ネコは見ている。。。
「お早うございます。今日もお早いのね」
しゃがれた声にゆっくりと目を開けると、一人の老婆がこちらを除いて立っていた。
左手にゴミ袋を持ち、優しい瞳でこちらを見ている。
二件隣に住むお婆さんだ。
日課になっている毎朝の散歩に、今日はゴミ捨てを兼ねているようである。
【うにぁ~~】とこちらも挨拶を返すと。
優しい瞳はますます細くなり、微笑んで、
背伸びをしながら塀の上で丸くなっているボクの頭をわしゃわしゃ撫でた。
「二ヶ月前にね、40歳の娘がやっと結婚してくれて嬉しいのだけど、家から出ちゃうと寂しいものね。
夫と二人の生活は少し居心地が悪くて……。
でも、毎朝あなたと会えることが、今の楽しみなのよ」
言うと、ゴミ袋を地面に置きポケットから袋を取り出すと、中に入っていた煮干を5匹程くれた。
鼻先に置かれた煮干をクンクンと嗅いで一匹食べてみる。
旨い、旨くはあるが、何でこう皆、魚をくれるのだろうか、
さも当然、魚好きの目で見てくるが、全ての猫が魚が好きだと誤解でもしているのか、知り合いの猫で魚が死ぬほど嫌いな奴をボクは何匹も知っている、気をつけてもらいたいものだ。
しかしボクは魚がすきである!!
「おかしな子ね。美味しそうに食べているのに、尻尾を振っちゃって、嬉しいの嬉しくないのどっちなの?」
微笑みながらも不安そうなお婆さんの手を、ザラザラ舌で舐めた。
煮干は好きですよ~、また持ってきて下さいねぇ~。
「ありがとう、また明日ね、タマちゃん」
お婆さんはボクの頭を撫でると、ゴミ袋を持って、手を振りながら歩き去って行く。残った煮干をほおばりながら、お婆さんの後姿を見送った。
ガチャっ、後方からドアが開く音が聞こえる。
耳をパタパタすると、慌しく近寄る足音が聞こえて来た。
「ソラ行ってくるよ!!」
ゆっくりと目を開けると、そこにはわが主の23歳OLに成り立て、彼氏募集中(よくボクに愚痴ってくる!)が立っていた。
元気なのは良いが、ボクを乱暴に扱うことが多々あるので、家族の中ではあまり近寄りたくない人である。
「何、かったるそうじゃん、尻尾振っちゃって」
かったるいのでは無く警戒しているのだ。
OLは丸くなって寝ている僕のお腹周りをポンポンと優しく叩くと、
「あまり可愛くないと、今日も愚痴の捌け口になってもらうからね!」
それは勘弁とOLの顔をジッと見つめる。
「許して欲しい、それじゃあ」
言いつつ、OLはボクを抱こうと手を出す――――気持ち良く寝ているのに、それも嫌だ。
反射神経が良いのも困った物で、思うと手が出てしまう。
気がついた時には、OLの手の甲をボクの爪が引っかいていた。
「痛ぁぁい!!」
やっちまったあぁぁぁ、これはまずい!直ぐに座って(大丈夫?)の顔をしてみるが、どんな愛らしい顔を演じてみようが、すでに後の祭り。
「可愛くない子ね。ソラなんて大嫌い。
帰ったらずっと愚痴を聞いてもらうからね!!」
怒りながら駅の方へと去って行ってしまった。
あ~あ………こりゃ今晩は大変だ……寝よ。
そろそろ奴らが来る時間だ……。
ふて腐れて寝ていても、危険な時間は分かる物である。
ザッザッザッザッ………
ワイワイ ガヤガヤ ワイワイ ガヤガヤ
ほら、通りの向こうから聞こえてきた。
キャッキャッと賑やかな声が聞こえたかと思うと、突然。
どどどどどどどどどどどどどどどど!!!!
凄まじい程の走り出す音が聞こえてきた。
「小太郎おはよ~~!!」
青帽子を被った華奢な少年が元気良く挨拶しながら、ボクの頭を撫でる。
「ねぇ、何でこの子を小太郎って呼ぶの?」
訊いたのは、同じ青帽子を被った少女ボクのお腹をポンポン叩く。
「だってこの猫、すぐそこの駄菓子屋にいたとき、
そこの婆ちゃんに小太郎って呼ばれてたぜ。
お前小太郎だよなぁ?」
なぁ?と言われても、正式な名前はソラですが、
好きなように呼んで下さい………そして、助けてください。
総勢8人の子供に囲まれて、頭から尻尾まで触られとります。
飼い主に爪で引っかくのはどうも思わないが、子供に対してはさすがに気が引ける。
幸い彼らも学校に登校する身、ある程度気が済めば、
「バイバイ、また明日ね小太郎~」
と声を揃えて去っていく。
子供たちの後姿を見送ると、
ふぅ~とため息一つ吐き、その場から立ち上がる。
今日の日課はこれでおしまい、見上げると、
向かいの塀の上に純白の猫が座っていた。
首にはお洒落なピンクの首輪をしている、
最近、気になる女の子レミちゃんだ。
ボクは彼女に笑顔と共に大きな声で挨拶をした。
初投稿の短編小説、
「ネコは見ている。。。」如何でしたでしょうか、
よろしければ感想お待ちしております。