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作者: 夏目藍

旅をする話が書きたくなったので書きました。


「僕の帰る場所は……」

そう思いながらずっと旅をしている。ずっとずっと物心ついた頃から。最初は『お父さん』と呼んでいた人と一緒に。しかし、いくつかの月日、数えられないほどの月日を越えた時、お父さんである彼と別れを告げた。


「ごめんな、隼人はやとお父さんはこれでお前と別れる。理由は聞かないでもわかるな?」

「はい、父さんからよく聞かされていた親離れの儀式でしょう。15歳になった時、母さんを探しにでる。そのとき僕は父さんなしで旅に出よ、とのことですよね」

「覚えていたのか。母さんへの鍵はもうたくさんお前にたくさん託したはずだ」

「はい。特徴から何からすべて、もう教えられたとおりに」

「よろしい、それではこれまでだな。頑張るのだぞ。母さんのところには父さんもいるつもりだ」

「では、また会える日までといったところでしょうか」

「そうだな。また会えるといいな」

「会えますよ。必ず」

「そうか」


 そうして父さんと別れて僕は旅に出たのだった。二度目の出発。再出発。父さんに今までやってもらっていたことの方が大きかった。改めて父の偉大さを感じさせられた。まずは山で山菜を採る。これは村や町でよく売れる。薬草ならとても高い値で買ってもらえる。薬草は自分で持っていても、人にあげても効果がある不思議な草だと思う。様々なところで役に立つ。便利道具だ。そんな薬草は、例えば今いる山。この山にも歩いている途中でたくさんの薬草を見つけた。歩いている中で乾燥させるために時々摘んでは歩き、見つけて摘みを繰り返した。おかげでかなりのものと交換してもらえそうだ。

 山を下り、村に出る。まずは情報を集める。この村には何が有名なのか、どの人が偉い人なのか……村の人に聞くまでもなく見るだけでわかる。観察をしなさい。とよく言われたものだ。噂話もたいていは聞く。


「あの家の娘が、村上家の長男に好かれているらしいのよ」

「あら、それは本当に。長男の方には許嫁がいるのよ、どうするのよ」

「それは知りませんわ。私たちが言っても何もなるわけがありませんことよ」


 井戸端会議かご近所さん会議。父さんがよく言っていた。母さんもこの会議が大好きだとも。この会議は聞いておくと、村の噂話が面白いほど聞ける。ただし適度に。ご婦人方は話が長くて、聞くに聞いていられないから適度にする。ある程度の情報を得たら大丈夫。お前はすぐに生きていける。生き延びれる。

 井戸端会議はとても長い。朝から始まり昼まで。どれだけ話しても話のネタは尽きることなく、限りなく話されていく。羨ましいものだ。僕の話題提供の能力はあまりよろしくない。それゆえにうらやましく見えてしまうのだ。


「そういえば、昔薬薬草売りの旅人と女子さんが来ましたわね。ちょうどこの時期だったかしら」

「あら、もう何年前になるかしらね」

「そうね……」

「えぇっと。ひい、ふう、みぃ、よ……」

「あれは私たちがまだ子供だったわね」

「そうね。年はだいたい15くらいだったかしら。女子さんの方は私たちと同じ背格好をしていたかしら。ではもう……35年はたっているのかしら?」

「もう、そんなにたっているのね」


 もしかしたら、その時の僕は思った。躊躇なく、その婦人方の会議に少しだけ気まぐれに混ざってみることにした。少しの手がかりも逃したくない。逃してはならない。母さんに会うため。それだけのため。父さんにもう一度会わなければ。

 

