第1話 召喚(※セルフサービスでお願いします)
文才皆無ですが
暖かく見守って下さい。
涼やかな風が頬を撫でてゆく。周りは見渡す限り草原である。あるのは古びた神殿ただ一つ。生き物の姿すら見えない。
そんな殺風景な景色の中、一人の少年が立っていた。
「何もないじゃ無いか。話と違うぞ……」
少年の背は170後半ぐらいか。体は細く引き締まっており、余計な肉は全くついていない。
顔立ちといえば…女顔である。目つきは鋭いものの、それなりの格好をすれば女性と間違われるかもしれない。
少年の名は真宮奏斗。
新人の「召喚者」である。
●
数時間前───
学校が終わると、奏斗は全身にまとわりつくような蒸し暑さから逃げるように涼を求めて家に飛び込んだ。
明日から夏休み。今年の夏は涼しい部屋でだらだら過ごす気だ。
…友人がいないワケではない。
無論、勉強はしない。
「あっつ………さて、クーラーつけるか」
リビングにいくと、
「こんにちは。お邪魔してるよ」
見知らぬ女性がくつろいでいた。
彼はクーラーをつけると、食器棚に隠しているベレッタを取り出し彼女の頭に突きつける。
「あんた、誰?」
「か、過激だな!普通初対面の人にするかぁ?!」
「安心しろ。死体の処理はできるからさ」
「んなこと心配してねぇわ!!」
全力で突っ込まれてしまったが、構わず引き金に力を込める。
「ちょ、ちょっと待ってくれ!真宮奏斗クン!私は君に話があるんだ!」
「なんで俺の名前を知っている?」
「私のことが分からないのか?」
「生憎だが、姉妹はいないんだ。弦崎にはいるけど」
「弦崎家を知っているなら私もわかるだろう?千明という名に覚えはないか?」
弦崎家とは日頃お世話になってるお隣さんだ。小さい時に両親が亡くなった奏斗の面倒を見てもらっている。
特に、長女の仁奈とは兄妹と間違われるほど仲がいい。時には、姉妹と間違われることも…
(はて?『千明』だなんていたか?………)
奏斗は一瞬考えてしまったがすぐに思い出した。
「もしや、年の割に綺麗なくせに理想が高すぎるせいでなかなか結婚できないあの千明さんか?」
「オイ…殺されたいのか?小僧……」
額に青筋を浮かべて、殺気を放っている。どうやら間違いないらしい。冷や汗をかきながら彼は弁明する。
このままだと確実に殺されるだろう。
「これは隆おじさんが言ってたことですよ…」
「そうか…とりあえずアイツは殺すとして、だ。お前の言う通り、確かに私は隆の姉の千明だよ。
分かったらその物騒なモノを下げてくれ」
「失礼しました。泥棒かと思いましたよ」
「だとしても、やりすぎだろ……」
(今会話の中でおじさんの死が確定したような……?)
不吉な予感が奏斗の頭をよぎる。自分に害が無ければ良いのだが…
「で、千明さんは俺に用でもあるんですか?」
「やっと、本題に入れるな。お前は『召喚者』という言葉を知ってるか?」
「なんですか?それ」
「やはり何も知らんか…。仕方ない、最初から説明する」
「召喚者っていうのはな、いわゆる世界の調整役だ。しかも異世界のな。
この真宮家と弦崎家は代々この役割を受け継いできたんだ。もちろん私も行ったことがある。お前の親もな」
「ということはあれですか、魔王でも倒すんですか?」
「ラノベじゃないんだ。そんなのはいないぞ。それに魔王よりも人のエゴのほうがよほど恐ろしいよ」
冗談のつもりだったが、随分意味深なことをさらっと言われてしまった。
千明は続ける。
「お前の親は才能に恵まれたのかとてつもなく強くてな。その力を使い、国を興したくらいだ。いわゆるチート使いだな!」
「俺の親はチーターだったんですか…?亡くなったと聞いていますが…」
「あれは死ぬまで異世界に留まるため、と聞いているよ。そうでもしないと、国を作れなかったらしい」
「じゃあ異世界にいるんですか?」
会ったことのない親と会えるかもしれない。そんな思いがよぎった。
が、千明の表情が突然暗くなる。
「実は……1ヶ月ほど前にその国で反乱が起きてな。彼らの消息は不明なんだ……」
「そんな……」
「私がお前を訪ねたのは、お前に異世界に行ってもらいたいんだ」
「両親の代わりに、召還者の役目を果たせ、と?」
「ま、そういうことだ。聞いたところによれば、結構戦えるんだろう?」
「まぁ、それなりには……」
奏斗は幼少の頃、とある理由で知り合いの霊媒師(体育系)のもとで修行をしていた。徒手空拳や剣、はては銃の扱い方まで。
俗に言う《奥義》みたいなものはない。
彼の師匠によれば
「んなもんに頼るな!!」
とのこと。
「で、行くのか?行かないのか?」
「もちろん、行きますよ。親の顔を拝みにね」
それだけが理由ではない。
“異世界”というものがどんなものなのか興味があるのだ。
(ホントに異世界なんてあるのかね…?まあ、どうせヒマだし良いのだが)
「随分物分かりがいいな……」
即答されたことに驚いている千明に奏斗は苦笑しながら答える。
「いやまぁ、思い当たる節が結構あるんですよ」
「そうか…分かったならいいんだが」
「準備はどうすれば?」
「この世界から持っていった物は原則無くならない。といっても食料くらいしか持っていかないな」
「無くならないって…どうなってんですかソレ」
「さぁな~私にも分からんよ」
「んな適当な……」
「オイ…それ持っていくのか?」
千明がベレッタとスカーを指差して聞いた。
「なんかまずいですか?」
「いや、前例が無いからな…」
奏斗にとって銃は相棒のようなものだ。なにしろ師匠から
「いいか?銃は道具じゃない。友達なんだよ!」
などとどっかのサッカー少年みたいなことを常に厳命されていたのだ。気軽に手放していいものではない。
「準備OKです。いつでも行けます」
「ほれ、コレ食べろ」
渡されたのはフリスクだ。…間違いない。
「え?いや…ただのフリスクじゃ…」
「ああ、心配ない。中身はちゃんとしてるから」
こんなので良いのか、と不安になってきた。
「あれ?千明さんは?」
「弦崎家はもう姪っ子に任せている。あいつなら問題ないだろうよ」
(仁菜が?一人で大丈夫か……?)
どんどん不安な要素が増えていく。彼は割と心配性なのだ。
「安心しろ。大体は人の近くに転送できる」
「そうですか…」
一粒食べると、白い光が体を包んでいく。味はミントだった。
「異世界の名はなオルフェリアというんだ。覚えておけよ!」
千明の言葉を最後に、奏斗の全身が光に包まれた。光が消えてゆくと……
奏斗は古びた神殿の祭壇の上に立っていた。
●
何も無いことを嘆いても始まらない。
持ってきたシガレットケースからタバコを取り出しジッポーで火をつけ一服する。
ちなみにこのタバコ、世に出回っているニコチンだの、タールだの体に有害な物質が入っているような代物ではない。彼の師匠が考案した香草や薬草などで作ったむしろ身体に益な物である。
多分合法だ。多分。
(日が沈む前にはなんとかしないとな。となると…動くしかないか)
奏斗は適当に歩くことにした。
最初からグダグダだなぁ…と、とてつもなく心配になってきた彼であった。
更新はおそらく不定期になるかと。