7話 追われる少女②
しかし、その問いは自分に向けられたものではなく前にいる青年に向けられたものらしい。
青年が立ち止まっているうちにゆっくり距離を詰めていく。
「誰なの?あなたは・・・追手?」
青年の前には、女の子が立っていた。ちょうど木が少なく月明かりに照らされて良く見える。綺麗で長い青髪に、水晶のように綺麗でつぶらな瞳の可愛らしい女の子であった。身長は青年に比べて高くはないが多分女子高生の平均ぐらいだと思う。
「追手?僕はこの世界に来たばかりのタカトっていうんだ」
「異世界人だったのね・・・」
というか何アイツはラノベの主人公みたく異世界に来て早々女の子と出会ってるんだ。
しつこいようだが、こっちはホームレススタートだぞ、ふざけるなよ。
怒りがだんだんと込み上げてきて今すぐにでもとびかかって、あの青年をぶっ飛ばしてやりたい。
「君の名前は?」
なんかどこかで聞いたことあるようなセリフだ。そんな感動的な出会いを俺の目の前でするな。
彼女がそれに答えようとした時、二人の鎧を付けた兵士が馬のような、しかし顔は恐竜のような凶暴そうな生き物にまたがって彼女たちの前に立ちふさがる。
「きゃっ」
彼女は青年の後ろに隠れるようにして兵士達に怯える。
「さあそこの君、彼女をこちらに渡してくれないか?悪いようにはしない褒美もやる」
「そんな事信じると思うのか?」
ごもっともな意見である。悪いようする奴がわざわざ悪いようにするなんて言うわけがない。
青年は鞘から剣を抜きだし兵士に向ける。
「ほほう、我々とやりあうつもりか。そんな無防備な状態で」
なぜ異世界にせっかく来たのに自分ではなく目の前で人の漫画とかアニメみたいな展開を繰り広げようとしているのを見なければいけないんだ。
怒りが収まって今度は悲しみが積み重なっていく。
「剣をこちらに向けたということは覚悟は出来ているのだろうな」
兵士達も鞘から剣を抜き青年に向ける。すると青年の目つきが険しくなる。すると、剣から青白い光のようなものが立ち込まった。どうやらあの剣は普通の剣ではないらしい。確か現世の行いが良いほど良い物を貰えると言っていたから彼は現世で良い行いをしてたのにも関わらず命を落としこの世界に来たのだろう。
しかし5年引きこもりの人間より1年しか引きこもってない俺が何も貰えていないという事実がある以上、こんな格差許せるはずもない。
「いくぞおおお」
とうとう兵士が青年の方へと剣を向け、馬のような生き物に乗ったまま立ち向かう。青年も覚悟を決めたかのように剣を振りかざす。その姿は不器用で経験の無さを丸出しするような振り方で、自分のフォームの方がまだマシだと確信できるほどだった。
しかし剣から今度は電気のような光が一瞬走る。その後、大きな雷を放った。
兵士の体全体に直撃するわけではなかったがその太い雷の光が腕や足などを部分的に当たる。
兵士達とその乗っていた馬のような生き物は悲鳴をあげてその場に倒れこんだ。
「・・・やったの?」
「息はしているから気絶しただけみたいだね」
兵士の生存を近付いて確認が出来ると青年はその場に立ち尽くして不敵な笑い声をする。
「あの、ありがとうございます。何とお礼を言ったらいいのか」
「いいよ、これから僕が君を守るから」
青年は女の子の方を見ようとはしない。その場に倒れている兵士を見下して口が笑っている横顔は少し不気味だった。
「いえ、そこまでしてもらうのも悪いですし。私はここで失礼しますね・・・」
彼女はこちらの方を向いて、そそくさとその場を立ち去ろうとすると、青年は彼女の細い腕をガッチリ掴んで足を止める。
彼女もいきなりの事で驚いたようで、青年の方へ振り返る。
青年は笑っているのに不気味でさっきの兵士に立ち向かった時の勇敢な顔はどこか消えていた。
「いいだろ?僕がちゃんと守ってあげるから、その代わりに君には僕のいうことをちゃんと聞いてもらう」
おいおい凄い能力を得たからって闇落ち早すぎるだろ。
彼女は腕を掴まれながらも必死にこっちの方向を向いて逃げようとする。すると棒立ちしていた自分と目が合ったしまった。
「あっ」
彼女が自分の事を指さすと、青年もこちらに気付いたらしい。その隙を見計らって腕を強引に振りほどきこちらに駆け寄って自分の肩に両手を置いて隠れるようにする。
「助けてください!」
「ちょっ、えっ、というか何で俺!?」
「あなたしかいないんです!」
「嘘つけ!ここにいれば俺以外誰でも良かっただろ!」
「本当ですってば!」
そんなやり取りをしていると青年は剣を持ってこちらにゆっくりと近付いてくる。うつむいているせいかよく顔が見えない。しかしきっとさっきの行動から考えれば恐ろしい顔をしているのだろう。
剣からは今度は炎のようなものが走っているのが見えた。こっちの平凡な剣なんかじゃとてもじゃないが太刀打ちできそうにない。
「・・・お前誰だ?彼女の追手か」
「いやあ、追手なら俺に助けを求めないんじゃ・・・」
うつむいていた青年の顔が上がり、こちらを鋭い眼光で睨み付けてくる。
ヤバい。一瞬で察知した瞬間、自分の背中に隠れる彼女の手を掴み、後ろに切り返し、彼女を引っ張り出すように逃げ出した。
「逃げるぞ!」
「えっ!?」
あんなものを見せられたら逃げるしか選択肢はない。必死に森を進んできた道を引き返すように走り出す。しかし、女の子を引っ張って走るペースはどれぐらいがいいのだろうか。下手して転んでもされたら余計に時間がかかってしまう。こんな経験生きていた頃も無かったから分かるはずもない。とりあえず片手が塞がっている以上全力では走れないし、とりあえず走ろう。