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"風景"

掲載日:2026/10/07

真っ赤な肉が、華が咲くように左右に開いて居る

割れた頭蓋の内側に肉と眼球と、良く解らないものが広がって居た


この幻覚は現在、僕の躰にめり込むような位置関係で存在して居る

割れた人型が真正面からぶつかってきて、僕の躰とくっついてしまった様な見た目だ

より厳密に言うなら、幻覚は既に、僕の左肩と左胸に棒立ちの姿勢でめり込んで居る

その為、僕の左下部の視界は、ほとんど喪われて居る状態だ



元々はこの幻覚は、もっと離れた位置に存在して居た

常に一定の離れた位置に立ち続けて居て、最初は存在を認識する事も無かった程だ


街中に住んで居るせいか人混みに行く事が多く、初めて幻覚に気付いたのは或る夜、酔い覚ましに外を散歩した時だった


アパートが立ち並ぶ通りの奥に、動かずに立ち続ける人影を視付けた

最初は『頭の大きなやつが居るな』程度の認識だったが、その人影が常に躰を自分の方に向けて居ると気付いた時、少しだけ寒気を感じた


距離を置こうと歩き、振り向いて様子を視る

人影との距離は変わって居らず、僕はそれに自分が追われて居るのだと感じた


アパートの一室に駆け込み、慌てて何度も失敗しながらチェーンを降ろす

『もしかして』とドアスコープを覗くと、遥か遠くのマンションのベランダ、僕から視て左側の部屋の辺りに人影が居た


以来、少しずつ人影は、絶対に視界に紛れ込む様になった

恐らくは、気付くのが遅れただけで以前から存在して居たのだろう

それが日に日に近付いて来ている事が、僕は恐ろしかった


距離が狭まり

姿が明瞭になるにつれ、恐怖はより大きなものとなった


距離が残り数mを切り始める頃には、寝ようとして横たわった天井にすら人影は現れた

起きて居る時でもアパートの一室には人影が、頭の割れた姿で立ち続けて居た

 


距離がゼロになる瞬間が、一番恐ろしかった


誰から云われた訳でも無いに関わらず、あの幻覚に追い付かれれば死ぬのではないか、と云う意識が常に何処かに在った


『あとひと眠りすれば、起きた時には幻覚が僕に触れて居る』と云う距離の夜、僕は恐怖で寝る事が出来なかった


その時には、幻覚に実躰と呼べるものが無い事はおおよそ解って居た

幾度か、恐怖から人影を手で振り払おうとした経験が有ったからだ


警戒はして居たつもりだったが、なすすべは無かった

まばたきを一つした、次の瞬間には人影は僕に触れて居た

その時は心臓が止まるかとすら思ったが、慣れからか諦めからか、恐怖はそれ以来、多少減った気がする




今となっては、幻覚を恐れる事はほとんどなくなり始めて居る

視界はほとんど喪われてしまったが、『眼が視えて居るかのように行動する事が出来る』のだ


理由の説明は大変に困難で、敢えて言葉にするなら『自分の躰の感覚だから』だ


『感覚』と言えば、僕の幻覚と重なり合った部分の身躰器官は、もう総て麻痺してしまって居るようだった



不便は感じて居ない

これも理由の説明が大変難しいが、端的に言うならば『自分の躰の感覚だから』だ

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