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夢幻の世界の中で  作者: 高遠ハット
序章 ───旅立ちの祝福を
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第12話 後始末

サブタイトル、つけてみました。


 

 ティナはただひたすら祈っていた。


 茂みの隙間からチラッと奏斗の様子を見ていたが、すぐに見るのを止めてしまった。

 怖かったのだ。

 あの村の呪縛から助けてくれて、自由を保障してくれた自分の義兄あにが、誰も勝ったことのない化け物と死闘を繰り広げている様はティナには耐えきれるモノではない。


 絶対に勝つ。


 そう信じている心とは別に、あの化け物の腕に貫かれて死ぬんじゃないのか、という不安が頭をもたげてくる。


 たとえ、見ていなくとも戦闘の様子は地面の振動となってティナに伝えられる。まるで、祈るティナの心を壊さんとするがごとく。

(大丈夫だよね?お兄ちゃん…)


 しかし、その振動は長くは続かなかった。

 ダンッ!、と一際大きな揺れを最後にソレは収まる。

 一拍おいて聞こえてきたのは、連続した破裂音。そしてあの化け物のものと思われる悲痛な断末魔。



 断末魔が消えても、破裂音は途絶えない。恨みでもあるのかと勘違いするほどその音は烈しかった。


 その破裂音も消えると、辺りを何も無かったかのように静寂が包み込む。

 静かになった戦場をティナは茂みの隙間から再び、今度はビクビクと怯えながら覗き込んだ。


「………!」


 その情景にティナは言葉を失った。

 地面に伏しているのは、腹を貫かれ胸辺りの原型を留めていないあの化け物。

 反対に立っているのは、上半身が返り血で真っ赤に染まった奏斗。

 どちらが勝ったなど一目瞭然であった。

 もちろん、そんなことはティナでもわかる。実際彼女はその姿を見て歓喜の声を上げそうになった。

 けれども、ティナは見てしまったのだ。


 奏斗が笑っているのを。


 その口は吊り上げられ、心の底から彼は愉しそうに、嬉しそうに獰猛に笑っている。

 それは、本で読んだ狂戦士種バーサーカーの特徴と一致していた。彼らは闘いを楽しむのだ。いかなる局面だろうがお構いなしに、純粋に。


(お兄ちゃんが…、狂戦士種バーサーカー?…ううん。違う、見間違いだよね。それに…)

 ティナは信じている。

 仮に奏斗が戦闘を楽しむ異常人格者だとしても、自分を救ってくれた奏斗もいるのだと。

 少なくとも、優しさは持ち合わせていると。


 だから、彼女は奏斗へと歩を進める。

 奏斗の生還を喜ぶために。



 ●




「あー!死ぬかと思った!」


 死と隣り合わせの戦闘から解放され、身体からどっと力が抜ける。大の字になって寝転がりたいところだが…、生憎彼の足下はリュプスレーロの血だまりである。


 とりあえず《ネーテ》で血を払ってきれいにすると、タバコに火をつけながら奏斗は目の前に転がっているリュプスレーロの死体に目を向けた。

(とんでもないヤツだった…。魔法なしだったら瞬殺だったろうな。…銃撃が効かないとはね)


「お兄ちゃん!大丈夫でした?!」


 心配するようにティナが近寄ってくるが、奏斗はそれに気付かない。

(斬撃を止める筋肉とかどんなだよ!結構剣には自信あったのに…。見事に打ち砕かれましたよ、ええ)


「お兄ちゃん?お兄ちゃんってば~?」


 反応がない奏斗の服の袖をクイクイっと引っ張るが、やはり奏斗は気付かない。

(攻撃が突きだけで助かった。あれのおかげで動きが読めたし…。けどあのしぶとさは異常だよな。腹貫いても普通に生きてるとかないわ、マジないわぁ~)


