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幼馴染を女の子に変えちゃったけど、後悔はしてない

作者: 緋色
掲載日:2026/03/17

突発的に思いついちゃった作品なのであっさり気味。

肩の力を抜いてお楽しみください。

「やー!」

 すぱーん、と。

 擬音にすればそんな感じだった。

 ワイバーンに飛び掛かったかと思ったら、手にした大剣でその首を一閃。

 遅れて胴体が倒れこみ、顎を開いた頭部が落ち、そして――それを成した小柄な姿が、華麗に着地する。

 髪を短くしたボーイッシュなその少女――年は十五、六だろうか――は、身の丈ほどの大剣を振るってついた血を払い、背中の鞘におさめた。

 そうして、くるりと元気よく振り向く。

「お怪我はありませんか?」

「……あ、ああ」

 問いかけられた男は、商隊を率いる長だった。

 仕入れ先から帰る途中、野生のワイバーン一頭に襲われかけて「もう駄目だ」と諦めた時、この黒髪の少女が現れた。

 少女は軽装の鎧、似合わぬ大きさの大剣、素早い身のこなし、そして意思が強そうな、大きな黒い瞳が印象的だった。

 そうして、その朗らかな笑みも。

「それならよかったです! それでは、急ぎますので失礼しますね!」

 言うが早いか身を翻して駆け出したその少女に、男はようやく我に返って声を張り上げた。

「ま、待ってくれ! せめて名前を……!」

「名乗るほどの者ではないので! それではー!」

「え、ええ!?」

 少女のその背中は、みるみる遠ざかり小さくなっていった。

 あまりにも展開が早すぎて、呆気に取られて取り残される長の男。

「な、なんなんだ。夢でも見たのか、俺ぁ?」

「……あれは、アズールウェルさんとこのアキラちゃんっすね」

「お前、あの子を知ってるのか?」

 男の視線が副隊長に向く。

「あたいも助けられたことあるんすよ。そんで……」

 副隊長はしたり顔で説明するも、長の男はもう見えなくなった少女の後姿を求めるように、ぼうっとしていた。

「……よくおっさんを虜にしちゃうんすよね」

 副隊長の声は、やはり届いていなかった。



 アズールウェル魔法具工房は、とある街の裏通りにあった。

 決して目立つ場所にあるわけではないが、よく知られた店であり、人の出入りは多い。

 手が届く値段、高い効果、そして――二人の店員が客を引きつけるからだった。

「サクラちゃん、いつものあるかね?」

「はい、もちろんご用意しておりますよ」

 客の老婆の問いかけに、サクラと呼ばれた店員は、カウンター奥の棚に歩み寄る。

 サクラは長い黒髪を背中まで下した、たおやかな女性であった。

 この地方では珍しい色のその髪、そして同色の瞳。

 彼女がここへ訪れた当初、その黒は物珍しく見られていたが、しばらくしてからは気にされなくなった。

 サクラは棚から湿布を取り出すと、優しく老婆にそれを手渡す。

「いつも通り七日分です。腰のお加減はいかがですか?」

「いやあ、ずいぶん楽になってきた。ありがたやありがたや」

 受け取りながら拝んでくる老婆に、サクラの目が細まる。

 この店はこうした、薬草からなる薬の類も扱っているが、本領は火をつけたり水を生んだりする魔法具である。

 しかし店を構えるにあたって、客からの要望を取り入れていると、自然と品数が多くなっていったのだった。

「本当にありがとうねえ。またよろしくお願いするよ」

「はい。腰以外にも何かありましたら、ぜひご遠慮なく」

 老婆は礼を言いながら立ち上がり、サクラはそれを見送る。

 ゆるやかにドアベルの音が響き、店内は静けさを取り戻した。

 一人になり、さて何をしようか、とサクラは考えを巡らせる。

 ふと目がとまったのは、店内の棚、そこに伏せられている写真立てだった。

