第九十八話・魔王の思惑
いよいよ新章突入です。
結構な長丁場になると思います!
皆さん宜しくお願いします!
常時暗雲立ち込める魔の領域、魔界。
常人は決して足を踏み入れることすら許されない。
劣悪な環境の中、魔物や魔獣、魔族だけが生きのび、この地を闊歩している。
そんな魔界を統治しているのが、魔王サタン。
かつての戦いで肉体を失いながらも、魔剣に精神を移し、今もなお魔王城に君臨し続けているのだ。
そんな魔王の元へ、魔導師デビッドが戻ってきた。
「ご苦労であったな、デビッドよ……報告を聞こうではないか」
デビッドは玉座の前に膝をつき、静に頭を下げた。
「魔王様……申し訳ございません、オーガの里の件なのですが、思わぬ邪魔が入りまして、オーガ族を根絶やしにすることは叶いませんでした……」
「そうか……まあ良い……いずれこの我が直々に滅ぼしてやるさ、寿命が僅かに伸びただけだ」
デビッドは懐からオーガの神器を取り出した。
「ですが……オーガ族に伝わる神器だけは回収することが出来ました」
「ほほう 」
魔王は歓喜の声を上げた。
デビッドは魔王の玉座に近付き、オーガの神器を差し出した。
魔王は剣から闇の影を発生させると触手のように伸び、オーガの神器を掴んだ。
「これで残る神器は後2つだな……よくやったぞデビッドよ」
デビッドは深く頭を下げた。
「所で、イフリートの様子はどうだ ?」
「はい……イフリートは私の召喚した鎧魔獣との戦いの中、再び闇の力を目覚めさせ、魔人形態へと姿を変えました」
デビッドはリトについて事細かに報告した。
「イフリートはその強大な闇の力で鎧魔獣を圧倒し、後一歩の所まで追い詰めましたが、時間切れで消失しました」
「成る程……まだ完全では無いという所か……」
魔王は暫く考え事をしていた。
「イフリート……奴の力を取り込めば我の肉体の完全復活もそう遠い話ではない……」
魔王の目的……それは集めた神器とリトの魔力を取り込むことによって失われた肉体を復活させることだった。
「しかしイフリートは不完全な状態です……召喚士の力が無ければ姿を現すことも出来ません」
「ふん、分かっている……ではその召喚士とやらを魔界へ連れてくれば良いではないか」
魔王はデビッドに対して、こう提案した。
だがその作戦はミーデが二度挑戦してあえなく失敗に終わっている。
「成る程な……ただの人間と思いきや、それなりに自衛能力はあるということだな……ふむ……どうしたものか……」
そこへ、ミーデが現れた。
「魔王様、ご報告がございます」
「何だ、申してみよ」
ミーデは汗を垂らしながら、一旦深呼吸をした。
「兎人族の村に魔獣を差し向けましたが、数人の竜族に鎮圧されました……」
「竜族か……まさかあいつらが他の種族を助ける真似をするとはな……」
数人の竜族とはラゴン率いる爬虫の騎士団のことだ。
かつて人間の町に攻めこもうとしたが無限の結束と激しい戦闘の末に敗れ、人間達の傘下についた。
「あやつらめ、竜族の誇りを忘れたのか…… !」
デビッドは怒りに拳を震わせていた。
「人間達はこの短い時の中で勢力を拡大しつつあるようだな……我々の想像もつかぬ近代兵器の開発に竜族などという戦闘種族すら味方につけるとは……それにイフリートの力もやつらの物になっている……うかうかしてられんな」
魔王は焦りを感じていた。
このままでは肉体を取り戻す前に力をつけた人間達によって逆転され、魔界を制圧されてしまうと……
「デビッドよ……こうなったらその召喚士とイフリートを何としてでも手に入れるぞ、これ以上人間共に時間を与えるわけにはいかんからな……厄介な芽は早急に摘まねばな」
「それでしたら、彼等の出番ですね」
