第百話・敵は魔王軍
オーガの里から戻った俺達は次に次に舞い降りてくる依頼をこなす毎日を送っていた。
今頃ワカバとエルサはオーガの里で修行してるんだろうな
「ふぅ~疲れた~」
俺とマルクは近隣の森で魔獣を討伐してきた。
大したことはなかった。
「お疲れ様です、ご主人様」
リリィが笑顔で労ってくれた。
「おう、ありがとな」
「あ、そうだ !依頼書がうちに届いてたんです」
リリィは懐から依頼書を取りだし、ヴェルザードに渡した。
「依頼 ?どれどれ ?」
依頼はある魔法使いの少女からだった。
かつては勇者のパーティーに入っていたらしい。
ある密林で魔獣を倒した後休憩をしていたら、謎の男に襲われ、パーティーを全滅させられたと……。
唯一生き残った彼女は現在診療所で治療を受けている……。
「要はその謎の男とやらを討伐してくれってことだな ?」
依頼書と一緒にその男の似顔絵も送られてきた。どうやら彼女が描いたものらしい。
悪人面だが、どう見てもただの人間の男にしか見えない。
「おいおい、腐っても勇者のパーティーだったんだろ ?それがただの人間に全滅させられるかよ」
マルクは懐疑的だった。
「待ってください……もしかしたらその人、人間じゃないかも知れません……ご主人様やマルクさんと同じ、魔族や亜人なのかも……」
リリィに言われ、確かにと思った……。
勇者は仮にも魔物や魔獣を倒せる程の素質を持ち、鍛練を積んだ者しかなれない職業だ……。
そんな勇者が殺されるなど、本来なら有り得ない事態だ……。
「もしかしたら……この前の魔導師の……仲間かも……」
いつの間にか、コロナが俺達の話を聞いていたようだ。
「魔王軍か……」
勇者パーティーを全滅できるだけの実力者……魔王軍にならいてもおかしくはない……。
「魔王軍の手先が勇者狩りとはな……上等だ……このヴェルザード様が返り討ちにしてやるぜ」
俺は立ち上がり、高らかに宣言した。
「お前一人に良いカッコはさせねえぜ、俺も行く」
「ご主人様はいつも大怪我して帰ってくるので心配です !私もついていきます !」
マルクとリリィが同行することになった。
「あ、あの……私も……行っていい…… ?」
「コロナ ?」
コロナは弱々しく聞いてみた。
いくら魔女の子とは言え、幼い彼女を勇者を殺すような相手との戦いの場に連れてくのは少し気が引けるな……。
「案ずるな、コロナは僕が守る、命に代えてもな」
クロスはコロナの肩に乗っかり、胸を張った。
「まあそうだな、いざという時は俺が守ってやればいい……」
そこへ、ミライがクエストから帰って来た。
「皆~ただいま~、何話してるの~」
「ああ、実はな……」
俺はミライに事情を説明した。
「へぇ~私も行きたい~」
「お前分かってるのか ?遊びに行くんじゃねえんだぞ ?」
俺は呑気なミライに苦言を述べた。
「分かってるよ~でも私だけ置いてきぼりなんてやだよ~」
ミライは膨れっ面をしながら駄々をこねた。
まあしょうがないか、それにミライは意外と侮れない実力者だからな……。
竜族との戦いの時もラミアのララを上空まで持ち上げて地面に叩きつけるというエグい戦い方をするくらいだ。
こうして、俺とマルク、リリィ、コロナ、クロス、ミライの6人は謎の男の現れたと言う密林へ向かった。
密林は木や草が生い茂っており、視界が悪い場所だ。
この地には魔物や魔獣が多く生息している。
勇者レベルでなければ足を踏み入れる許可すら降りないのだ。
「この辺りに謎の男がねぇ……」
「うぅ……ジメジメして気味が悪い……」
「私も~何だか蒸し暑い~」
六人は雑談しながら密林の中を歩いていた。
「でもよく考えたらその人魔王軍なんですよね ?」
リリィが俺に話しかけてきた。
「ま、まあ確証は無いが……」
「それって密林に必ずいるとは限らないってことなんじゃ……」
「あっ……」
考えてみればやつらの本拠地は魔界にあるんだった……。
かと言って魔界に殴り込みってのは流石に無謀すぎるしな……。
「いや、そうでもないと思うぜ」
マルクがリリィに返した。
「やつらの目的は恐らく勇者クラスの人間を殺すことだ。やつらはこの密林にやってくる人間を待ち構えてるんじゃないのか ?」
「それはあり得るかも知れませんが……」
「しっ !静かに !」
突然クロスが全員に呼び掛けた。
どうやら何かの気配に気付いたらしい。
「まさか……本当にやつが…… ?」
俺達は互いに背中合わせになり、警戒心を強め、身構えた。
ピリピリと空気が張り詰められる。
「貴様らか……今回のターゲットは……」
俺達の前に、六人の集団が姿を現した。
六人とも、普通の人間とは雰囲気がまるで違う……。
奴等からただならぬ邪悪な魔力を感じた。
「誰だてめえら……」
「いずれ死ぬ貴様らが知る必要も無いだろう」
中央の男は冷酷な目でマルクを睨み付けた。
「間違いありません…… !似顔絵とそっくりです !」
リリィは懐から紙を取り出し、見比べた。
「ここら辺で勇者のパーティーを殺したのはお前か」
俺は男に向かって問いかけた。
「ああ、殺した……一撃でな……あっけなかったぞ……」
「へぇ~流石ヴェロスお兄ちゃん」
六人の中に里で見かけたダークエルフの女がいるのに気付いた。同一人物だ。
「あ、この間はどーも」
このダークエルフは確かエルサの妹、ルーシーだったか……
エルフの村を魔獣に襲われ、殺されたって聞いていたが、まさか魔王軍に入っていたとはな……。
というかルーシーが居るってことはやはりこいつら魔王軍か…… !
「魔王様のご命令でな……貴様らに恨みはないが、始末させてもらうぞ、所で、イフリート使いの召喚士が見当たらんが……」
全身つぎはぎだらけの大男は俺達の中から誰かを探していた。
「ワカバならいないぜ、何処にいるかは教えねえけどな」
マルクは威勢よく挑発した。
「まあいい……召喚士は次の機会だ……それよりも」
「分かってる……丁度六人だ……お前ら、好きにやれ」
ヴェロスと呼ばれる男は全員に指示を出した。
「その言葉、待っていたぞ」
「楽しませて頂きますよ」
六人は戦闘体勢に入った。
まさか六人も居るとは想定外だったな……。
相手の実力は未知数……。
だが、これも仕事だ……。簡単に逃げるわけにはいかない。
「お前ら、準備は良いか」
俺は皆に声をかけた。
「はい……私も戦えます !」
リリィはフライパンを取り出した。
「私も……頑張る !」
「私も~ !」
コロナは杖を構え、ミライは翼を広げ、威嚇の体勢に入った。
それぞれが戦闘体勢に入り、緊張感は極限に高まった。
俺達は魔王軍の六幹部を相手に勝つことが出来るのか。
To Be Continued




