第9話
「セリーヌちゃんって、ほんとに食べてるとこ可愛い〜。なんか、すっごい癒されるんだけど!」
「そ、そんなことないよ……!」
学食のテラス席で、ミリアちゃんと並んでごはんを食べる。
メニューはふんわり卵のオムライスと、グリル野菜のスープ。
少し濃い味だけど、香草が効いてて美味しい。
「それでね、それでね、今朝の授業で……」
ミリアは話しながら、笑顔でくるくる手を動かす。
褐色の頬がきらきらしていて、本当に太陽みたいだなと思った。
食事を終えると、私たちは裏庭の芝生へ移動した。
人目を避けて静かに話せる、お気に入りの場所を見つけて。
ふたり並んで座って、ぽかぽかとあたたかな陽射しを浴びながら、のんびり過ごした。
「……あったかいね」
「うん。こういう時間、大好き」
目を閉じると、懐かしい記憶がよみがえった。
あの公園。
日本にいた頃。
猫だった私が、捨てられて、ひとりでいたあの場所。
公園花壇の片隅に差し込む日だまりに身を寄せて、
冷えた体を太陽のぬくもりで温めた。
お日様に、抱きしめられてるみたいだった。
それだけで、ほんの少し、寂しさがまぎれた。
——捨て猫時代を思い出すと切なくなることが多いけど、お日様の思い出はあったかい気持ちにさせてくれる。
「ん〜〜、眠くなっちゃいそう」
ミリアがごろりと芝生に寝転がる。
私も真似して、空を見上げる。
……そのとき。
ふと、視界の端に、揺れる桃色の髪が映った。
思わず身体を起こしてそちらを見つめる。
そこには、まるで絵画から抜け出したような、美しい少女がいた。
桃色の長い髪が風にふわりと揺れて、透けるような白い肌に、宝石のような紅い瞳。
背筋がすっと伸びて、品があって、気品と華やかさを兼ね備えている。
彼女は、レオン王子の落としたハンカチを拾い、優雅な仕草で手渡していた。
ふたりの距離は、近い。
自然なやりとりに見えた。
「……あれ、レオン王子……?」
私がつぶやくと、ミリアが隣でひょいと顔を出した。
「うん、そうみたい。あの美人さんはね、フィリシア様。隣国からの留学生で、第4王女なんだって! しかも、Sクラスで王子と同じなんだよ〜」
「そ、そうなんだ……」
目が離せなかった。
立っているだけで絵になるような、完璧な女の子。
ミリアが言う。
「まるでヒロインみたいだよね。……絵本のお姫さまみたいなオーラ、ある」
「……うん、そう思う」
レオン王子は、ああいう子が好きなんだろうな。
気品があって、美しくて、頭もよくて、王族としても文句のない相手。
私なんかとは、違う世界の人。
田舎の伯爵家で、魔法もそこそこ、料理がちょっと得意なくらいの、私。
(きっと私は、あの人と言葉を交わすこともなく、3年後に卒業するんだろうな)
そう思ったら、なぜか胸がきゅうっと締めつけられた。
陽だまりは、まだあたたかいのに——心は、少しだけ寒かった。