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異世界転生してきた冒険者の夢をぶち壊せ!  作者: 平賀ひろた
1章 望んでいた世界とこの異世界生活は程遠い
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5話 異世界暮らしの先輩

1週間ぶりの風呂だった。こんなにも暖かく身に染みる水は久しぶりである。




「代わりの着替え用意しといたから着ていた服は洗っと・・・てか、くっさ!!」




風呂場のドア越しにさっき会ったレイジさんが話しかけてくる。

自分でも分かっていたとはいえ、大きな声で「くっさ」なんて言われたら少し凹む。

しかし、風呂を貸してもらって色々としてもらっている身分のため文句なんて出るはずもない。



1週間ぶりの風呂を満喫すると白いふかふかのタオルが用意されていた。

体に着いている水分を拭き取り、街で歩いていたような人たちが着ていたような服を着る。着心地としては生きていた頃に着ていた服のが良かった気もする。



着替え終わってリビングに戻ると食卓テーブルには二人分の料理が用意されていた。

サラダにパンにシチューっぽいスープであった。正直和食を食べたいがこの腹ペコな胃はなんでも受け入れる態勢は出来ている。




「ご飯用意しといたから食べていいぞ」




食べる許可が出なくても手を出してしまいそうな勢いであったのに許可がおりればもう勢いは止まらない。

イスに座った瞬間にパンに食いつきメレンゲでスープを素早く動かし口に運ぶ。そして時折サラダに手を伸ばす。

味に関していえば日本で暮らしていた頃に食べていた料理とさほど違いはなく、どんどん口に運ばれていく。

1週間魚生活の頃に比べたらこれほどにない贅沢だ。




「凄い食力だなあ」




ようやく片付けなどが片付いたのかレイジさんもイスに座る。しかしその頃にはもう自分の用意された分のご飯の皿はすべて綺麗に平らげていた。




「ろくなもの食べてなかったんだな、シュンヤはこの世界に来てどれぐらいなんだ」


「一週間ぐらいです」


「それじゃあ来たばかりなんだな」


「レイジさんは・・・来てからどれぐらいなんですか?」




この世界の生活にもだいぶ手慣れている感じがする。それを見て少し気になった。




「俺はちょっと前で1年は経ったかな」


「へぇ、そうなんですか」


「ところでシュンヤは3つの選択の内何を選んだんだ?見た感じ何も持ってないけど」


「3つの選択?」




水を飲もうとガラスのコップを持つが再びテーブルに置いた。




「3つの選択って何ですか?」


「お前、神様と話さなかったのか?」


「神様?何の話をしているのかさっぱりわかんないんですが」


「マジかよ・・・」




レイジさんはびっくりしたように手に持っていたメレンゲをスープの入った皿に置いて頭を抱えるように驚いていた。




「俺以外のやつの話も聞いたところ皆同じで、異世界つまりこの世界に来た奴は来る前に神と話してるんだよ。そして何も持たずじゃ可哀想ってことで3つの選択肢を与えられる。そしてその選択肢は魅了、金、剣で共通らしい。現世での行いがいいほど、効果が強かったり莫大なものらしい。まあ大抵この世界に来て会った奴はろくでなしで俺もそんな人様に言えるような生き方じゃなかったから、異世界生活の手切れ金として金を選ぶ、もちろん俺もな」


「へぇ、そうなんすか」


「というか、マジでお前何も覚えてないのか!?なんか金とか剣とかそれか人に好かれるようなことは無かったか!?」




食卓テーブルに手を置いて前のめりになって自分に疑いかけるように聞いてくる。

しかし起きたときそれらしいものも身の回りにあったわけでもなく、街で会った人で覚えているのは汚い物を見るような目で街の住人に見られた記憶とパン屋のおっさんに怒鳴られた悲しい記憶だけだった。思い出すだけでも泣けてくる。




「ちょっと、泣くなって。悪かった、悪かったから!」




レイジさんの呼びかけでようやく悲しい記憶が打ち切られる。



しかし現世での行いがいいほど、いいものを貰えるのか。

現世では引きこもりになった挙句、親より先に死ぬという不幸をしてしまったことを考えればお前にくれてやるものなどない!異世界で更に苦しめ!と言われるのも無理はない。



でも自分が最後に行った善は大したことではなかったのだろうか。

未来ある少女を救ったということは意味が無かったのだろうか。

その時は異世界なんかに飛ばされるとは思いもせず見返りだって求めていたわけではないが、今こうして思えば少しぐらい自分にこの世界の手切れ金として何かくれたっていいのではないだろうか。



だんだんと怒りが込み上げてくる。気付けばガラスのコップを強く握りしめていた。




「それと言いにくいんだけど俺も自分の生活で手一杯なんだ。だからシュンヤをずっとここに置いとくわけにもいかないんだ」


「そうですよね」


「まあ珍しい後輩みたいなもんだから、生活出来るぐらいの準備は手伝ってやるから」


「準備・・・?」




レイジさんはリビングの奥の色々と散らかった場所を漁るようにして何かを探す。散らかっている割にはすぐに漁っている手は止まった。よほど特徴的な物なのだろう。

再び食卓テーブルに座っている自分のもとへと戻ってくる。そしてレイジさんの片手に持っているものは物騒なものであって冗談ではないかと思った。




「これってレイジさん?」


「剣だよ」


「何の冗談っすか?」


「冗談じゃねーよ、この前報酬で貰って余ったからやるよ」




鞘に入った剣を無理矢理自分の腹部に押し付けるように手渡される。




「それじゃあ今から紹介したい場所あるから着いてこいよ」


「紹介したい場所?」




剣を渡されて不安の募る今、紹介したい場所というのは嫌な予感がした。

しかし一人無力な自分はレイジさんの後ろ姿を歩くしかないのだ。


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