デビッドはニヤリと口角をつり上げた。
「よし、この辺で休憩でも取るかー」
「そうしよっか」
とある密林で、数人の冒険者達が岩に腰を掛けていた。
彼等は魔王を倒すために選ばれた勇者のパーティーだ。
リーダーの勇者、魔法使いの少女、僧侶の青年、戦士の女性の四人でパーティーを組んでるようだ。
この異世界では魔王を倒すための勇者のパーティーがいくつも存在していた。
「今回狼の魔獣と戦ったけど、俺、だいぶ腕が上がったと思うんだよね」
勇者と呼ばれる男は自らの掌を眺めていた。
「確かに、強くなりましたよ、流石です」
水筒の水を飲みながら魔法使いは笑顔で頷いた。
「ま、お前ならもっと上を目指せると思うんだがな、何せお前は魔王を倒すという使命を帯びた、勇者の一人なんだからな」
戦士の女は勇者に向かって微笑んだ。
「ああ、そうだな……俺はもっと強くなる…… !そして伝説を塗り替えるんだ……かつて古の大戦を終わらせ、世界を平和に導いた伝説の勇者ジャスミン……俺はそれを超えてみせる !」
勇者は拳を握り締め、心に誓った。
「俺達も応援してるぜ」
僧侶の男は笑みを浮かべながら勇者の胸に拳を当てた。
「それは無理だな……」
「「「「!!!」」」」
突然謎の声が聞こえ、勇者達は一斉に警戒心を強め、身構えた。
「何なんだ……このおぞましい魔力は…… !」
「俺が防御結界を張って魔物を寄せつけないようにしたはず……なのになんで…… !」
低い声の持ち主は、勇者達の前に姿を現した。
黒い衣装に身を包んだ、目付きの悪い若い男だった。
「貴様ら人間共に未来はない……」
謎の男は冷たく言うと勇者一行を一睨みした。
「な……人間…… ?」
「いや、見た目は人間だが彼から感じる魔力は桁違いだ……明らかに私達に殺意を向けているぞ !」
戦士の女は謎の男に剣を向けた。
「貴様らを殺す……」
「やれるもんならやってみやがれ……俺はいずれ魔王を倒す伝説の勇者になる男だぞ !」
勇者は臆することなく、威勢よく吠えた。
「お前が魔王様を…… ?」
ザシュッ
謎の男は瞬きする間もなく勇者との距離を詰め、懐を爪で貫いた。
「ガハッ !?」
勇者は吐血し、更に腹部から大量の血を噴き出させ、あっさり崩れ落ちた。
「勇者様ぁぁぁぁぁぁ !!!」
魔法使いは悲痛な声で泣き叫んだ。
「おのれぇぇぇ !よくも勇者を !」
「俺の親友を…… !絶対に許さんぞ !」
怒り狂った女の戦士と僧侶は謎の男に襲い掛かった。
二人は謎の男に対し、怒濤の攻撃を叩き込む。
だが謎の男には掠りもしなかった。
「そんな !攻撃が……当たらない !」
どれだけ攻撃しても彼は目にも止まらぬスピードで全ていなしてしまうからだ。
「この程度の実力でよくも魔王様に挑もうなどと考えたな……」
ズバァッ バシュッ
僧侶と戦士の体から大量の血が噴水のように噴き出た。
二人はたった一撃で斬られ、無念にも散っていった。
「そ……そんな…… !皆…… !」
魔法使いの少女は目の前のあまりにも残酷な光景に固まって動けなかった。
さっきまで他愛ない会話をしていた仲間達が血で染まった大地を転がっているのだ。
夢と希望に満ち溢れた、未来ある若者達の無惨な亡骸である。
「いや……嫌だ……こんなの……」
魔法使いは全身の力が抜け、杖を落とし、尻餅をついた。
底知れぬ恐怖と残酷すぎる現実を前に発狂しかけていた。
謎の男は身動きのとれない少女に向かって恐怖心を煽るようにゆっくりと近付いた。
「案ずるな……貴様もすぐに仲間の所に行かせてやる」
謎の男は腕を狼のような毛で覆うと腕を大きく振りかざした。
「ひっ !?」
魔法使いは思わず両腕で目を覆った。
To Be Continued