「あの、その話もう少し詳しく教えてもらえませんか?」

「あら、どうしたの坊や。迷子?」

「すみません、旅の者です」

「旅してるの?ひとりで」

「はい。それで、先程の薬草売りの旅人の話、詳しく聞かせてもらえませんか?今人探しをしているのです」

「人探し?どなたをお探しで?」

「実は母なのです。ある程度の情報はあるのですが、どうしてもどこへ行ったのか手がかりが見つからなくて……」

「それで?」

「父が薬草売りをしていたのです。その時に母と出会って旅をしたと聞いたものですから、気になってしまいまして」

「そう……お母さんに会いたいの?」

「はい、会いたいです。昔から僕の一族の男子は5歳になれば父と旅をするという掟で、僕もその旅の最中なのです」

「あのね、その方々の薬売りの方はあなたと同じことを言っていたわ、ねぇ」

「ええ、そうね。言っていたわ。そう見たら……あなた薬売りの方にそっくりね。もしかしたらお父さんだったのかも」

「……本当ですか?」

「あぁ!言われてみれば!その人たちなら確か……どこに行ったのだったかしら」

「隣村を通って海の方へと言っていたかしら」

「そうですか、ありがとうございます!あの、よければ薬草いりませんか?せめて手掛かりを掴むことができたお礼をしたいのですが……」

「あら、やっぱりお父さんの血をひいているのね。もらっておくわ、ちょうど切らしてたところなの」

「私にもくださいな。いざって時のために貯めておかないと」

「ありがとうございます。本当に、とても有力な手掛かりになりました」

「いえいえ、こちらこそ。こんなにいい薬草もらって、助かりました」


 物々交換と言うらしい。情報と薬草を交換して、好感を持たせてそうして去っていく。そうやって商売が成立する瞬間は何とも言えない達成感で満ちる。

 情報を手に入れて満足したところで、村を散策してから次の村に行こうとする。すると、今度は子供たちに囲まれてしまった。

 子供たちは旅人を見るとすぐに寄ってきて、話を聞きたがる。話をしてやるといい、冒険の話は子供は皆大好きだからな。みんな憧れを持つものだよ。これも父さんの言葉だ。父さんの言葉は本当に役に立つことばかりだ。

 

「おにいさん!おはなしきかせて?」


 女の子が僕に話しかけてきてくれた。パッと見て大体6歳くらいだろうか。周りには女の子のほかにも数人の目を輝かせた男の子たち、女の子の友達らしき別の女の子2人がいた。みんな目をキラキラと純粋な目で僕を見てくる。そんな子供たちの機嫌と期待に添う為に、僕は話しかけてきてくれた女の子に問いかけてみた。


「何の話がいいかな?」

「あのね、たたかうはなし」

「戦いの話か、そうだね。たとえばどんな動物かな?」

「わんわん!」

「そっか、わんわんね。そうだな、わんわんと戦ったときはね……」


 みんな目を輝かせて僕の話を聞いてくれる。子供たちに夢を与えている。そんなほほえましい時間が僕はとても好きになった。父さんはいつも子供たちに夢を与えていたのだと感心する。話すのも大変で、子供たちがわくわくするような話し方をしなければ心を掴むことができない。

 難しさが僕を襲っていたが、なんとか子供たちの心を掴めたようだった。話終わった後にみんな笑顔でいてくれたことがとても満足した。

 

「お兄さん、ありがとう。これであたしもわんわんこわくないよ!もうたおせるもん」

「そっかそっか、がんばってね」

「うん!」


 ばいばい。と子供たちに言われてその村を去った。初めてのひとり旅なのに、かなりうまく行っている気がする。さて、次の村ではどんなことがあるのかな。どんな人がいるのかな。心を躍らせながら、薬草を取りながら山を下り、隣の村に行く。隣の村は海に近く、磯の香りがよくするよと子供たちが親に聞いたであろう情報を話してくれた。磯の香りか……そういえば母さんは磯の香りが好きだったと聞いている。父さんは母さんのためにそこに寄ったのだろうか。

