第百六話・vsブラゴ、決着
「はぁぁぁぁぁ !!!」
エルサは全身に力を込め、魔力を集中させた。
彼女の周囲に複数の旋風が発生した。
「行くぞ義母さん !神月颶風 !」
複数の旋風は融合し、巨大なハリケーンへと姿を変え、ブラゴを飲み込んだ。
ブラゴは巨大なハリケーンの牢獄に閉じ込められた。
いくら抜け出そうとしても、壁のように分厚く、オーガの力でも押さえ込まれてしまう。
「動きを封じるとは、考えたね…… !」
ブラゴは汗を流しながら笑みを浮かべた。
流石に効いているようだ。
「今だ、ワカバ !」
「はい !」
私は木刀を構え、身動きのとれないブラゴに向かって走り出した。
今なら一撃与えられる !
「何ちゃってね !!!」
バァァァン
ブラゴは力一杯力むと魔力を爆発させ、内側からハリケーンを打ち消した。
「なっ !」
「はぁ……はぁ……オーガの馬鹿力を甘く見るんじゃないよ…… !」
だがハリケーンから脱出するのにかなり魔力を消耗したのか、ブラゴは息が上がっていた。
「ワカバ、チャンスだぞ !」
「はい !」
疲れが見えたブラゴに対し、私とエルサは木刀を振り上げ、斬りかかった。
キンッ キンッ カキィン
鈍く響く木と木がぶつかる音。
なおも続く激しい立ち回り。
だがブラゴは二人がかりの攻めをさばいていたが、動きが明らかに鈍くなっていた。
作戦とは違うが、結果オーライだ。
「そこだぁ !」
エルサは死角を狙い、一撃を叩き込もうとした。
「フンッ !」
「がっ !
」
ブラゴは即座に対処し、怯んだ所に蹴りを入れ、エルサを吹っ飛ばした。
義理の娘だろうと容赦はしない。
「はぁぁぁぁぁ !」
ズドォォォォン !
だがその隙を突き、私はブラゴの懐を木刀で突いた。
ブラゴは僅かに反応が遅れた。
「ぐっ…… !」
剣先から風が放たれ、ブラゴを吹っ飛ばした。
「はぁ……はぁ……私達……勝ったの…… ?」
私は息を切らし、その場に座り込んだ。
「やったぞ、ワカバ !私達の勝利だ !」
エルサは嬉しそうに私の肩を組んだ。
「いやぁ……参ったねぇ……今回は私の負けだよ」
大の字になって仰向けになりながらブラゴは言った。
「アンタ達、だいぶ腕を上げたね」
ブラゴは起き上がり、ニコッと微笑んだ。
「有難うございます !」
私はブラゴに向かって頭を下げた。
「よく頑張ったね、ワカバ」
ブラゴは私の頭をポンと撫でた。
それが嬉しくて、思わず口元が緩んだ。
少しは私も強くなれたかな……。
「皆すげえな……」
戦いの様子をずっと見ていたグレンは感心していた。
特に私に対してだ。
私の種族は人間。ましてはこの世界の人間ではない。
本来人間がオーガ族やエルフ族と渡り合うなんて余程の達人や勇者でなければあり得ない。
私の奮闘ぶりを見て驚いていた。
「さ、アンタもやるかい !」
ブラゴはグレンに声をかけた。
「姉ちゃん……」
ブラゴも体力を消耗したはずだが、まだまだピンピンしていた。
「良いぜ、手加減すんなよ !」
グレンはやる気になり、木刀を構えた。
「俺はもっと強くなる……姉ちゃん達に負けてらんねえ !強くなって、神器を取り戻して見せる !」
「その意気だよ、流石私の弟だね !」
グレンとブラゴは互いに闘志を燃やしていた。流石姉弟。
「ブラゴさんまだ動けるんだ……」
私は呆気にとられていた。
「あの人の体力は底無しさ、私達は暫く休憩するとしよう」
「そうですね」
私とエルサはブラゴとグレンの試合を見届けることにした。
一方リトはオババに連れられ、かつてオーガ族の神器「迅雷鬼剣」が祀ってあった祠に来ていた。
オババはランプを手に持ち、
「オババ……ここは…… ?」
リトは辺りを見回して、困惑した様子だった。
「神器を祀っておった祠じゃよ……オーガの里に伝わる神聖な場所じゃ……」
オババは祠の前で膝をつき、座った。
「あの……何をなさるおつもりですか……」
「ここなら滅多に人が来ない……お主にはこれから己の中に眠る強大な力を制御するのじゃ」
オババはそう言うとランプをそっと祠の前に置いた。
リトは未だに訳が分からずにいた。
「ここは神聖で清らかな魔力に満ち溢れておる。お主は心を落ち着かせ、穏やかな精神を保ち、己の闇と向き合うのじゃ」
「心を……」
「何も考えるな……無心でじーっとしていればよい……日が暮れるまでな」
オババはそう言うと目を瞑り出した。
リトは益々混乱した。
「よ、よく分かりませんが……やってみます」
リトは素直に従い、深く息を吸い込んだ……。
「主……私は必ず、自らの闇を制御して見せます……」
リトは目を瞑り、深い瞑想に入った。
To Be Continued




