副隊長の未来予知
「ちょ、ちょっとどういうことですか副隊長!」
よくぞ言ってくれた。
隊員たちの心には感謝が溢れた。
「どういうことって…そのまんまっす。私達の任務として、大陸の統一を図るっす。」
回答になっていない...。そもそも、なぜ怒られに行ったはずのサリナからこのような発言が出るのか。
「あー、もう質問はないっぽいっすね?んじゃ私ちょっと国王の所に伝えてくるっす。」
しかしサリナは、そう行ってスタスタと出て行ってしまった。質問が無いのではない。突然すぎる展開に判断ができないだけなのだ。
「た、隊長!事態はよく飲み込めないですけど、なんとなくマズイ気がします!副隊長を止めて下さい!」
本能的危機を感じた隊員たちはなんとかサリナを止めようと、唯一止めることができるハーレーに願った。しかし...
「だめよ....だめなの....私じゃ、もう...。」
何故か分からないが心が折れているハーレー。焦点の合わない目からはハーレーの心に巣食う闇が伝わってくる。
「諦めないで…!隊長!あなたなら、あなたならできます!」
その心の闇に光が差し込む。
「わ、私は…。」
「隊長ならできます!まだ終わってない!隊長は負けてないです!」
仲間を救うのはいつだって仲間。ハーレーの目にだんだんと光が戻ってくる。
「私なら、できる…。」
「隊長がんばれ!」「あなたは強い!」「隊長ならできる!」
立て……!立つんだハーレー!!
「そう、よ…!私なら、できる!」
「立ち上がって下さい!あなたならまだ走れる!」
纏っていた暗いオーラもだんだんと、明るい物に変わっていく。目に光るのは強い意思の光。今ここにハーレー・グレイシアは完全に復活した。
「皆!心配かけてごめん。」
「本当ですよぉ……ヒック……。」
ハーレーの復活に涙を流して喜ぶ隊員達。
「私が、サリナを止めて見せる。」
そう言いハーレーは風のように訓練所を出て行く。
「隊長……後は任せました……ッ!」
最後の力を振り絞ったのか倒れる隊員達。しかし、その顔には満足気な笑みが浮かんでいた。
がんばれハーレー。隊の未来は君にかかっている。
自分の荒い息遣いが聞こえる。胸は張り裂けそうなくらいに苦しく、心臓の鼓動が耳に痛い。しかし、立ち止まることはない。
立ち止まれるはずが無いのだ。隊員隊の残した思いを胸に秘めたハーレーには諦めるという選択肢が存在しなかった。
この時、ハーレーには苦しさと同時に感謝と喜びが感じられた。隊員達が、命をかけて(かけてないです。)繋いでくれた思い。それを託されたという嬉しさ。そして私のために死力を振り絞り(絞ってないです。)激励してくれたことの感謝。
必ず……!必ずあの子を止める!止めて見せる!!
昼下がりの大通りに一筋の風が駆け抜けた。
「あれは…騎士団副司令、パルマさん!彼女か総司令の許可なくては国王様への謁見はできないはず!」
サリナを止めるべく城への全力疾走を行っていたハーレーは騎士団副司令、パルマ・ユーディキウムを見つけた。
パルマ・ユーディキウム。騎士団副司令であり、総司令から厚い信頼を置かれている。その活躍により国王から「審判」の名を授けられる。
「パルマさん!」
「あぁ、ハーレーか。そんなに急いでどうした。」
いつもは落ち着いた性格のしているハーレーの、こんな姿を見ることは非常に少なく、彼女の心配性な性格が、何かあったのではないかと疑問に思わせた。
「何かあったのか?」
「えっと、サリナがパルマさんを訪ねませんでしたか?」
その時、パルマの中でカチリとピースが嵌った。なんだ、ハーレーも負けず嫌いな所があるのだな。サリナよりも早く報告したかったのだろう。
「あぁ、そのことか。サリナは少し前に来たぞ。」
「やっぱり!それじゃサリナは何か言っていませんでした?」
「ふふっ、残念ながら先をこされてしまったようだな。まぁ君の耳も相当に早い。あまり落ち込む必要はないぞ。」
「えぇと…?」
「あぁ、そう、会議は二日後だ。では私は所用があるのでな。」
立ち去るパルマを呆然と見送るハーレー。現状の理解が難しすぎて、どうしたらいいのか分からないようだ。
時は少し遡り、ハーレーが激励を受けている時。
「パールーマさん!」
「サリナか。随分と嬉しそうだな、何かあったのか?」
「いやー、ちょっといいこと思いついちゃって。」
「なんだ?そのいいこととは。出来れば教えて欲しいのだが。」
サリナとパルマは既に出会っていた。
こいつがこんなに笑顔なのは久しぶりだな。ふふっ、仲間が笑顔だと私も嬉しいものだ。
聖母のような優しさ。問題児に対しても純粋な気持ちを持ち続けることは、彼女の美しい性格を証明している。
「びっくりしないでくださいっすよ。なんと!大陸統一をすることにしたっす!」
「っ!?何故君がそのことを知っている?」
「あれ?」
想像とは違った反応にサリナは戸惑った。しかしもっと戸惑っているのはパルマの方である。
何故サリナが会議の内容を知っている?国王様と総司令、そして私と第一、第二、第三隊隊長の六人のみが、大陸統一の会議に参加したはず。そして隊員達への発表は二日後の予定だった。
「全く、君は一体どこから情報を仕入れてくるんだ?あぁ、言わなくていい。自分の手札を見せる必要はないよ。」
「…そうっすか?とにかく国王様にこのことで謁見したいんすけど。」
「いや、大丈夫だ。会議には国王様も参加したからね。二日後の会議を楽しみにしていてくれ。」
ふふっ、全くサリナはすごいな。どうにかして情報を手に入れたのだろう。そして、そのことを私に褒めて欲しかったのだろうか。可愛いやつだ。
パルマ・ユーディキウム。底抜けの優しさと少しの心配性。そして相手への思いやりによりあまり多くを語らないため、なんというか、残念な感じになってしまっている。
「そうなんすか……?まぁいいんすかね?んじゃ私はもう行くっすね。隊長が来るといけないんで。パルマさんさよならっす。」
敬語を使え敬語を。そのまま走り去ってしまったサリナ。
「ハーレーが?どういうことだ?」
疑問に思いながらも次の仕事のために移動を続けるパルマ。この少し後、完全復活したハーレーと出会うことになる。