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1話


 〇〇県某所


 とある高校生達、男女半々の四人組が閉館した児童養護施設に肝試しと称して夜遊びに来ていた。


「ここはな、昔は養護施設だったんだけどな。ある時、児童の虐待が判明して閉館したらしい。でもな、夜になると出るらしいんだ。虐待で死んだ子供の幽霊が!!」


 グループのリーダーらしき男、西条が場を盛り上げるために、今いる場所がどういう場所か他の三人の説明する。


「もう、西条くんやめてよ〜」


 グループの中のギャル風の女、岡村が怖い話に冗談混じりに答える。


「お前、幽霊なんて信じてんのかよ〜。なあ、一条さんもなんか言ってやってくれよ」


「幽霊なんている訳ないじゃない。バカね」


 グループの中のもう一人の男、斉藤が西条を茶化し、もう一人の女、一条がそれに賛同する。


「それにしても、よくこんな場所知ってたな。西条」


「ん?ああ、兄貴から聞いてさ。夏休みも終わるし、最後に肝試しなんてどうかなって思ってさ」


 どうやら、このグループ一夏の思い出として、最後に肝試しに行こうということになり市街地から少し離れたこの施設を肝試しの会場に選んだらしい。


 「さっそく、入ってみようぜ。鍵は開きっぱなしになってるらしいしな」


 西条が事前に準備していた懐中電灯をつけて先導し入り口の扉の前までたどり着く。


 目の前の木製の両開きの扉は、今にも崩れそうな程黒ずんでいる。

 手形なのか、カビなのか、見分けのつかない染みが点々と浮いていた。

 四人はそんな扉の様子を見て少しだけ怖気付いている。

 そんな中西条が扉の取っ手に手をかける。


「開けるぜ」


 ギィ…ィィ….


 という重く不気味な音を上げながら扉が開く。


 中から吹いた風が、足元をすり抜けていく。


 ……..まるで「ようこそ」とでも言っているかのように。


 扉を開けた西条が懐中電灯片手に中に入り、そのあとを他の三人が続く。


「お、思ったより雰囲気があるな」


 斉藤の言った通り、中の様子は割れた窓ガラスが散乱しクレヨンで壁に絵が描かれておりとても不気味な雰囲気を出している。


「西条くん私こわ〜い」


 そんなことを言いながらに岡村は西条に腕に抱きつく。


「ははは、幽霊が出てきても俺が倒してやるよ」


 そんな軽口を叩きながら、四人は奥に進んでいく。


 しばらく奥に進んでいくとまたもや大きな鍵のついた木製の扉が姿を現す。扉の上にはひらがなの大きな文字でおゆうぎしつと書かれていた。


「また、扉か。今度は斉藤、お前が開けろよ」


「ああ、いいぜ」


 今度は斉藤が扉の取っ手に手をかける。鍵は閉まっていたが、外側から鍵を手動で開けることができる構造になっていた。


 今度の扉は、入り口の扉と違い簡単に開いた。


「お!思ったより簡単に開いたな」


 四人は揃ってお遊戯室の入って行く。


 四人がまず目にしたのはただ窓一つない白い壁だった。


「うーん。何もないな」


「そうだな。ここまで来たのに期待ハズレだが、帰ろうぜ」


 ここで、一条はおかしなことに気づく。


(窓が一つもないなんておかしくないかしら。普通お遊戯室といえば日光を入れるために大きな窓があってもいいんじゃないかしら。それに、あの扉の鍵も何かおかしかった。内側に鍵穴があるなんて、まるで誰かを閉じ込めようとしているみたい)


「ここ不気味だわ。早く出ましょう」


 一条は他の三人に速やかに退出することを促す。


「キャア!!」


 突如、岡村が悲鳴を上げる。三人が悲鳴を聞き岡村に視線を向ける。


「どうしたんだ!?」


「あ、あれ」


 岡村が今まで誰も見なかった扉側の壁を指差す。


 それを見た三人は思わず息を飲んだ。


 壁一面。天井の近くまで、赤いクレヨンで「ごめんなさい」と無数に書き殴られていた。


 大小さまざまな文字。まるで、何人もの子どもが書いたように、筆跡はバラバラだ。

 力強く書かれている物もあれば、手が震えていたのか、かすれている文字もある。


“ごめんなさい ごめんなさい ごめんなさい ごめんなさい ごめんなさい ごめんなさい”


 繰り返えされるその言葉は、謝罪のはずなのに、どこか祈りにも、呪いにも見えた。


 室内はしんと静まり返っているのに、

 今にもどこからか「ごめんなさい」と囁く声が聞こえてきそうだった。


「な、なんだよこれ」


「なあ、早く出ようぜ!!」


 四人は異様な空気を感じ、外に出ようと走り出す。


 バタン!!


