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夢幻の世界の中で  作者: 高遠ハット
序章 ───旅立ちの祝福を
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第7話 練習

遅れました。

バグってストックが全部消えました。

しかも風邪引くという

ホントに申し訳ありませんでした

 

 村の東門にはたくさんの人々が集まっている。

 彼らの中心は村の救世主である奏斗だ。


「すみません、何から何まで準備してもらって」

「食糧と武器程度なら問題ない。魔袋もちょうど余っておったしの」

「魔袋…ですっけ?刻印魔法でもしてあるんですか?袋の容量の五倍も入るなんて…」

「そのとおりじゃ。滅多に壊れんぞ」


 魔袋とは、拡大刻印魔法が施された特殊な袋のことだ。ものすごく簡単なので誰でも造れる(文字を刻むだけ)がその分性能がピンからキリまである。

 奏斗が貰った容量が五倍に拡大される魔袋は最高級品の部類に入る。


「元気でね…ま、カナトなら大丈夫だと思うけどね。バカみたいに強いし」

「…し、心配してると受け取っていいよな…?リサに逢いたくなったらいつでも戻ってくるからさ」


 瞬時に場の空気が変わった。数少ない村の青年たちが殺気を放ったために凍りつき、一方で村の女性たちは生暖かい目で奏斗とリサを見ている。


 リサといえば、顔を真っ赤にして俯いている。


 半ばカオスと化している状況に、奏斗は軽く後悔していた。

(冗談のつもりだったが…ここまでなるとは。かくなる上は…)

 気まずい空気を切り抜ける術、それは……

(強行突破!話題の中身をいきなり変えてやる!!)


「そういうことで、そろそろ行きますかね?」

「おお…達者での」

「え?何その異次元の切り返し?!」


 なんとか成功。グヌがついてきてくれたのは奏斗にとって嬉しい誤算だった。

(このまま夢見る純情乙女を突き放す!)


「ここから東に4カミノほど行けば森になる。森の際をあの山脈が見える方向───南に5日ほど行けば国境を越えるはずじゃ。昔聞いた話じゃがの…

 それと冒険者登録をしておくと良い。いろいろと役立つからの」

「最後までありがとうございます。本当にいろいろとお世話になりました!」


 奏斗は村が見えなくなるまで手を振り続けた。

(カミノってなんだ?距離の単位か?)

 そんなことを思いながら。



 ●



 (不思議な人………)


 リサにとってそれがここ一日の奏斗の印象だった。


 ワヌーを素手と見たこともない武器で倒したかと思えば毒をくらってぶっ倒れたり。

 村を襲った兵士たちを無傷で全滅させたり。

 しきりに自分の三つ編みを見つめてきたり。

 湯治場で鼻血をボタボタ流したり。


 “外の世界”から来たといえども不思議でしょうがない人だった、とリサは思う。


 生憎、こちらの事情で出ていってもらったが、

(また逢えないかな)

 思わず望みの薄い期待をしてしまうリサであった。



 ●



(いい人たちだったなぁ~命救ってくれたし)

 それが奏斗のここ一日の感想だった。


 オルフェリアに来て、右も左も分からない中で初めて出会ったのが、お人好しとも言える彼らだったことは幸運としか言いようがない。

 ……『人殺し』というある意味貴重・・な体験をしてもいるのだが。

 そんな野暮なことを気にする奏斗ではない。


 しばらく歩くと森が見えてきた。

 腕時計を確認すると村を出て30分ほど経っている。

(30分歩いたから……大体2㎞ぐらいか?これで4カミノだから………1カミノは500メートルってとこか…)


 奏斗は古びた街道の側で休憩することにした。

 この街道を通って、今朝の兵士たちは村に攻め込んできたのだろう。


 休憩する、と言っても別に疲れたわけではない。

 夜が更けるまで──夜襲ができるようになるまで魔法の練習をするためだ。


「最初は…《カナル》からやってみっか」


 硬化魔法カナル

 奏斗はこの魔法を皮膚を硬化させる、と予想していたのだが………


「《カナル》!」


 早速近くにある木を殴ってみる。

 魔法により硬化された拳は易々とセルロースを破壊して幹に拳の痕を残した。


「………ん?」


 効果は申し分ない。奏斗の拳には何のダメージも無かった。

 そこは良い。

 しかし、

(木に触れてない……?)

