4話 異世界生活1週間目
異世界生活1週間目、18歳だというのに浮浪者のような生活を送っていた。比較的涼しい気候のため汗などはかかずに済んだものの夜寝るときは肌寒い。
でも、そろそろお風呂かせめてシャワーを浴びたい。
この街に辿り着いた後、1日目は行く当てもない自分は、人通りの少なそうな路地裏で寝る事になる。
2日目の朝、空腹のあまりに目を覚ます。
歩いていると街の中を流れる川を見つけた。小さい小魚らしきものが群れになって泳いでいるのを見つけた。
ゴクリ。唾を飲み込む。
ズボンをまくり、靴と靴下を脱いで川にゆっくりと入る。この前の大雨のせいで濁流となっていた川とは違って透き通るような川の水の流れはくすぐるように気持ちがいい。
昔、小学生時代に川で魚を取った時の事を思い出す。
片手で魚をゆっくりと浅瀬の方に追い込み、一方の手で捕まえようとする。しかし、そんな簡単には掴まってくれない。
大抵手を近づけた段階で逃げられたり掴んだと思ったら手を握り切る前にスルリと抜けるようにして逃げられたりと散々であった。
そんなことを何時間もやっているとまぶしかった朝焼けもいつの間にかなんとも思わないほどに日は昇っている。次第に人が行き交う声や音を聞いて恥ずかしくなり、何の手柄も無く川をあがる。
腹が減って何もしたくなかったが、このまま体力が完全に無くなる前になんとか生きる術がないかと街を散策することにした。しばらく歩いてみると街の中央に王家らしいものが存在していた。
でかい城の門の前に鎧を身にまとった兵士が4人ほど警備に回っていた。
とてもじゃないが中を見せてもらえるようでは無さそうなので素通りする。しかし、なんだか兵士1人にやはりこの世界じゃ珍しい服装のせいで不審そうに見られていた気がする。
それから歩き続けても商店街を除いてはほとんど住宅地のようで無駄骨に終わった。空腹は更にひどくなり街に設置されているベンチに腰を掛けて休むことにした。
何か良い事でもないだろうか。そんな風に目の前の道を行き交う人々を見ても何か見つけれるわけでもなくどころか、自分に対して嫌悪の目でこちらを見てくる。
最初は痛々しいほど心に突き刺さるが、しばらくしてそれすら何とも思わなくなった。
後ろからドアの開く音とベルのような高い音がするのが聞こえた。ドアに音を鳴らして出入りは知らせるようにしているということは何かのお店を開いているのかもしれない。
しかし空腹で振り向く気にもなれない。
「おい、あんた」
近くで人が呼ばれている声がする。しかし自分の事ではないだろうと動じない。
「ベンチに座っているあんたのことだよ!こっち向け」
気のせいかと思っていたが、自分の事であったらしい。
怒り気味の張った声がする方へ余力を振り絞って首を曲げ声の先を見ると、口ひげを生やして頭にスカーフを巻き、エプロンのようなものをしてきたムキムキのおっさんが立っていた。
「えっと…なんでしょうか?」
俺は恐る恐る聞いた。
「なんでしょうかじゃないよ!お前がここに座ってるから皆避けるようにして通って客がこないじゃないか!これやるからどっか行ってくれ!」
おっさんはバスケット一杯にパンらしきものを8個近く詰め込んでこちらに差し出してきた。中にはソーセージのようなものをくるんで焼いてある総菜パンみたいなものも入っていて凄く美味しそうに見える。
「いいんですか、これ貰って」
「やるから、出てってくれ。どうせ一日経って売れないパンだ」
一日経ったとはいえ別に何ともなさそうに美味しそうな少し茶色い色目のパンらしきものは空腹の自分にとって贅沢に思えるほどのものだった。
「ありがとうございます!」
差し出されたバスケットを奪い取るように受け取り、決して離さないようにと強く握りしめて立ち上がる。
おっさんに一礼を下げてその場をあとにする。後ろからもう二度と来るなよと叫ばれたがもう食べ物にしか眼中になく、そんな辛辣な言葉でさえ何とも思わなかった。
歩きながら、バスケットに詰め込められたパンらしきものを一個ずつ手に持って食べていく。やはりしっとりとした生地に微かな香ばしさといいこれはパンだ。間違いない。
食べていると少しずつ空腹が満たされていく。生き返ると言っても過言ではないだろう。
元気を取り戻していくと、食べるスピードもどんどん速くなっていきたくさん入っていたバスケットはすぐ空になった。
空腹はだいぶ満たされたのだが、今度は心が空っぽになるように涙となって瞳から流れ落ちていく。
なんで、俺がこんな目に会わなきゃいけないんだ・・・
なんで、初対面のおっさんに二度と来るなとか罵倒されなきゃいけないんだ・・・
普通、こんな奇想天外な事が起きるならアニメや漫画みたく何か可愛い女の子との出会いぐらいあってもいいだろ・・・
こんなことなら異世界なんかに辿り着かず、そのまま天国に案内してくれれば良かったのに。
そんな悲しんでも時間は進むし、腹は減る。死にたいと思っても空腹を満たしたい、生きたいとどこかで願ってしまう。
朝いた川の場所に戻ると、もう空は闇が覆っていた。街の人間が寝静まるのを待つ。再び川に魚を捕まえようと試みる。
さっきとは違い、バスケットを利用してまず沈ませて魚がバスケットの上に来た時を見計らって水ごと掬い上げる。失敗することの方が多かったが何とか数匹確保することが出来た。
近くに落ちていた木の棒を拾い洗って魚に突き刺す。そして街に生えている大きな木の枝を街の街灯として使われているランプの火を頂戴しそれを火源として魚を焼いて食べる。
魚に毒はないかなど心配ではなかった。死んだら死んだで今度こそ天国に行くつもりで食べていた。
もちろん日中は人目が気になるので食事をとるのは皆が寝静まった夜を見計らう。
そんな日々を1週間近く繰り返していた。
そしてこんな生活で今に至る。
日中はここ最近、街の散策というよりも散歩を習慣にしている。だいぶこの街並みに慣れて来た。
「おーい、君」
後ろから何やら誰かが人を呼んでいる声がする。知り合いがいるわけでもない自分には関係の無い話だ。
どんな人間が呼んでいるか気にもせず足を止めることなく散歩コースを歩き続ける。それでも後ろから呼ぶ声は止まず、近づいているのか声も大きく聞こえる。
「君だってば、君」
自分の肩を思い切り掴まれビクりとしてしまう。パン屋のおっさんに怒鳴られて以来の人との接触に心臓の鼓動が早くなる。
ゆっくりと振り向くと自分と同じぐらいの年齢の青年であった。身長はあちらが少し大きいぐらいだろうか。普通の民衆とほぼ同じような格好をしているが腰に剣を携えていた。
「君、地球からきたんだろ?」