第百三話・竜族の加勢
「苦戦してるみてえだな、無限の結束 !」
絶体絶命の状況の中、爬虫の騎士団のラゴンが颯爽と現れた。
「ラゴン……何でお前が……」
ラゴンは地面に降り立ち、ヴェロスの前に立ちはだかった。
「勘違いすんなよ、クエストが終わって、たまたま通りかかっただけだからな。それに、面白そうな獲物じゃねえか」
ラゴンは指をポキポキ鳴らし、高揚していた。
彼は根っからの戦闘種族。強い者と戦うことを誰よりも好む。
「ラゴン !置いてくなんて酷いわ~ !」
ラゴンの仲間であるメリッサ、ララ、ザルド、そしてヒュウが遅れて駆けつけた。
「大丈夫か、ヴェル !」
ヒュウは倒れていた俺を抱き起こした。
「ヒュウ……」
「お前ともあろう者がこんな重傷を負うとはな」
「気を付けろ……やつらは……魔王軍の……」
俺は声を振り絞るように出した。
「ああ……魔王軍幹部・憤怒の災厄だな、最近冒険者や騎士達を殺し回ってるイカれた連中さ……」
ヒュウは彼等について詳しく知っているようだった。
人間界に長いこと潜伏していたからか、知識が豊富なのだろう。
竜族の登場は想定外だったらしく、憤怒の災厄の六人は警戒心を強めた。
「竜族……人間共に屈し、魂を売り渡した情けない劣等種族が…… !」
冷静なヴェロスは珍しく声を荒げた。
「俺達は人間に屈したわけじゃねえよ !俺達は罪を背負い、それでも生き抜くって決めたんだ !」
ラゴンは翼を大きく広げ、爪で威嚇し、戦闘の構えをとった。
メリッサ達もラゴンに続いた。
「俺達は爬虫の騎士団 !そして俺はリーダーのラゴンだ !お前ら強いんだろ ?俺と戦え !」
ラゴンは声高に叫んだ。
竜だけあって凄まじい音圧だ。傷口に響くぜ。
「どうする、ヴェロス」
「こいつらも倒すの ?」
フライとルーシーはヴェロスに判断を委ねた。
「竜族……俺達が敵わない相手ではないが……楽には勝てん集団だ……それに、ここにはイフリートを操る小娘も居ない……これ以上続ける意味はない」
ヴェロスは腕の獣人化を解き、その場を去ろうとした。
「お、おい !逃げんのか !」
ラゴンは大声で呼び止めた。
「勘違いするな、お前達ごときいつでもやれる……今はまだその時ではない……再び合間みえるその時まで腕を磨いておけ」
ヴェロスは振り返り、そう言って去っていった。
「命拾いしたな、貴様らの魂はいずれこの私が冥界へ送ってやるからな」
デュークは高圧的な態度で捨て台詞を吐いた。
他のメンバーも立ち去るヴェロスに戸惑いながらも後を追った。
「何だよ……つまんねえな」
ラゴンは拍子抜けし、退屈そうに小石を蹴っ飛ばした。
爬虫の騎士団の介入によって、俺達は命拾いをした。
幸い、全員命に別状は無かった。
重傷なのは俺ぐらいだ。
メリッサとララが全員を軽く手当してくれた。
かつては殺し合った中だったが、感慨深いものだ。
「もう大丈夫よ、痛いところはない ?」
「う……うん」
メリッサはコロナに微笑んだ。
敵対した時は恐ろしい女だと思っていたが意外と母性的なんだな……。
「なあヴェルザード、あいつらの目的は……」
「ああ、俺達の命と、イフリートの力らしいな……」
魔王軍が何故リトの力を欲しているのかは分からない……。
それほど魔王軍が喉から手が出るほど欲しがるものなのか……。
「くそっ !この俺が…… !何も出来なかった…… !」
マルクはフライとの戦いで一撃で倒され、悔しさから地面を殴った。
「無理もねえ、あいつらは魔王軍の幹部クラス……他のやつらとは別格だ」
ザルドがマルクに声をかけた。
「それにしてもあの野郎……今度会ったら絶対に戦ってやるぜ !」
「全く、アンタはそれしか頭にないんだから」
ヴェロスとの戦いに闘志を燃やしているラゴンに対してメリッサは呆れていた。
「そうだ……ワカバちゃんやエルサさんに伝えなきゃ !魔王軍に狙われてるって !」
リリィが慌てて俺に言ってきた。
「確かに……あいつらはオーガの里で修行中……居場所が割れるのも時間の問題だぜ」
「そのことなら任せておけ !バン !」
ラゴンは唐突に口笛を吹いた。
すると、小型のドラゴンが何処からともなく飛んできてラゴンの腕に止まった。
「こいつは偵察用の小型のドラゴンだ。名前はバンって言うんだ。こいつに手紙を届けてもらうってのはどうだ ?」
「成る程、名案だな」
小型のドラゴン……リリィやクロスと同じ使い魔みたいなものか。
俺は小型のドラゴン・バンに手紙を託すことにした。
要約すると魔王軍幹部・憤怒の災厄が動き出した。ワカバ、お前とリトを狙っている。くれぐれも用心しろ……と言った内容だ。
「場所はオーガの里だ。頼んだぜ」
俺はバンに手紙を渡した。
バンは甲高い声で鳴き、頷くと空高く飛び去っていった。
「ワカバ……」
「大丈夫ですよ、ご主人様」
リリィはそっと俺の体に寄り添った。
「ワカバちゃんはきっと強くなります。強くなって、悪い人達を返り討ちにしてくれます」
「ああ……俺もそう信じてる」
俺とリリィはワカバの事を想いながら空を見上げた。
To Be Continued