 奇妙な違和感が確かに存在していた。

 殴ったのに触れていない、幹と拳の間にナニカがあるような、そんな違和感。


 ならば、と彼はそのまま木の幹を触ってみる。

 すると、


「へぇ……」


 奏斗の手は幹に触れることなく静止した。

 いくら力を加えても、それ以上彼の手は幹との距離を狭めることはない。


「単なる“硬化”じゃないな。結界って言った方が正しいか……」


 奏斗の言う通り、《カナル》は皮膚を硬化させる程度の魔法ではない。

 指定した物質を硬い結界で覆う。

 それがこの魔法の本質である。


 実際にこの本質が解っている者など一握りしかいないことは奏斗の知る由ではない。


「なんでこんなひねくれた魔法を創るのかねぇ…活用法が多そうで助かるといえばそうなんだが」


 歴史に名を残す魔法使いが、一生かけて知り得た《カナル》の真理を、わずか数10分で理解した奏斗は、次に《ストロン》を試すことにした。


「《ストロン》」


 唱えた彼の身体は、身体強化の名そのままの効果があった。

 つまり、運動器官が強化されたり、視覚や聴覚などの五感───感覚器官の機能が向上したのだ。


 試しに走れば世界記録を余裕で更新できそうな走りができたり、目を凝らせば地平線の彼方まで見えたり。


 少々効果が過剰な気がするが、もともとの身体能力が高かったのだ、と思えば腑に落ちた奏斗は《ヴァイセ》の実験を始めた。


「《ヴァイセ》」


 グヌに見せてもらったように、文字が羅列された円が浮かび上がる。


「あれ?全部同じ字だ」


 文字が羅列されているといえども、俗に言う魔法陣のようなものではなく、同じ文字──ルーン文字がただただ円の中に並んでいるだけなのだ。


 そんな小さな発見をした奏斗は、円を地面に移動させ、


「石弾くなら、人だって弾くだろうよ!!」


 威勢の良い声と共に、円に力の限りジャンプ。

 そして円から反発力が奏斗の身体に上方向の力が伝わり──奏斗の身体は十メートルほどの虚空に跳ばされた。


「と、跳びすぎた!」


 このままでは地面にダイレクトに叩きつけられる。流石に死にはしないだろうが、重傷を負うことは避けられないハズだ。


「あーヤバい!こりゃ相当痛いぜ奏斗さんよ。どうすっかな…あ!《カナル》!」


 人間、窮地に陥ると口調が変わるものである。


 すんでのところで奏斗は《カナル》を発動。《カナル》の結界は激突の衝撃から奏斗の身を守った。


 しばらく地面に突っ伏していた奏斗は突然ムクッと起き上がると、懲りずに再び《ヴァイセ》を発動させた。

 先程と違い、彼の足裏に円が展開されるように設定してある。


「実験、開始ィ!!」


 これから実験を行うのなら、さっきのは何だったんだというツッコミはさておき、奏斗は《ヴァイセ》を発動させたまま走り出す。


 一歩踏み出すと地面に足が着いたと同時に《ヴァイセ》が発動。

 彼の脚力が円に吸い込まれ、反発力として変換されて彼の身体に還っていく。

 反発力は次なる力の向き──前方に作用。

 前へと進む推進力と化した反発力は彼の身体を加速させる。


 一歩一歩踏み出せば加速が増していく。

(速く…)

 また一歩。

(速く……!)

 さらにもう一歩。

(速く!!)



 人類が生身の身体で到達したことのない速さの域に達した時、奏斗はある重要な問題点に気がついた。


「どうやって止まるんだコレェェェェェ??!!!!」


 奏斗の悲痛な叫びが辺りの空気を震わした───



 数十分後、奏斗は魔法の強弱がコントロールできることを知り、なんとか暴走を止めることに成功。

 魔法使いが見れば、いや誰でも見ればツッコミたくなるだろうが、仕方がない。彼は今、初めて魔法を使ったのだから。

 長距離を初めて走ったランナーがペース配分を間違うのに似ている。


「速すぎるのも…はぁ…考え物だな……はぁ」


 奏斗は息も絶え絶えに反省しながら、絶対魔法で調子乗ったらダメだ、という教訓を心に刻んだ。


 ……この数分後に《ヴァイセ》で宙を移動できることを発見し、調子に乗って30メートルの高さから落っこちることになるのだが。



 こうして彼は娯楽用として目を向けられてきた《ヴァイセ》を燃費の良い(生活魔法は総じて使う魔力が少ない)高速移動術に変えてしまった。


 魔法の柔軟性に驚く奏斗であったが、最も重要なのは常識を打ち破り、まっさらな頭で考えること、ということには気づかい彼だった。

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