第10話 似たもの同士
いつの間にかユニークが100越えてました。
100人もの方々に読んで貰えたとは…
感激です。
ティナとの出会いの後、奏斗とティナは村を出て再び南に向かって歩いていた。
ティナの左手には、奏斗が携帯食料として持ってきた、最後のカロリー○イト(メープル味)が握られている。
「お腹空いたら食べて」
と言って“保険として”渡しておいたのだが……
「ほわぁぁ!!なんですかコレ!とっても甘くて美味しいです!」
「気に入った?」
「はい!あの…、もっと食べたいです…」
(か、可愛い…)
白い頬を赤く染めながら、上目遣い(身長差の為と思われる)で見つめてきたティナに負けて、小動物にエサをやるようにどんどん与えていったはいいものの、
「まさか、全部持っていくとは…」
「ふぇ?なんかいいまし……!」
いきなりティナが自らの胸を小さな拳で叩きだす。
パッサパサ感が代名詞な栄養補助食品を大量に食べたのだ。
当然ながら、喉が詰まる。
奏斗が水を差し出すと、勢い良く水をゴキュゴキュと飲み干した。……約半日分の水を。
「ぷっはぁ!あ、危なかったです…」
「喋る時は飲み込んでから言うんだよ?それに、誰かに盗られる訳じゃないんだからゆっくり食べなきゃ」
「わ、わかりました……」
(しかしまぁ…、良く食べるねぇー)
持ってきた分、全て食べられてしまったのだ。
別に食糧にまだ余裕はあるし、明日になれば補充されるから問題は無いのだが、カロリー○イト数箱を何の滞りもなく、一気に食べたティナに少しばかり心配してしまう。
(余程腹が空いてたんだな…。身体はガリッガリだし、しっかり食べさせないと)
奏斗がそんな事考えながらタバコをくわえると、ティナが軽く首を傾げて彼に尋ねる。
「カナト様、どうして村を燃やしたんですか?」
「あー…、ティナ?“様”付けは止めてくれないか?ティナの呼びやすいようにしていいからさ」
「えーと…、じゃあ『ご主人様』!」
「……どうしてそうなる?様付け変わってないし」
「こう呼ぶと、男の人が喜ぶって本に書いてたんです。いいですよね?」
「却下だ、却下!ド・却・下だ!どんな本読んだらそうなるんだ?!はあ…、他にないの?」
「う~んと……、あ!『お兄ちゃん』はどうです?」
「もうそれでいいや………」
(『お姉ちゃん』って言われなかっただけマシか?)
こうして奏斗に二人目の義妹ができた。
(ヤバい…。仁奈に何されるか分かったもんじゃない。それに華原が見たら…悶え死にそうだな)
一人っ子なのに“妹”という存在に情熱を燃やす友人に思いを馳せながら(現実逃避とも言う)、奏斗は頭を抱え込む。
だが、満面の笑みで奏斗に、
「お兄ちゃん!」
と言ってくるティナを説得する余力はすでに残っていない。というか、面倒くさい。
「それで…お兄ちゃん?何で村を燃やしたんですか?」
「ああ…、供養のためだよ。俺の国では、亡くなった人を燃やすんだ。」
「それ、知ってます!人の魂は大地か天に還っていく、っていうのですね!」
「そういう捉え方もあるな」
奏斗の後方では、先程の村が煌々と燃え盛っていた。雑ではあるが、村人の供養にと《ボルガルド》の炎で火葬したのだ。
(この程度で成仏してくれる…訳ないか)
●
数時間程歩くとティナの体力が限界に達したため、少し森に入り人二人分は抱え込めそうな木の根元で休憩する事にした。
ちょうど日も暮れかかってきたので、今日はここで野宿するつもりである。
適度な大きさの枝を薪として組み、周りの枯れ草をかき集めてジッポーで火を付け火種とする。
フーフー、と息を吹き込むと火が激しく燃えて枝に引火し、小さな焚き火となる。