 近寄って手に取り起こすと、自らの名前の由来である、桜の木の下に佇む二人が目に飛び込んでくる。

 そこは二人が出会った場所であり、思い出の場所であり――。

 ――そして、二人が死んだ場所でもあった。

 二人の男女が写るその写真立てを、サクラは元の位置に伏せた。

 同時に、ドアベルが元気よく鳴り響く。

 ドアから姿を覗かせたのは、元気という表現がよく似合うボーイッシュな少女であった。

「ただいま、サクラ!」

「おかえり、アキラ」

 まるで駆け込むようなアキラをサクラは迎えて、そのまま抱きしめた。

 そうすると、その身長差でアキラの頭を胸元に抱え込む形になる。

 途端に、アキラは顔を赤くした。

「サ、サクラ。ボク、汚れてるから」

「お疲れさまってことよね。だから、はい」

「んっ」

 サクラはアキラの顔を上向かせ、その小さな唇に吸いついた。

 驚きで止まるアキラ。

 けれど抗しえず、力が抜けていく。

 しばしそのまま、時が過ぎる。

 ぴくん、とアキラの身体が震えたのを確かめてから、サクラは名残惜しげにアキラの唇を解放した。

 けれど、その脱力した小さな身体を離しはしないサクラだった。

 サクラは少し息を荒くしているアキラを、ぞくぞくする内心を隠しながら見下ろす。

「お風呂、一緒に入ったほうがいい?」

「……か、からかわないでよ、もう」

 アキラは身じろぎすると、腰のポーチから取り出した小袋をサクラの胸元に押し付けるようにして、その身体を引き離した。

「はい、頼まれてたのっ。急ぎで必要なんだよね、これ」

「あら、ありがとう。そう言えばそうだったわね」

 受け取りながら、サクラは少々残念に思う。

 だから、これ以上暇はなく、夕飯までやり取りはお預けなのだ。

「ご飯、ボクが作るから」

「ありがとう」

「だから、その」

 アキラは顔をそむけた。

「……つ、続きはそのあと」

 それだけ言って、足早にその場を後にするアキラ。

 その姿を見送って、ようやくサクラはひとり呟く。

「……早く終わらせよう」

 今夜を予想して、自分の身体を抱きしめたのだった。



 カーテンの間から、わずかに差し込む月明り。

 それにかろうじて浮かび上がるアキラの寝顔を覗き込みながら、サクラはさきほどまでの濃密な時間の余韻に浸っていた。

 熱はまだまだひかず、けれどそれは先ほどまでの燃え上がるそれではなく、しっとりと焦がすよう。

 穏やかに眠るアキラの額に唇を落とし、そして起こさないよう柔らかに抱きしめる。

 無意識なのか、すり寄ってくる気配を感じて、サクラの肌の熱はまた高鳴りそうになり、胸は愛しさに満たされた。

 かつては自分より頭一つ大きかったその人は、今や自分の手にすっぽりと収まるほど。

 それが寂しくも思え、また――独占の具現のようで歓喜に震える。

 と同時に、同じだけの罪悪感にも襲われる。

 この世界に来たこと、この姿にしてしまったこと。

 ――その時を、サクラは思い出す。



「――(あきら)はどうなったの!?」

 目を覚まし、まず声にしたのはそれだった。

 地平線も見えない、白だけの世界。

 その中に佇んでいた、恐ろしいほどの美貌、豪奢な衣装の――おそらく女神らしき存在。

 それに蒼井桜は掴みかかるような勢いで尋ねるしかなかった。

 脳裏に光景が蘇る。

 下校中だった。

 何かが突っ込んでくる、かばわれる、そして押しつぶされた――幼馴染の、彼と一緒に。

 女神は、形だけなら完璧な微笑で答えた。

「あなたがたは死にました」

「……――そ、う」

 やっぱり、という感想しか出てこなかった。

 断線するように巡った光景、そしてこの状況。

 よくある筋書きに放り込まれた、と認識できて、桜の激情はさざなみのように去っていく。

「……こうしてそれを説明するってことは、予定外だった、っていう弁明なわけ?」