 山道を下っている道中、女の子に出会った。年齢は僕と同じくらいの。こんなところで女の子がひとりでいるのもおかしいなと思い、声をかけてみた。


「こんな山にひとりでどうしたの?」


 彼女は大変驚いたようで、しばらく腰を抜かしていた。その後、その訳をゆっくりと話してくれた。


「私は、身を追われています……。何も私には罪があるらしいのです」

「どんな?」

「盗みを働いたとか。私そんなことしていないのに……あまりにもひどすぎます」

「本当に盗んでいないということは伝えたのかな?」

「伝えました。でも、聞いてくれなくて……」

「それはひどい。どうします、これから」

「あの、よろしければ、ついて行ってもよろしいでしょうか……」

「え……困ったな。僕には女の人の扱いには慣れていないんだ。それでもいいのかい?」

「はい、すこしでも安全をとりたいです」

「わかった。じゃあ、まずはこの笠をかぶって。身なりはまあ仕方がないか。仕方ない、この状態で山を下りよう」

「はい」


 身を追われているという女の子を仲間に、僕は山を下る。道中、身の上話をしたり、聞いたりをした。家族以外の他人と行動をふたりきりでするのは初めてで、とても楽しかった。おかげで退屈することなく薬草も採ることができたし、疲れも幾分か少なかった。女の子の名前は「さくら」というらしい。さくらの花のような可憐さがある。

 そうして、僕たちは隣村である海の村についたのだった。

 海の村には港があり、魚などの海で採れる新鮮な物が多く村で見られた。そして情報収集。


「隼人さんはお母さんを探しにこの村に来たのですよね?」

「まあね。あと少しかもしれないね。母さんまで」

「本当ですか?見つかったらどうするおつもりです?」

「どうだろう。わからないな」

「ふふっ」

「笑うなよ」

「すみません」


 なんだか、よくわからない子だ。でもなぜか、心が休まるような気がする。温かいのだ。存在が温かい。こんな人に出会ったのは初めてで、よくわからない。


「隼人さん、あの人とかにはどうしょう」

「そうだな。いい感じの老人だ、聞きに行ってみるか」

「はい」


 いかにもな貫禄を持った老人に尋ねることにした。なんだか気難しそうな顔をしているのが、恐ろしいところだ。しかし、怖気ついている暇などない。母さんを探すため。勇気を出して、話かけた。


「すみません、人探しをして旅をしているものですが……お話をひとつ、ふたつよろしいでしょうか?」

「……おまえ、薬草売りか」

「はい、そうですが……」


 老人は僕の顔と、さくらの顔を交互に見ながら言った。


「昔、お前らによく似たふたりがここに来た」

「本当ですか?詳しい話を聞かせてもらってもよろしいですか?」

「ああ、なんでも聞くといい」

「そのふたりなのですが、次にどこに行くとかは聞いていますか?」

「ああ、聞いている。だがもうその村で旅は終わりにすると言っていたな。何とも、女の方にはお腹に子供がいるだとか……」

「え……」

「旅もそろそろやめてすぐに定住できる場所を探すと言っていた。女の方は不安そうにしていたが、なかなか嬉しそうでもあった……」

「そうですか。ありがとうございます」

「じゃあ、薬草をもらおうか」

「では、どの薬草を?」

「そうだな、あれがいい。傷に効くあれじゃ」

「あぁ!ありますよ……これですね。ありがとうございます。たすかりました」


 なんだかすぐに見つかってしまった気がする。本当に最短。


「隼人さん、これで次の目的地が決まりましたね」

「そうだな。なんか最短の道を通りすぎている気がするよ」

「ですね」


 次の村へはかなりの時間を要した。日数にして3日。野宿をして、たくさんの話をさくらとしていった。その間、僕の心はだんだんとさくらに惹かれていくようになっていた。

 なんだか、とても温かくて、最初は自分でもよくわからずに嬉しいのだと思っていた。しかし、2日経ってみてようやく『そういえば……』と思い出した。父さんが言っていたのだ、恋は温かくて不思議なものだぞと。なんとなく不思議な物だということを理解した。温かいという感情も理解できた。愛おしいのだ。こんなにも愛おしい。俗に聞く『一目ぼれ』というやつだろう。