 凄まじい早さで扉が閉まる。


 いち早く扉の前にたどり着いた斉藤が扉を開けようと試みるが、


「開かねぇ!!さっきは簡単に空いたのに!!」


 閉まった扉はどんなに力を入れようとびくともしない。


「開かないってどういうことよ!!」


「西条、手伝ってくれ!!」


 今度は二人がかりで扉を開けようとするが、先ほどと同様にびくともしない。


 きゃはは あははは


 扉の奥から複数の子供の笑い声が室内に響き渡る。その声には子供特有の無邪気さとそれ故の残酷さを感じ取れた。心なしかどんどん声が大きくなっているような気がする。


「きゃあぁぁぁ!!」


 ついに恐怖に耐えれなくなった岡村が悲鳴を上げ、扉から離れた部屋の中央に移動する。


 他の三人も中村を追い部屋の中央に行く。


「どうゆうことよ、これ!!」


「俺にわかる訳ないだろ!!」


 今まで冷静だった一条が、恐怖を紛らわすためか西条に怒鳴るようにして問いかける。


 ドタドタ ドタドタ


 天井から子供が走り回ったような足音が聞こえる。この施設に2階はないはずだった。


「今度はなんなのよ!?」


 この間にも笑い声が大きくなっている。壁のごめんなさいの文字も増えていっているように感じる。


「もう嫌ぁぁ!!」


 ついには岡村は両耳を塞ぎうずくまってしまう。


「斉藤!!扉を壊すぞ!!」


 西条が蹴って扉の破壊を試みる。それに斉藤も続く。


 木の扉が劣化して脆くなっていることを期待しているんだろう。


 しかし、無情にも扉はびくともしない。


 ……….コツ………..コツ……


 扉の近くにいた二人は子供の笑い声とは別に何かが扉の奥から近づいてきている足音が聞こえた。


「何かが近づいてくる!!」


 この近くに民家はない誰かが異変に気付き様子を見にきたということはないだろう。一人ということは西条達のように肝試しに来たということはないだろう。


 その事を考えついた二人は扉から離れる。


 どんどんどんどん、足音と笑い声が大きくなる。


 そして謎の子供のではない足音もどんどん近くなる。


 ………….コツ……….コツ…………コツ


 遂には扉の前まで足音の主が到達する。


 ゴクリ


 誰かがつばを飲む。


 四人の視線が扉に集まり、緊張と恐怖が最高潮に高まる。


 バン!!!


 さっきまで絶対に開くことのなかった扉が勢いよく開け放たれる。


 それと同時にずっと部屋の中を鳴り響いていた足音と笑い声が嘘だったかのように消え去った。


 そこには一人の男が立っていた。真夏の夜だというのにコートを纏い、口にはタバコを咥え手には懐中電灯を持っている。


 「あ“?誰だお前達?」


 その男は西条達に気付きこう言った。


「助けてください!!」


「私達肝試しをしてただけなんです!!」


 西条達が男に助けを求める。


 男は部屋の中の様子を見渡し得心を得たように言う。


「あ?・・・・・・あ〜。なるほどね」


 きゃはは あはは


 ドタドタ ドタドタ


 再び、笑い声と足音が聞こえてくる。


 さっきとは違い、今度は部屋の中のあちこちから聞こえてくる。


「ま、また…」


「イヤァァァ!!」


 再び聞こえる始めた笑い声にさっきまで感じていた恐怖が蘇る。


「はぁ、静まれガキども。子供は寝る時間だ」


 男が虚空を睨みながら言葉を発する。

 

 その言葉には不思議とあるはずのない重さを感じた。


 笑い声と足音がピタリと鳴り止む。


「おい、そこのお前ら、一旦ここを出るぞ」


 男は面倒くさそうに西条達に声をかけ、振り向き歩き出した


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