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008 模擬戦—1/4 決闘ではない


「コール! 見に来てやったぞ!」

 唐突な大声に振り返ると、ボイド隊長とシンシア副隊が並んで歩いてきた。


 ——頼んだ覚えないし、そもそも見世物じゃないんだが。

 あと、声がデカい!

 

「今すぐ引き返しても構わんぞ!」


「いいじゃんいいじゃん。親友の晴れ舞台を見とかんとな」


 うちの隊員たちは「ボイド隊長とシンシア副隊だー!」と騒ぎ出し、「どうぞどうぞ!」と場所を開け、飲み物まで差し出している。


 ボイドは「これワインか?」とか言いながら胡坐をかいて座り込んだ。

 


「コール、お前、相当あいつに嫌われてるな」


「……あいつ?」


「模擬戦を挑まれてるのが証拠だろ。よっぽど気に食わないんだな。笑える」


 ——それなー。俺の何がそんなに気に食わないのか?

 心当たりが多すぎて、わからん。


「それより、今回の作戦についてどう思う?」


「作戦?」


「ドグア遺跡の件だよ。あそこ、もともとは観光地みたいなもんだったろ? それが急に魔素の噴き出し地点になったんだ。おかしいと思わないか?」


「俺の記憶じゃ、ドグア遺跡は旧ダンジョン跡というより、古の魔王の神殿跡だったはずだが……」


「コール隊長のご認識で間違いはありません」

 シンシア副隊がすっと前に出て説明を始めた。

 

「ドグア遺跡が発見された際、地下に階層状の構造があることはすでに判明していました。また、その最下層は魔王一族を祀った墓室となっていることもわかっています。

 ゆえに、ドグア遺跡は古の魔王の神殿だとされているのです。ダンジョンとは似て非なる存在なのです」

 

 なるほど……だからジギルが「旧ダンジョン」と説明したとき、違和感があったのか。


「すげーだろ、うちのシンシアちゃんは。性格は残念だけど、頭脳はピカイチなんだ」

 

「残念ってなんですか!」


 シンシアが怒り、ボイドをポカポカと叩く。


 ——ボイド。腹心を『残念』呼ばわりするお前が残念だわ。

 

 あと、声デカい! うるさい!!

 

 まあ、ボイドの言う通り、シンシア副隊が頭脳明晰なのは確かだ。

 

 特に魔素の研究では論文をいくつも発表しており、王国でも第一人者と称されるほどだ。

 学生時代には専用の研究室と助手まで用意されていた……なんて話もある。


 なのになぜ、そんな優秀な彼女が王国軍に? ましてや脳筋ボイドの副官をやっているのか?

 彼女自身は「フィールドワークの一環」と言っているが、やはりその天然全開の性格が理由なのだろう。

 

 ボイドがコップをクルクル回しながらシンシアに尋ねる。

「でも、なんでごまかす必要があったんだ?」


「わかりません」


「単なる言い間違いじゃないのか?」


「ジギルさんが言い間違えるとは思えません。たぶん‥‥‥

 今回の案件を“古の魔王絡み”ではなく、単なるスタンピードの一種として偽装する意図があるのかと……」


「ごめん、意味が分からない。もっと噛み砕いて教えてくれ」

 俺が尋ねた——と、その瞬間。どこからか、太くよく通る声が割り込んできた。

 

「つまり君は、魔獣の増殖の原因は、魔王の復活が絡んでいると考えているのだな」


 声の方へ視線を向けると、いつの間にかカール隊長が座っていた。


「そもそも、情報の出どころも怪しかったな」

 

 カールはそう言いながらコップを手に取り、「赤ワインを」と呟く。

 すかさずトビーが「どぞどぞ」とお酌する。

 

「いずれにせよ、ジギルには裏がある。これは単なる魔獣退治じゃない。最下層に単独で行く理由がある。

 それなのに、お前たちがいると邪魔だと思っている」

 

 カールはコップをあおった。


「だからこそだ。しがらみのないコール隊は監視役にうってつけというわけだ」

 低く響くバリトンボイスの主、ダムド軍隊長が言った。


 ——軍隊長までいつの間に!? しかも、しれっと座ってるし!?


 ダムドは「白ワインで頼む」とトビーにコップを差し出し、トビーは「了解!」と即座にワインを注ぐ。

 

 ちょっとちょっと! なんで王国軍の軍隊長と隊長2人が集まって、こんな際どい話、ここでしてるんだ!? 

 何、この状況。


「軍隊長の狙いはそれですか?」

 カール隊長が尋ねる。


「さぁな」

 ダムド軍隊長はフンと鼻を鳴らし、串焼きにかぶりついた。


 一瞬、場が静まりかえった。


「こりゃ、ますます負けらんねーな、コールさんよ!」

 

 ボイドが大声で笑いながら、俺の肩をバンバン叩く。


 

▽▽▽


「やあやあ! コール隊はいつも賑やかで良いですな」


 ——ん?


 気がつくと、模擬戦の相手である魔特隊の副長、ジギルが立っていた。

 軍隊長たちを見回し、「おや? 皆さんお揃いで」と微笑む。


「ジギルよ、これはあくまで友好のための交流戦だ。決闘ではないぞ」

 ダムド軍隊長が釘を刺す。


「もちろんです」

 ジギルは皮肉っぽくも礼儀正しく頭を下げた。


「交流戦は王国軍模擬戦の軍律に従って行う。そして、今回は勝敗を決めるものではない。それで良いな?」


「了解です」

 俺は短く答え、ジギルに視線を向ける。


「ええ、もちろんです、ダムド軍隊長殿。ただし——あまりにも無様な結果になった場合は、作戦の再考が必要かもしれませんがね」


 満面の笑みを浮かべながら、ジギルは言った。


「そうしよう」

 ダムド軍隊長が淡々と答える。


「さて、お待たせしました。さっそく『交流戦』を始めましょうか」


 ジギルは指を鳴らしてウインクし、薄笑いを浮かべる。


 ——ジギル、お前、いちいちキモいな。周り全員ドン引きだぞ。




お読み頂きありがとうございます!

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