 情けない。なんか情けない。

 そう思いながら、3日目の朝だった。朝食を取っていると、さくらが言ってきたのだ。

 

「隼人さん……」

「なんだ」

「あの、本当に申し訳がないと思っているのですが……」

「どうした」

「私、たぶん一目ぼれしました」

「へぇ……って、え!?」

 

  なんということでしょう。どういうことでしょう。

 

「あの、話がよく掴めないのですが……」

「さくらは、隼人さんのことが好きなのです」

「本心で」

「はい」

「出会ってまだそんなに経ってないけど」

「はい」

「ひとめぼれ」

「一目ぼれしました」

「ごめん、僕も」

「はい!……え!?」

「僕も……さくらのことが好きみたいだ。よくわからないけれど」

「相思相愛でしたか……お互いに一目ぼれ、運命感じちゃいます?」

「感じちゃったね」


 そんな感じで僕の旅にはかわいい恋人が最終的についた。

 別に珍しい話ではない。父さんと母さんも同じように出会ったらしい。出会いは偶然だったとも言っていたし、またこれも一目ぼれだったようだ。子供は親に似るのだと改めて思う。親にして子あり。あっちゃった。

 そんなこんなで、目的地に着いた。旅も終わりに近い気がした。

 村の人たちから話を聞こうとする。すると、ある女の人が話しかけてきた。


「あら、あなたもしかして……はるさんの息子さん?」


 はるさんとはおそらく僕の母の名前に違いない。


「あの、隼人というのですが……」

「やっぱり!はるさんの息子さんだわ!かえってきたのね。じゃあ、案内するわ」


 案外すんなりと案内されてしまった。


「よかったね。こんなにも早く辿り着けて」

「ああ、さくらも紹介できるしな……」

「あ、もう……」


 頬を嬉しそうに赤らめる僕の恋人。

 母に会えること。

 父にも会えること。

 そのすべてが僕の心を躍らせている。


 とある家の前までついていった。そうして『すこし待っていてね』と言われ、待っていると家から声がしてきた。


「はるさん、あなたの息子さんが帰ってきましたよ」

「本当ですか?」

「ええ、ほら、入ってきなさい」


 いいのかな。入って行っても。


「ほら、行こう。待ってる」

「そうだね。行こうか」


 少しドキドキしながら、家に入る。


「母さん……」

「隼人……隼人なの?おかえりなさい」

「母さん!!ただいま」

「あなた!!隼人が帰ってきたのよ!」

「隼人、案外早かったな」

「父さん……ただいま」

「おかえり」


 母の存在を感じた瞬間だった。


「あら、後ろのかわいらしい娘さんは?」

「紹介するよ、僕の恋人さくらだ」

「さくらと申します。隼人さんにはたくさん助けていただきまして、本当に助かりました」

「かわいらしい娘さん……隼人にぴったりね」

「ああ、隼人。さくらちゃんを幸せにするんだぞ」

「はい……」


 それから数年して、僕にも子供ができて。掟のように旅に出ようとしていた。だけれども、さくらと相談して結局行かないという決断に至った。

 僕は薬草売りを続けている。毎日採ってきては家に帰る。

 そして彼女の声で


「おかえりなさい」


と聞く。最近は子供のおかえりなさいも聞こえる。それがたまらなく嬉しくて、幸せで満ちているのであった。


どうでしたでしょうか。オリジナルの作品を作るのは初めてでまったくわからないことばかりでしたが、閲覧ありがとうございました。よろしければご指摘、感想をお書きください。参考にさせていただきます。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 隼人が親を心から信頼していたことが伝わってきました。親のやったことを守れば大丈夫、必ず親元までたどり着けるという信頼があったからこそ、隼人は自分の行動に自信を持つことができたのだろうと感じ…
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