奏斗一人だけなら、夜目が効くため周囲を容易に見張れるので明かりの必要が無いのだが、野宿に慣れないティナには必要だ。案外、夜になると森という所は視界が効かないのだ。
「火つけるの上手いですね。普通は魔法を使うのに…」
「いちいち魔法使うの面倒なんだ」
そんな会話をしながら、簡単な夕食を作り上げる。
小ぶりの鍋に、水とストゥル村で貰った干し肉を入れて煮込む。調味料で味を調えたいところだが、ガルーシャ軍から拝借したものと違ってストゥル村の干し肉は旨味が凝縮されていて味が濃い。煮込むだけでもそれなりに味が出る。
充分煮込んだら、辛味がある野菜を細かく切って鍋に入れる。
オルフェリアに来て初めての料理。その味はというと…
「ティナ、どうかな?」
「美味しいです!お兄ちゃん料理できるんですね~」
「ちょっと、だよ。ちょっと。せいぜい生よりマシ、ってくらいさ」
薄味をごまかすように辛味を足したのが正解だったようだ。
「それにしても…お兄ちゃん」
「ん?」
「ここまで来る途中で見かけた、あの獣たちの死体はなんだったんでしょう?」
「あれか…。不思議だったよな」
奏斗たちが見かけた死体。それは、急所を一撃でやられ草原の至る所で積み上げられていた獣の死体の山だった。
不思議なことに、動物に喰われた形跡がなく、虫もわいていなかった。生物が近づいていなかったのだ。絶対的強者の戦利品に触れることを避けていたように奏斗には思えた。
(食事目的ではない…。あえて言えば、自らの強さを示すような感じだ)
「ともかく気をつけないとな」
「ですね!」
量がもともと少なかったためか、夕食はすぐに終わってしまう。
(食べたらやること無いな…。寝るか)
そう思ってティナを見やると、太い木の幹に寄りかかって既に眠ってしまっていた。
ティナの寝顔を見ながら奏斗は思う。
似ている、と。
誰かと言えば、幼い頃の自分自身にだ。
刃物を持つと、眼が紅くなる。
それが露見してから、奏斗が周囲から忌み嫌われ周りから孤立するのに時間はかからなかった。
ついこの間まで共に遊んでいた同級生が話をすることはおろか、視線を合わせようともしない。
子供よりも大人の方がひどかった、と彼は覚えている。
毎日のようにくる電話や手紙、知らない大人。
表に出れば、彼を罵る声が聞こえ、忌避の目を向けてくる。
同級生の親、生徒を守るはずの教師など、彼の周囲の人々すべてが奏斗を拒絶していた。
必死に弦崎家の人々は庇ってくれたものの、奏斗を不気味がる目は変わらない。
ただ一つ幸運だったのは、奏斗が幼かった事であろう。そのために、周りの騒ぎを理解する事はなく彼の心は破壊されずに済んだのだから。
あとから聞いた話では、噂を聞きつけたテレビ局や記者が真宮家に殺到し、テレビで取り上げられたり、病院関係者が研究と称して奏斗を隔離しようとしたり。
世間が騒ぎ出す前に、弦崎家は奏斗を親族のある男に預ける事を決断する。
その男が後の彼の師匠であった。
初めて会った時に言われた言葉を未だに奏斗は覚えている。
「なぁ、お前。『普通』ってなんだと思う?
世間の人間と全く同じであること?
周りから求められることをすること?
『常識』っていう、いつ、誰かが決めたかも知れないモノに従うこと?
分かるか?『普通』って言葉はおかしいんだ。それに従う人はもっとおかしいがな。
『普通』に縛られた囚人どもに負けない強さってやつを教えてやるよ、少年!」
その言葉から奏斗の人生を大きく変わったのだから。
彼を認めない世界から飛び立つ事が出来たのだから。
(この子も『普通』の犠牲者なのか?だとしたら、俺が導いてやらないと)
木々の隙間から星空を眺めながら、奏斗はそう心に誓った。
その夜、奏斗を訪れる動物はいなかった。