「システムエラーです」

「最近のAIの方がまだいい答え返すわよ……!」

 表情とはちぐはぐな、淡々とした受け答えに、桜は歯噛みするしかない。

 それを何の感情も交えず、女神の瞳は照らし返した。

「補償として、あなたには六つの願いが授けられます」

「わたしと晶を生き返らせて、元の世界に帰して」

「エラー。それらの願いは承認できません」

 即座の願いは、同じだけの速度で突き返された。

 桜は矢継ぎ早に次の願いを口にしそうになって――思いとどまった。

 焦りをため息として押し出して、唇を舌で湿らせた。

「……願いとは別に聞かせて。晶はどこ? 彼に授けられた願いはいくつ?」

「こことは別空間にいます。願いは一つです」

 それを聞いて、桜は奥歯を噛み締めた。

 優しくて温かくて、いつでも自分のそばにいてくれる大切な幼馴染に、それほどの差をつけるとは。

 軽んじられた、と憤慨するには十分であった。

 かといって感情をぶつけるには、目の前の女神はあまりにも無機質でシステム的で――手ごたえを感じられそうになかった。

 だから桜はその分、頭を回転させる。

「彼はどんな願いを叶えたの?」

「『今度こそ彼女を守れる力を』」

「……っ」

 目に浮かぶ。

 たった一つの願いに、即座にそれを込めたに違いない。

 心臓がえぐり取られるような、そこから何かが迸ってくるような、そんな思いがこみ上げてきて、胸の前で拳を握る。

「だったら、わたしは」

 胸の痛みをこらえながら、顔を上げて女神を睨む。

「彼に、弱さを」

「エラー。相反する願いは承認できません」

 桜は思わず舌打ちした。

「だったら、晶を女の子にして。今度は、わたしが守るの」

「承認」

「……通ったの?」

「はい」

 何の変化もなく、確かめるすべもない。

 桜は疑心にかられながらも、納得するしかなかった。

 そうして、桜はようやく引いてきた胸の痛みに、背筋を伸ばすことができた。

「願いとは別の質問。願いは今、全部叶えないといけない?」

「はい」

「なら、次のお願い。残り四つの願いを、任意のタイミングで叶えられるようにしてちょうだい」

 ――いけるか?

 窺うサクラの前で、女神はイエスともノーとも言わず沈黙し、柔和な笑みのまま停止した。

 それはあたかも、予想外の負荷を与えられてフリーズしたようだった。

「――承認」

 ややあってのその返答は、桜の留飲をようやく下げたのだった。



「――それからなんとか、ここに腰を落ち着けたんだっけ」

 サクラは囁き声を、宙に逃がした。

 竜崎晶はアキラ・ドラゴンケープとなり、魔物狩りとして素材を集め。

 蒼井桜はサクラ・アズールウェルとなり、素材から魔道具を作成する職人となった。

 そうして暮らし、今に至る。

 遠目には姉妹のような、実質的には夫婦と言えるようなその暮らし。

(……わたしはそれに不満はないけれど)

 サクラは、手の中のアキラ――かけがえない宝物に目を落とす。

 かつては逞しく精悍で大きかった彼は、今は小柄であどけない少女となっている。

(……もう犠牲になってほしくないから、守らせないように女の子にしたのは事実だけど……)

 過去を思い出し、サクラは自然と疼きでくねりそうな身体を抑えつけた。

 自然、吐く息は熱くこもる。

(……夜のアキラがすごすぎるから、咄嗟に便乗しちゃった……って言ったら……お、お仕置きされちゃうかな……ど、どうなっちゃうかな、わたし……)

 サクラは申し訳なく思いつつ、その先に期待と妄想を巡らせ――身体の芯を甘く痺れさせたのだった。

読んでくださり、ありがとうございました。

続かないったら続きません。

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