「お兄ちゃんッ!」


 しびれを切らしたティナが奏斗に正拳突きを放つ。

 普段の奏斗なら幼いティナの拳などどうという事は無いのだが、今は戦闘後で彼は疲れきっていた。さらに、身長差のためかティナの拳は奏斗の鳩尾へダイレクト。


「ヘブァッ!」


 なんとも間の抜けた声を上げた彼はようやくティナがすぐ側にいた事に気付いた。


「お兄ちゃん?!大丈夫なんですよね?」

「心配かけてゴメンね。見ての通り俺は無事だ」

「どこが見ての通り、ですか!わたしが殴っただけであんな声あげるなんて明らかにおかしいに決まってます!」

「あ…、ゴメン」

「わ、分かってくれたら良いんです…。と、ともかく剥ぎ取ってみましょうよ!誰も倒したことがないなら、高値で売れるに違いありません!!」


 そう言ってリュプスレーロの死体に近づいていくティナを見て、奏斗は思う。


 たくましいなぁ、と。


 あれほど怒ったのは、奏斗の身を案じてのことだろう。そこまで心配させたティナに申し訳なく思っていた。

(そこまではいいんだ。けど、そのあと「高値で売れますよ!」て!!どんだけ切り替え早いんだよ…)

 再び自分の世界に入りそうになる奏斗をティナの声が現実に引き戻す。


「お兄ちゃ~ん!コレ、なんでしょう?」

「ん~?ってなんだこれ?!」


 ティナが指差していたのはリュプスレーロの歯。それは乳白色めいた色ではなく限りなく透明で透き通っていた。


「本に書いてる通りです…。リュプスレーロほどの上位魔物は体の一部分で魔力が結晶化するとか」

「記念に牙でももってくか?」


 そうですね、と答えたティナの声を聞いた奏斗はナイフを使って慎重に牙を抜き取る。


「じゃあ、コレはティナと俺の分だな。お守りにでもするか」

「ええ~?!もったいないですよー!せっかくですから売ればいいのに。お兄ちゃんのおかげで毛皮とか血だらけて売り物にならないですよ?」

「はいはい悪ぅございました。でもいいんだよ記念だ、記念!」


 その代わり爪を頂戴した。これだけでも高く売れてくれるはずである。…といってもオルフェリアの金銭感覚が全く分からないのだが。


「さて、アレ抜けるかな?」


 試しに剣を握ってみると、ビクとも動かない。強靭な筋肉に加え、死後硬直で全身が固まっているからだ。

 二、三度引き抜こうとしたが、それはただ奏斗の体力を削っただけであった。

(こりゃーダメだ。仕方ない、諦めるか)


「待たせてゴメンね」

「いえ、大丈夫です。今日の野宿は昨日と同じ場所ですか?」

「うん、そこで良いよ。どうせコイツのおかげでこの辺りに獣なんていないだろうし、俺も疲れたし」

「やっぱり疲れてるんじゃないですか!」


 それからしばらくティナのお小言を奏斗はくらうことになる。

 なんだかんだ言ってリュプスレーロとの闘いよりティナのお小言の方がよっぽど堪える。年下の女の子から怒られるというのは想像以上にツラいものである。



「怒ったらお腹空きました」


 この言葉でティナの説教は一応の終わりを見せた。迂闊なことを口走ったら、直ぐにでも再開されそうではあるものの。


 携帯食料を織り交ぜた簡単な夕食を終えると、ティナはいつの間にか眠っていた。彼女も疲れていたのだ。

(心配かけちゃったな…)

 そんな自分を情けなく思いながら心地良さそうな寝顔を浮かべているティナの頭を撫でる。

 すると、


「ムニャ………おにぃちゃん……」


 寝言を呟きながら、奏斗の体に抱きつく。


「寝言が“おにぃちゃん”か。やれやれ…、どれほど信用されているんだ、俺は」


 重く、どこか暖かい責任感を感じながら、

(離すわけにもいかないし…、このまま寝るか)

 ティナの小さな肩をそっと抱き、満天の星空の下で奏斗は深い眠りについた。




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