ピアス
ピアスを開けた。
付き合っている人に、開けてないのにピアスをプレゼントされたから。
「私、ピアス穴ないよ? 知ってるでしょ?」
「うん、でも祈里ちゃん、18歳になったでしょ? 成人の時にピアス開けたら、魔除けの意味があるんだって。ピアッサーもあるし、開けてみようよ」
拓真は、嬉しそうにニコニコ笑っている。
彼はピアスを沢山開けていて、私に提案してるのだって完全な善意からなのだろう。
それに、目の前の小箱で輝いている、小ぶりの宝石が付いたピアスはお高そうだ。
私は四つ年上の拓真が大好きだったし、開けたらこれから先、彼とお揃いのピアスを身に付けられたりもするだろう。
痛そうだとは思ったが、親も反対するような人達ではないし、私は拓真に向かって頷いた。
「分かった、でも自分で開けるの怖いし、拓真が開けて」
「やった、僕が開けてあげるって言いたかったんだよね。それじゃ消毒するよ」
拓真は嬉しそうに笑って、私の耳に消毒液を付ける。
低い体温の拓真の手と、消毒液がひんやりとして、背中に寒気が走った。
バチンッ
バチンッ
連続で、両耳にピアスの穴が開く。
それはあまりに呆気なくて、何の痛みも感じなかった。
「全然痛くなかった、ありがとう拓真」
「ううん、穴が定着するまでは仮止めが外せないから、プレゼントしたピアスは一ヶ月後に付けようね。楽しみだなぁ」
「うん、楽しみ」
だけど、その約束が果たされる事は無かった。
穴を開けた二週間後、拓真と別れたからだ。
大学生になった私は、新しい友達と過ごすのが楽しくて、拓真をおざなりにしてしまう日が増えた。
毎日夕方にしていた電話も、しない日が増えて、拓真から大量のメッセージが届く様になった。
『祈里ちゃん、どうしたの?』
『祈里ちゃん、何かあった?』
『祈里ちゃん、大丈夫?』
友達と折角楽しく遊んであるのに、心配する拓真のメッセージがうるさく感じて。
私の方から、別れようと言ったのだ。
ある日、帰宅するとチェストの上に拓真に貰ったピアスの箱がまだ置いてあるのに気付いた。
「もう付き合ってないし、捨てちゃお」
それに、私の耳には今、気になっている人とお揃いで買った安いピアスが付いている。
私はお母さんに頼んで、ピアスを処分してもらった。
ベッドに寝っ転がって、気になっている人からメッセージが来ている事に笑顔になる。
「樹くん、やっぱ私の事好きだよね、いつ告白しようかなぁ」
呟いた時、樹くんのアイコンがいきなり真っ黒に塗り潰された。
なにこれ、アイコン変えたのかな。
私はアプリのホーム画面に戻って確認しようとした。
テレレン
テレレン
いきなり通話の通知が鳴る。
名前を見ると、真っ黒な画面になった樹くんからの通話だった。
私は、初めての樹くんからの通話に浮き足立ち、直ぐに通話開始ボタンを押す。
「もしもし、樹くん?」
「やめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめて」
「ひっ!?」
通話先からは、狂った様に同じ言葉を繰り返す樹くんの声。
そしてそれは、唐突に途絶えた。
ブツッ
部屋の中に人影がする。
私は恐々後ろを振り向く。
「ね、魔除けになったでしょ?」
拓真が、ニコニコ笑って立っている。
その手には処分してもらった筈のピアスの箱。
拓真は怯える私に近付いて、付いている安物のピアスに手を掛けた。
ぶちっ
「いたっ……!」
留め具ごと引っ張って外れた穴からは、私の鮮血が滴る。
拓真は笑顔で、自分がプレゼントしたピアスを、血まみれになった私の耳に取り付けた。
「ダメじゃない、約束破ったら」
拓真は震える私を抱きしめる。
「大丈夫、わかってるよ。本当はこんな事したくなかったんだよね?祈里ちゃんは優しい子だもん。だから僕、ちゃんと待ってたよ。これからもずっと一緒に居ようね」
そう言う拓真の耳には、血まみれになった樹くんのピアスがはまっていた。
後味悪い系、ヤンデレです。




