシュタバワーに跨がると私に手を差し伸べた。
まるで白馬に乗った王子様のように凛々しく、眩しかった。
「は、はい……」
私は頬を赤く染め、ドキドキしながらもコシュタバワーに跨がり、エルサの背中にしがみついた。
「それでは、行ってくる !はっ !」
「行ってらっしゃ~い !」
エルサは手綱を引き、コシュタバワーを走らせた。
コシュタバワーは大地を蹴り、風を斬るように走り出し、砂埃が舞った。
「ちきしょおおおおお !裏切り者ぉぉぉぉぉおおおお !」
デュークは悔し涙を浮かべながら天に向かって叫んだ。
「頼んだよ、二人とも…… !」
ブラゴは拳をぐっと握り、心から祈った。
To Be Continued




