第百四話・オーガの里での修行
一人の少女は泣きべそをかきながらひたすら道を歩いていた。
小さな足は傷だらけになり、動く度に悲鳴をあげているようだった。
もう何日も何も口にしていない。
やがて体力の限界が訪れ、少女はその場で倒れてしまった。
「ふぅ~疲れた~、ん ?あんた !大丈夫かい !?」
そこへ、巨大な魔物の肉を担いだ女が通りかかり、少女に気が付いた。
彼女は急いで倒れてる少女を抱き起こし、声をかけた。
「だ……誰……」
少女は今にも息絶えそうな声で呟いた。
「あたしはオーガ族のブラゴって言うんだよ、アンタ、お父さんやお母さんは ?」
ブラゴは少女に問いかけた。
こんな時間に少女が独りで行き倒れてるなんて普通ではない。
少女は大人に助けられて安堵したのか、涙を浮かべた。
「お父さんも……お母さんも……ルーシーも……皆死んじゃったの……あたし……独りは怖いよぉ……」
「そうだったのかい……」
泣きじゃくる少女をブラゴは優しく抱き締めた。
「……だったらさ、あたしの里に来なよ……あたしがアンタを育ててあげる……だからもう泣かないでおくれ」
「うっ……うぅっ……」
ブラゴはそっと少女の背中を撫で、抱き抱えた。
「今日からアンタはあたしの子だよ、名前はなんて言うんだい ?」
「名前……」
少女は暫く黙っていたが、ゆっくりと口を開いた。
「あたしは……エルサ……」
「はっ !」
エルサは飛び起きるように目が覚めた。
まだ朝の5時半だ。
「はは……昔の夢を見るなんてな……」
エルサは苦笑いをすると隣でぐっすりと眠っている若葉の顔をじっと見つめた。
「可愛い寝顔だ……君を見てると、本当に妹のように思えてくるな……」
エルサは優しく微笑み、ワカバの髪を撫でた。
「さ、せっかく早起きしたんだ、朝の修行でもしてくるか 」
エルサは気持ちを切り替え、着替えると修行をしに部屋を出た。
「おはようございます……」
私は7時頃に起床した。
リビングに行くと、既にエルサとブラゴとグレンは朝食を食べていた。
皆早起きだなぁ……。
「おはよう、ワカバちゃん」
「おせーよワカバねーちゃん」
「コラ !なんて口を聞くんだい !」
ブラゴは軽くグレンの頭を小突いた。
「おはようございます」
「ワカバちゃんの分、そこに置いてあるからね」
「有難うございますブラゴさん」
私は歯を磨き、顔を洗ってすぐに食卓についた。
私とエルサは修行をする為、オーガの里に残り、ブラゴのお世話になっていた。
今日で一週間くらい経つ。
ブラゴの修行は予想以上に厳しく、毎日ヘトヘトだった。あのエルサですら疲れすぎて気絶するくらいだ。
流石はオーガ族、鍛え方が段違いだ。
「さ、今日のメニューだよ 」
私とエルサとグレンはブラゴに連れられ、里にある岩場に来ていた。
オーガ達にとって絶好の修行場だ。
「ワカバ、エルサ、アンタ達二人が手を組んで、あたしと戦うのさ」
「ブラゴさんと !?」
ブラゴは木刀を二本用意し、私とエルサに投げ渡した。
「と言っても、ちゃんとルールがあるのさ、あんた達の攻撃が一発でもあたしに当たったら勝ち……とかね」
「成る程……面白そうだな」
エルサは俄然やる気のようだ。
「でもいいのか ?すぐに終わるかもしれんぞ?」
「ほー言うねぇ、流石あたしの自慢の娘だ」
私はグレンに話しかけた。
「ねぇ、やっぱりブラゴさんって強いよね……」
「当たり前だろ、なんたって姉ちゃんは戦士長だからな」
グレンは手を後ろに組みながら答えた。
「さ、準備は良いかい !」
私とエルサは木刀を構え、ブラゴに睨み付けた。
ブラゴも木刀を構え、私達を威圧する。
流石は戦士長……。風格が違う。
この勝負では、私とエルサのどちらかがブラゴに一撃当てられたら勝ちとなる。
審判はグレンが務めることになっている。
私とエルサとブラゴは互いに睨み合ったまま動かない。
修行とは言え、真剣勝負だ。
全員に緊張が走る。
「よーい、始め !」
グレンが叫び、試合開始の合図が鳴った。
「「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ !!!」」
合図が鳴ったと同時に、私とエルサの木刀がブラゴの持つ木刀とぶつかり合った。
衝撃で大気が揺れた。
「どうしたんだい !アンタ達の力はこんなもんじゃないだろう !?」
ブラゴは余裕があるのか、笑っていた。
「行くぞ、ワカバ !」
「はい、エルサさん !」
私とエルサのタッグは、ブラゴ師匠に勝つことが出来るのか…… !
勝負はまだ始まったばかりだ。
To Be Continued




