副隊長は眠い。
更新速度はどうなるかわかりませんが、できるだけ頑張りたいと思います。宜しくお願いします。
白塗りの壁に咲き乱れる花々。細やかな装飾に巨大な噴水。その奥に見える白塗りの豪宅は見るものを圧倒させる力強さを持つ。
一見すれば貴族、それも大国の上級の者が持つようなものである。
しかし、ここに住むものは、そんな穏やかで気品のある暮らしをしているわけではない。この敷地の所有者は、リリガルド王国騎士団第四番隊副隊長サリナ・レガロその人である。
「あーあー暇っすねぇー!」
起床、家の主人が起きたようだ。しかし寝起きの第一声がこれとはどうなのだろうか。まだ一日が始まったばかりであるのだが。
「今日も退屈な退屈なお仕事があるんすねぇ。今日は確か八時に第四訓練所に集合だったはずっす。今は…?九時だ。」
全然暇ではない。しかし人には間違いがあるもの。誠心誠意心を込めて謝れば大抵のことは許される。
「もういいっす。寝るっす。隊長!聞こえてないと思うっすけどおやすみー!」
誠心誠意心を込めれば、だが。あろうことに二度寝。草葉の陰で先祖も頬を濡らしているだろう。
「すぴー。」
そして寝つきはいい。見よあの満足げな顔を。罪悪感を一ミリたりとも感じていないに違いない。
所変わって第四訓練所。本来ならば騎士達の熱気が、剣戟の音ともにやってくるのだが今日はどうしたのものか、無音であり冷気を感じさせている。
この地獄を作り出しているのは、第四番隊隊長、ハーレー・グレイシア。性格は厳しいが仲間思いであり、本来であればこのようにとある空間を別世界へ作り変えるほどの怒りを滲ませることはない。
しかしサリナのことになると別である。嫌いなわけではない。寧ろ好きであると言っていい。だからこそサリナには副隊長としての責任を持って欲しいのだ。
とはいっても、ここで一番被害を受けているのは真面目に、時間通りに集合した騎士達である。
副隊長が来ないせいで訓練が始まらず、そうこうしているうちに悪魔が降臨してしまった。そう、彼らは何も悪くない。だが、善し悪しに関係なく彼らに試練は訪れるのだ。
誰か助けて…
騎士全員の心の声が一致した時だった。その時訓練所の扉が勢いよく開かれた。救世主が現れたのだ。
奇跡、そうまさに奇跡が起きたに違いない。騎士達は救世主の顔を拝もうと振り返ろうとした。しかし…振り返ることができなかった。なぜなら、目の前に立つ隊長から先程の比でない冷気がこぼれていたから。
蛇に睨まれた蛙。隊長の顔を見た時にその言葉が浮かんだ。そして同時に悟った。憤怒などでは言い切れない表情を、その端整な顔立ちに貼り付けた隊長を見て、救世主が誰で有ったかを。
いや、救世主などではない。災厄が呼び込まれてしまったのだ。
「サリナ・レガロただいま到着したっす!」
…帰りたい…。
「サァリィィナァァァアアア!」
ひっ!
あまりの怒気に息を飲む騎士達。
さ、寒い…。隊長魔力こぼれてます…。
口に出すことは叶わないが、この状況において騎士達はほんの小さなアイコンタクトで思いを伝え合うことに成功していた。まさにテレパシー。極限が生んだ奇跡の団結。
「サリナ!今何時だと思ってんの!?」
吠えるハーレー。迎え撃つはサリナ。
「いやー時計忘れちゃって。何時っすか?」
なぜこうも煽るのか。それとも本心なのか。どちらにしろバカであることに間違いはない。
「じ、状況を理解していないみたいね…。少しきなさいサリナ。」
「えー、まじすか。」
さっさと行け。
隊長が副隊長をしょっぴいて別室に向かった時、騎士達はようやく長い息を吐いた。
「今日は厄日だ。」
「なぜだかこれだけでは済まない気がするのだけど。」
「ちょっと、やめてよ。当たったらどうすんの。」
暫くして二人が部屋から出てきた。しかし様子がおかしい。隊長の目から光が失われ口に薄く笑を浮かべている。それにひきかえ副隊長の顔はツヤツヤとし、満面の笑みである。
「いやー、皆に重大発表があるっす。」
やめて。それ以上言わないで。
一心不乱に祈り続ける騎士達。果たしてその祈りは届かない。神などいなかったのだ。
「私たちで大陸を統一することにしたっす。」
ほら、当たった。